第6話 来訪者
「クーちゃん…戻って来ない…」
当初、ムツキはナツキに
「蜘蛛に生まれ変わったなら、大抵が子供の時に死んでしまうし、長生きしても2年位で死んで此方に戻って来るから」
と、慰めていた
ナツキとムツキはクーが戻ってきた時に、すぐ解るように亡くなった場所の側に、以前住んでいた家と同じ形の家を建てて待っていたのである
だが、既に13年の月日が流れた
ひょっしたら行き違いになってしまったのではないか、現世で関係した魂に引かれて別の場所で転生してしまったのではないか、と不安な日々を過ごしていた
そんなある日
バタン!
突然、ドアが勢いよく開かれた
「ただいま〜」
と、そこには見知らぬ女の子がいた
「だ、誰?」
「え〜、クーだよ、忘れちゃったの!?」
その女の子は自分がクーだと言うが、小さな蜘蛛が現世でいきなり人間に転生するなんて事があるのだろうか…ジルの村のオークが又騙そうとしている方が余程しっくりくる
「本当にクーちゃん〜?」
怪訝な表情を浮かべるナツキに
「私は魔女っ子クー、悪に変わってお仕置きよ〜!」
と、クルッと回ってウインクして、指で鉄砲を打つポーズをとった
「クーちゃ〜ん!!!」
とナツキはクーに抱きついた
ムツキは、ナツキより長い時間蜘蛛のクーちゃんと一緒にいた為、雰囲気から十中八九クーちゃんだろうな、とは思っていたが、何でナツキがこれでクーちゃんだと確信したのか、訳が解らなかった。
「えっとね〜現世では、日本であかりって女の子に生まれたんだど、バイクに跳ねられて死んじゃった」
「人間にしたら早死にしちゃったね、心残りとか無かった?」
「死んだ日の給食がカレーだった…」
ガッカリしていたクーに、ナツキはクーちゃんらしいな〜と、あらためて思ったのであった
「クーも行く〜」
クーが戻って来たので、とりあえず宴会用の獲物を狩に出かけようとしたのだが、クーもついて来るときかない
「クーちゃん、狩り出来る?」
「出来る…よ?」
こっちの世界で、人間の姿は初めてなので、自信無さげに答え、目が泳いでいた
「試しに何でもいいから、捕まえて来て〜」
というと、トテトテトテ、ビタン!
盛大にコケた…あれでは捕まえられそうにない…
「クーちゃん、無理じゃない?」
「む、無理じゃないもん!」
そう言うクーの目に、涙が溜まっていた
狩りが出来なければ、おいてかれると思ったのだろうか…
「ん〜ムツキが獣人になるみたいに、変身出来ない?」
「や、やってみる」
希望が見えたのか、少し元気が出たみたいだ
「ハッ! フンッ!」
クーは格好をつけて気合いを入れているが、何ら変化が無い
「クーちゃん、クーちゃん、蜘蛛だった時の感覚を思い出して」
「や、やってみる」
クーが目を閉じると、クーの下半身が変化していき蜘蛛の型になった、俗に言うアルラウネに変身した
「やった〜!」
喜んで飛び跳ねたクーは、3m程飛び上がったのである
そしてもの凄い速度で走っていき、ウサギを捕まえて来たのであった
〜 数日後 〜
ナツキは疑問に思っていた事を聞いてみた
「クーちゃんは、こっちに来て良かったの?」
「クーが来たら、迷惑だった?」
少し不安そうな顔でクーが答える
「も、勿論、クーちゃんが戻って来てくれて大喜びだけど、家族とか居なかったのかな〜って」
ナツキは慌てて訂正した
「ん〜、お父さんと2人暮らしだったからね〜お父さんはまだ現世でピンピンしてるはずだよ」
「あれ?、お母さんは?」
「お母さんは、クーを産んだ時に死んじゃったらしいから、写真でしかみた事がないかな」
「そっか…」
少し、しんみりした空気が漂う
「な、ならお母さんに会いに行ってみようか」
クーの顔が明るくなった
「で、でも何処にいるか分からないよ?」
「お父さんは、お母さんの事何て言ってた?」
ムツキが聞いた
「え〜と、優しくて、すっごい良い人だって自慢してたよ」
「お父さんは頻繁にお経上げたり、お寺や神社に行っていたりしてた?」
「お寺や神社は、元日にお参りする位かな」
「なら、天国に居るはず!、行った事ないけど‼︎」
ムツキによると、この霊界は平たい地面の上に存在し、6つの勢力(六道)があり、上から見て
12時の方向に天国(天道)
2時の方向にオリンポス(修羅道)
4時の方向に魔界(餓鬼道)
6時の方向に地獄(地獄道)
8時の方向に冥界(畜生道)
10時の方向に極楽(人道)
があり、その支配地域以外は全て煉獄と呼ばれているらしい
霊界で死ぬと現世に転生し、現世で死ぬと霊界に転生して輪廻は回る
この霊界に転生する場合は、大抵以前に死んだ場所に生まれ落ちる為、殆どの人は6つの勢力のいずれかで生まれ落ちる事になる
もし、地獄にいた者が現世で善行を積んで善人となり、死んで地獄に戻った場合は、地獄から相応しい場所である天国に引き渡されるらしい
だが、煉獄に生まれ落ちた者は、直ぐに動物や魔物に殺されて、直ぐに現世に逆戻りして、魂が擦り減っていき動物や昆虫等に退化していくか、ジルの様に半人半獣となり長い時を生き、集落等で共同生活をするかのどちらかだという
こうして、ナツキ達は天国に行こうと旅支度を進めたのである。