タートルネック仙人の企み
――――如何にも、ワシは仙人じゃ。仙人じゃから、お前がEカップであることも念力で分かる。
魔女に問い詰められると、謎の声はあっさりと自分がタートルネック仙人である事を認め、魔女の身体的特徴まで暴いてきた。
この下品な声はアーサーにも聞こえたらしく、彼は眉を寄せて魔女と水晶玉の間に割り込んだ。
「俺は念力なんか使わないでもパッと見で分かるぞ」
――――なんだと若造が。ワシなんか匂いでパンツの色が分かるぞ。
「俺なんかウインク一発でブラのホックを外せるケド?」
激しいマウントの取り合いだ。これ以上戦うと、どちらかが社会的に死んでしまう。
そんな激闘の横で、表情をいつになく緊張させる魔女。
彼女の水晶玉は、本来なら一方的に盗撮・盗聴するものである。
それなのに、逆探知されてコンタクトまで取られてしまった。ただ者ではない。
タートルネック仙人と名乗る声は、「カメカメカメカメ……」という耳障りな笑い声を上げて、魔女に尋ねた。
――――どうして山へやって来た二人を、監視しておるのかめ? 大方、美少年の方を目当てにしておるのじゃろ。大抵の魔女は少年を太らせて喰う趣味があるでな。カメカメカメカメ……
「そんな事しないわよ! そりゃ、ちょっとポッチャリしたあの子も可愛いかもしれないけど! 食べたりしないわ!」
――――カメカメカメ……まあ、あの美少年とおんにゃのこは、両方ともワシのモンだかめ。元々の身体を持っている妻は久しぶりじゃ! おんにゃのことガキンチョとでW幼妻じゃーはははカメカメカメ!
タートルネック仙人は嫌らしい声でカメカメ笑って、色んな人が悦びそうな計画を晒した。
「おい! 男の子の方は男の子だぞ!!」
「そ、そうよ、用はないでしょ!?」
当たり前だけど大事な事をアーサーが叫ぶ。
魔女も珍しく彼の横でウンウンと頷いた。
――――カーメカメカメッ、美少年は坊主の嗜みじゃ。ワシは仙人だがの!
「な、見境なしってワケか。さすが仙人だな。しかし、女の子の方はどうする気だ……?」
青年モノもイケるのだろうか?
だとしたら自分の下半身がヤバいと感じたアーサーは、気が気じゃない。
美青年なりにそういう危険には敏感だ。
――――今おにゃのこに付いとる若くて元気ビンビンな下半身は、ワシがいただいてパワーアップじゃ~ヒャフーッ!!
アーサーはなんとなく安心したものの、自分の下半身が悪用されると聞いて、激しく抗議をした。
「そんな事はさせんぞ! それは俺の下半身であると同時に、皆の下半身だ!!」
「へぇ……みんなって?」
「み、み……みーんなハニーの下半身だ!!」
「私はアンタの下半身は、木で十分だけど?」
「ハニーは俺の下半身が勝手に爺の人形達を悦ばせても平気なのかい!?」
「勝手に馬を悦ばせてたクセに、なにを今更!!」
魔女にそう詰められると、アーサーはギュンッと魔女のいない方向を見て呼びかけた。※アーサーは都合が悪くなると、会話を放棄し、考える事を止め、クルンと別方向を見てしまう仕様なのだ。
「おい仙人!! アレだ、元は俺のなんだし、そういった縁で感覚共有とか出来ないだろうか?」
――――感覚共有してやってもいいが、弟との時にしてやろう、カーメカメカメカメ!!
「な、なんだと……正気かこの鬼畜が……!!」
「アンタが言うなってば」
――――お! お前らと暇を潰している内に、二人がやって来おったぞぉ! さっきみたいに遠隔補助が出来ぬように、お前の盗撮魔法は切断させてもらうぞ。藻挫威狗・菩化視・星印、破ーーーっ!!
タートルネック仙人が熱のこもった呪文を唱えた途端、魔女の水晶玉にピシッとヒビが入った。
「あ!?」
魔女が慌てて水晶玉へ両腕を伸ばす間もなく、水晶玉はパリンと音を立てて真っ二つに割れてしまった。
――――カーメカメカメ! じゃあな!!
カメカメカメ……と陰湿な余韻を残しながら、笑い声が消えていく。
「ちょっとぉ! 待ちなさいよ!!」
魔女は激オコで喚いたが、もう声が返ってくる事はなかった。
彼女が怒りに肩を震わせていると、ポンとアーサーの手が置かれた。
反射的にその手を思い切り叩いて肩から払い落とした後、魔女が言った。
「タートルネック仙人の住処へ行ってくるわ」
「俺も連れて行ってくれ」
「駄目よ、クソ邪魔すぎるわ……」
「俺も力になりたい」
「大丈夫、オモチャのラッパを持って行くから」
「そんなのより役に立てるもん!!!」
アーサーが半泣きで魔女に縋った。
アーサーは自分の下半身がどうなってしまうのか、とても心配なのだ。
もしも魔女が仙人を懲らしめる事が出来ても、自分の元へ持って来てくれる可能性は低い。かなり低い。
ならば、魔女の役に立つなりなんなりして褒美的な感じで下半身を手に入れるか、はたまた、ルゥルゥと別々になった隙を見て横取りしなくてはいけない。
アーサーの粘りに、魔女がため息を吐いて言った。
「それならアンタにしか出来ないとっておきの事をお願いするわ」
「おお……なんだい? 下半身を取り戻せるならなんでも……」
魔女は、「どんな頼みでもやる気満々だぞ」なアーサーの前に、三つのグラスを用意した。
一つには青い液体を、もう一つには黄色い液体が注がれる。
そして、最後の空のグラスをアーサーに手渡して、命じた。
「二色を入れて、かき混ぜて欲しいの」
「……ふっ、赤ちゃんでも出来るじゃないか。オーケー」
「同じ量を入れなきゃ駄目よ。他のモノも入れちゃ駄目」
「チョロすぎて片手間で女の一人や二人抱けちゃうね。任せてくれハニー!」
アーサーは白い歯をキラリと光らせ、魔女の頼みを請け負った。
魔女は久しぶりにアーサーへ微笑んで見せた。
「紫になるまでかき混ぜていなさいね」
「おお、紫になるのか! 俺の好きなエロい色だ!」
魔女はウンウンと笑顔で頷いて、箒にまたがる。
「帰った時に緑色だったら、罰としてアンタを蛙にするからね」
「了解! 頑張るぜ!!」
「うふふ、頑張ってね!」
魔女はアーサーを適当に応援して、タートルネック仙人のいる山目がけて飛び立った。
*
一方その頃、ルゥルゥとセルジュはタートルネック仙人の住処へと、やって来ていた。
二人とも険しい山登りで疲れ、ヘトヘトだった。
そんな二人の前に、平屋の御殿が現れた。ルゥルゥはもちろん、セルジュも見慣れない造りの御殿は、金の瓦屋根に朱塗りの壁をしている。二人は珍しさと期待に目を見開いた。
「なんだか凄いおうちね、セルジュ!」
「うん。こんな風変わりで立派な家に住んでいるのは、仙人に違いないよ」
二人とも胸を高鳴らせて御殿に近づく。
近づくに連れて、金と赤の御殿から、とても美味しそうな良い匂いが流れて来た。
ゴクリとルゥルゥが喉を鳴らす。
「うしー……? うしはーおいしいですよーこれはーうしのーーにおいですねーー」
「牛の他にも、美味しそうな良い匂いがするね」
「仙人さん、ご飯中かしら?」
二人は鼻をヒクヒクさせて、匂いに釣られながら、御殿の入り口であろう大きな門に辿り着いた。
開け放たれた大きな門の前には、綺麗な女性が大勢立っている。
彼女たちは、ルゥルゥとセルジュを見つけると静々と頭を下げた。
「?」
顔を見合わせ、ルゥルゥとセルジュもペコリとお辞儀を返し、ソロソロと女性達へと近寄った。
「あの~、こんにちは。わたしルゥルゥって言います!」
「ボクはセルジュです。ここにタートルネック仙人さんはいらっしゃいますか?」
女性達は全員同じ微笑みを浮かべて頷いた。彼女たちの微笑みは、微笑んでいる様に見えるものの、感情が感じられない。
だから、微笑んでいるのに無表情にも見えた。
しかし、ルゥルゥとセルジュは浮かれてしまって、彼女たちの表情に気づかない。
そんな二人へ、一番先頭にいた女性が進み出て、再度頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました。タートルネック仙人様が、お二人をお待ちしております」
「え、僕たちが来る事を知っていたんですか」
「もちろん。タートルネック仙人様は偉大な仙人ですから……」
「すごーい!」
ルゥルゥがピョンと跳ねた。脚が逞しいので、かなり高度のある「ピョン」だった。ピョンというより「ビョンッ」な感じだ。
セルジュも喜んで、女性達に招かれるまま御殿の中へ足を踏み入れる。
「どうぞ」
「いらっしゃいませ」
「奥の広間に宴の用意がしてあります」
「うたげ!」
「なんか歓迎されてるのかな?」
首を捻るセルジュに、綺麗な女性が頷く。やっぱり、微笑みを湛えた無表情だ。
「人里から離れた場所に長く暮らしていますから、人間と話せる事を喜んでおいでです」
「へぇ……」
じゃあお姉さんたちは人間じゃないの?
そう聞きたかったけれど、失礼かなと思ってセルジュは口を閉じる。
「こちらが大広間です」
「タートルネック仙人様がお待ちかねでございます」
二人は殊更豪奢な扉の前へと案内されて、ワクワク顔を見合わせた。
両開きの扉を、お姉さんたちがゆっくりと開く。
ご馳走の並ぶ丸い大きなテーブルの向こうに、誰かが座っているのが見えた。




