第9話 最果て
「何も無いじゃん…」
北に天国があると聞いて遥々旅して来たが、たどり着いた先には、底が見えない崖がひたすら続いていた。
「ん〜、方向がズレてたかな〜?」
途中からエバーの肩に乗って来たので、かなり早く着いたのだが、かれこれ半年は旅しているから2、3度方向がズレただけで、とんでもない差が生まれる。
問題なのは、右が左、どっちに向かえば良いのか分からない点だ。
「とりあえずこの辺りに村でもないか探して、聞いてみない?」
間違えたら、とんでもなく大回りになるので、分かる者がいないか付近を捜索すると、1件のボロ小屋を発見した。
「誰かいませんか〜?」
恐る恐るドアを叩くと、中から厳つい兵士らしき人間が出て来た。良く見ると兵士は背中に白い羽があったので天使かな?とも考えたが、天使の輪は無かった
「なんだお前達、何か用か?」
兵士は面倒くさそうに聞いて来た
「すいません、天国って何処にあるか知りませんか?」
「天国を見に来たのか、見えるっちゃあ見えるが、雲に覆われてて下側しかみえないぞ」
外に出て、斜め上方にある巨大な入道雲を指差した
良く見ると、入道雲の下側に岩が出ているのがわかる
「ラ、ラピュタだ〜」
とクーちゃんが大はしゃぎするが、誰も飛べやしない
「どうしよっか…」
3人は途方に暮れた
「もしかしたら、エバーなら飛べない?」
ムツキの提案により、クーだけエバーに乗り込み、エバーに飛ぶようにお願いした。
すると、エバーの背中から六枚のバッタの様な羽が生え、羽ばたいた
「と、飛んだよ…」
「冗談で言ったのに…」
クーが乗ったエバーが飛び回るのを、呆然と見つめるナツキとムツキ
「ヒャッホー!」
操縦桿を握り、大喜びで飛び回るクーとエバー
「又肩に乗る?」
「落っこたら下が見えない奈落の底だよ?」
「操縦席は、エバーがクー以外が乗るのを嫌がるし…」
「エバーの手の中は?」
「何かの拍子に握り潰されそうだよ」
結局、エバーの口の中がまだ安全だろうという結論となり、ナツキとミツキは嫌々エバーの口に入って天国へ向かって飛び立ったのである
「ヒィィィ」
エバーに乗って天国がある巨大な入道雲に近づいていくナツキ達であったが、近づくにつれ横からとんでもない風が叩きつける
「クーちゃん、エバーは大丈夫?」
「風は大丈夫だけど、雷は分からないって言ってる」
確かに、雲の中はあちこち光っているので、雷が発生しているのだろう
というか、雷に打たれたら黒焦げになりかねない
上を見上げると何処までも雲が広がっているので、どれだけ上昇すればいいか検討がつかないが、それ以外検討がつかないので
「ダメ元で上に行くしか無いかな〜」
「エバーに任せて!」
とクーちゃんが言うので、任せてみる事にした
エバーは2000mは上昇したであろうか、だが、雲は以前として続き、上を見上げても雲の果てが見えない
「ん〜、上昇しても無理っぽいね」
そう話したかいなや
「いくよ、『ロンギヌス』」
エバーは炎の槍を右手に作り出し、雲の中に投げつけた
「エッ?!」
驚くナツキとムツキ、炎の槍は雲に巨大な穴を空け、そして雲は掻き消えた
「爆音は無かったので、天国には直撃してない…よね…」
「天国が消滅したなんて事…ないよね…」
と、恐る恐る降下して行くと、都市らしきものが見えてきた、が、都市からワラワラとアリ?の様なものが這い出て来たのである
アリに見えたものが近づいて来た、良く見るとそれは白い羽の生えた人であり、数万の軍勢が此方に向かって来たのであった
「ちょっとちょっと、どうするのよ!」
やらかしてしまった感が半端ないナツキ達であったが、仮にも天使である、何の確認もせずに攻撃してくる事は無いだろう…と、そのまま停滞していた
すると天使達は、エバーを取り囲む様に配置して、武器を構えたのである
今一斉に攻撃されたら、流石のエバーでも…とクーの思いを汲み取ったのか、エバーは右手に炎の槍を作り出した
対する天使達は、あの炎の槍が天国に向けて放たれたら…と、両者暫くの間睨み合いが続いたのである
そんな中、一番被害を受けたのが
「熱い〜」
「し、死ぬ〜」
と炎の槍の熱で蒸し焼き状態になっていた、ナツキとムツキである
クーのコックピットまでは熱が伝わっていなかったが、半開きのエバーの口の中は酷い事になっていた!
そんな中、天使の群勢が2つに割れ、中から1人の幼女が現れた
「我名はミカエル、天使を束ねし者、貴方達は何しにこの地に来たのですか?」
それ程大きな声では無かったが、誰の耳にも良く通り、心地よく聞こえる声であった
「そこの巨神兵、それ以上口を開けば、一斉に攻撃します!」
エバーの口からは白いケムリが出ていた、ナツキとムツキが蒸し焼き状態に耐えられず、氷を作っていたが、作るそばから蒸発していたのである
「巨神兵じゃないもん、エバーだもん」
とクーがエバーの中から反論するが、周りからは巨人が喋っている様に見える
「そう言って口から『ポゥ!』って熱線出す気でしょう『ポゥ!』って」
「だ〜か〜ら〜、巨神兵じゃないんだから口から熱線なんて出さないってば!」
何となく、覚えのあるやり取りと声に、既視感を抱いたミカエルは
「え〜っと…もしかして…あかりちゃんじゃないよね?」
「って、よく見たらヒカリちゃんじゃん!」
「やっぱりあかりちゃんか…アニメ好きが祟って、とうとう巨神兵に…」
と、さも残念そうに漏らすミカエル(ヒカリ)に
クー(あかり)は炎の槍を消す様にエバーにお願いし、コックピットから出てきた
「もう、巨神兵じゃないってば、これは、エバー!!」
エバーの肩を叩きながら力説したが、エバーの表面はかなりの高熱になっていた
「アッツ、何これ、ヒカリ(ミカエル)ちゃん何かしたの?ナツキちゃん、ムツキちゃん大丈夫?」
返事が無い、ただの屍のようだ……が、口の隙間から手が出てヒラヒラ動いているのが見えた、とりあえず生きているらしい
「まあいいや、ヒカリ(ミカエル)ちゃん、母親に逢いに来ただけだから、他の人説得してよ」
ミカエル(ヒカリ)は、あかり(クー)が巨神兵になっていなかった事には安堵したが、現状に
「あかり(クー)ちゃん…貴方何やってんのよ…」
頭を抱えたミカエルがそこに居た
ミカエルが悩んでいると、天使の内の一人が出て来て
「例えミカエル(ヒカリ)様の知り合いといえど、邪な者や脅威となる様な者は、入れてはいけません」
と、忠告した
「なら万が一、あの巨神兵が暴れ出したなら、貴方なら町に被害を出す事なく、止められますか?」
「う…」
「ならこうしましょう、そこの巨神兵を除いた3人の内1人を貴方が指名して、決闘して勝ったら町に入る事を許すというのはどうでしょう?それとも自信がありませんか?」
「いいでしょう、蹴散らしてみせますよ!」
こうして、天使と決闘する事が決まったのである。