第12話 余命1カ月
歩いて数分目の前の光源がとある一室の前で扉に吸い込まれるように消えていった。
ドアをあけるとそこには梅がいて一言。
「やあ、うまく仲直りできたみたいでよかったわ」
と言う。
俺が案内された場所は闘技場と呼ばれていた機械だらけのあの部屋だった。
「どうやら明日から俺の修業を受けてくれる気になったらしい」
「ふ~ん......なんか嬉しそうね」
ニヤニヤとした表情で俺の顔を覗き込む。
「そう見えるか?」
「そう思うことにするわ」
そう言って昼頃に彩夏が腰かけていた改造バイクのような機械に手を当てた。
「ねえ、この機械。知っている?」
は?急に何の話をしているんだ??
「知らん。そんなことよりさっき彩夏から聞いたんだが1ヵ月後に模擬戦があるって話は本当か?」
「本当よ」
「それに負けたら退学って話は?」
すると梅はキョトンとし、
「あら、そのことも聞いたのね。なら話が早いわ」
「『あら』じゃねえよ。もしそれで彩夏が退学になったりでもしたら.....その......」
「その時は残念ね.......」
梅は俺の首を見て哀れな表情をした。
「ファ?たった1カ月じゃ強くする期限が短すぎるだろ!!そんな無茶苦茶が通るか!!」
「その無茶をやって貰わないとこっちも困るのよ。なんのために大金使って骸くんを蘇生したと思っているのよ。あなたがここで息を吸っているだけで私の魔力もどんどん減っていくのよ。こんな燃費の悪い生き物、成果が出せなきゃ生かしとく意味は無いわ」
そんなの知らんわ!!と猛反論したかったが、これ以上言うとまたアレをされそうな予感がしたのでとりあえず黙っておくことにした。
にしてもこの女はっきりと言い切りやがった。
改めて俺は今の主従関係を思い知らされたことになる。
「別に模擬戦と言っても高ランクの魔術師と戦わせるわけじゃないのよ。対戦相手はランク2のCクラスのメンバーで....」
「何!もう対戦相手は決まっているのか!?」
「ええ、一応.....」
「じゃあ今すぐ教えてくれ。決戦前日にそいつの朝食に下剤でも仕込んどく」
「教えるわけないでしょバカ!!本当にそんなことしたらわかっているわね?」
恐ろしい顔で睨みつけてくる。
冗談が通じない女だ......
「それに、そういう勝ち方じゃなくて実力で彼女たちに勝たせてあげなさい。それをするのが骸くんの仕事よ」
「でもな......」
「安心して。そのヒントになればと思って骸くんを今ここに呼んだのよ」
「ヒントぉ?」
そう言うと梅はなにかスイッチらしきものを押した。
数台の機械が一斉につき、部屋の中央にある大型のモニタが起動しはじめる。
よくわからない俺はただそれを眺めるだけだった。
梅はキーボードでなにかをカタカタ入力し「よしっ」といって俺の前までくる。
「何?......」
「骸くん。これに座って」
その改造バイクを指さしてそういった。
「え.....なんで?変なことするんじゃないだろうな??」
「いいから、こういうのは口で説明するより実際に体験してもらった方が話が早いの」
俺は不審に思いながらもそれに腰掛ける。
「座ったぞ。それで??」
梅は俺の両手足の甲に電極のようなものをはめ、最後に重いヘルメットをかぶせた。
目の前に白いフラッシュが起きる。
体は動いていないのに高速で前に進む感覚。
体感的に数秒の出来事だった。
視界が晴れた時、俺はさっきいた場所と全然違う場所にいた。
来たのは初めてだが、見たことはある。
すぐに気が付いた。
ここは.......昼にモニターで観戦してた彩夏とその対戦相手が戦っていた闘技場だった。
状況についていけず、しばらく硬直状態だったと思う。
そんな俺に後ろから聞き覚えのある声がする。
「こっちこっち」
肩をトントンと叩かれ振り向くと人差し指がほほに当たる。
してやったりの表情で梅はニッとし、俺はその手を鬱陶しそうに払いのけた。
「なんだこれは?俺はさっきまで違う部屋にいたはず.....」
「驚いた?これが我が学院自慢のNDEシステムよ」
「NDEシステム?」
戸惑ってる俺を見て梅は嬉しそうにどや顔で話し始める。
「骸くんはVRってしっているかしら?」
「VR?ゲームとかのあれなら少し知っているが.....」
「そう、そのVRのことよ。Virtual Realityの頭文字をとってVR。仮想現実という意味よ」
「仮想現実.......??.......ってことはまさか.......!?」
「そう、そのまさかよ。ここは仮想現実。骸くんと私はこの空間にいるけどここにはいない。本体の方はさっきの部屋でNDEに座ったまま動いていないわ。脳とリンクされている精神だけがこの世界に転送されているの」
「!?....」