第5話 現世:あかりとヒカリ
◎ ◎ ◎ 輪廻は回る ◎ ◎ ◎
霊界で死んだクーの魂は、喋れる程の知性を持っていた為か、現世では人間の女の子として生まれた。
そして傍で死んだベルゼブブ、そして異変に気付いたとある天使が仮死状態となり、現世転生したのだが、何の因果か日本であかり、司、ヒカリとして幼馴染になったのである
〜 13年後 〜
「ねね、昨日のセイラー○ーン良かったよね、特に…」
俺の名は黒野 司、俺の前で後ろを向きながら歩いて喋っているのが、多田野 あかり(ただの あかり)、厨二病を患った俺の盟友だ
「あなた相変わらずね〜いい加減、厨二病卒業したら?」
左を歩いているのが、神野 ヒカリ(じんの ひかり)、いわゆる幼馴染というやつである
俗に言う幼馴染ハーレム?と思われるかもしれないが、自分で言うのもなんだが、俺は成績優秀、スポーツ万能、しかもイケメン!
なので、特にやっかみなどは無かったりする、至って普通?な中学生活を堪能している。
「私は魔女っ子あかり、悪に変わってお仕置きよ〜」
あかりがクルッと回って、ウインクしながら指をピストルに見立てて打つポーズをした、次の瞬間
「ギャフッ?!」
あかりは横から暴走してきたバイクに跳ね飛ばされ宙を舞い、血を吐きながらゴロゴロと転がる
「「あかり!」」
駆け寄る司とヒカリ
「き、今日の給食カレーだったのに…」
あかりは最後の言葉を残し、息を引き取ったのであった
〜 翌日 〜
「司くん、ヒカリちゃん、ありがとうな」
あかりの父親は未だに涙を抑えられないのか、ハンカチで目を抑えていた、母親は産んだ時に既に他界している
棺桶の中で眠るあかりは、ただ眠っているんじゃないか、いつもの調子で「早く起きないと遅刻するぞ」と言うと「ん〜もうちょっとだけ〜」と返事が聞こえて来そうである
出棺を過ぎても、未だあかりが亡くなった実感すらない
ふと気になった事がある、あかりの葬式は一般の葬式と比べて、明らかに盛大に執り行われていた
ヒカリに聞くと、なんでも轢いた相手は大企業の御曹司であるらしく、多額の賠償金と共に、葬式代も全て負担したとの事であった
それ以降、登下校時、休憩時間、事ある毎に、いるべき所にあかりが居ない事に気づき、心にポッカリと穴が空いてしまった様に感じる
49日にヒカリと共にあかりの家に訪れ、墓前で手を合わせた
父親は更にゲッソリと痩せこけ、見ていてやるせない気持ちになった
父親が言うには、犯人は多額の賠償金は置いて行ったが、当の本人は葬式にもこなかったという。
更に、犯人は精神病院に入院した経歴もあり、運転時に心身喪失だったという事で無罪放免となった
法律とは、善良な一般市民を守る為のものではないのか?
今の法律は、自己保全しか考えていない弁護士が、法律を拡大解釈した言い分を、どっかのバカな裁判官が認めてしまったからではないのか?
殺人犯しても法的責任ない様なヤツが、街中普通に歩いてる?
それは悪夢でしかないのではないのか?
もし、殺人を犯しても罪に問われない可能性のある者がいるのであれば、その人は病院から出してはいけない、それが出来ないのであれば、現在の法そのものが間違っている
司は、なんとかして、犯人に謝罪をさせる事が出来ないものか、と考えたのである
「この俺が免停の上に保護観察だ〜?
あのボケが避けないから悪いんだろ!」
司か雇った探偵からの報告で、耳を疑う様な犯人の肉声を聞いた
司の親は、司に世の中の仕組みを知って貰う為、中学に入って直ぐに親の名義で口座を開き、元手15万で好きに運用させたのであるが、2年で数千万にまで膨らんでいた。
親の友人に手数料を渡して別の口座を作り、そっちに入金してあるので、親には殆ど増えていない様に見せている
なので、親の友人経由で探偵を雇うなんて事すら出来たりする、手数料はしっかり取られたが…
世の中では、最初から悪い人はいない、人は改心出来る、としている
人々は、聞き心地良い言葉に賛同し、そうでありたいと思う事のみを信じ様とするからだ
だが実際は、残忍で、ロクでもなく、死んだ方が世の中の為になる様な者が多数存在する
更に、探偵からの報告では、毎週金曜日の夜に友人とバイクで隣町のクラブに遊びに行っているらしい
「ふざけるな!」
人1人轢き殺しておいて、2ヵ月と経たない内にバイクの後ろ座席に跨り、遊びに行っていた事が無性に腹が立った
社会が罰しないのであれば、目には目を、歯には歯を、復讐を決意した瞬間であった。
〜 1ヶ月後 〜
「おし!」
朝刊の隅に、2人乗りのバイクが崖から転落して、1人が死亡、1人が大怪我といった記事が掲載されて、司はほくそ笑んだ
仕掛けは至極簡単、バイクなんてものは少しバランスを崩しただけで簡単に転倒し、大怪我や死亡のリスクが付き纏う
犯人は崖のある急カーブを法定速度を超えた速度で走行し、しかもノーヘルで2ケツ、普通に考えて、いつ事故って死んでもおかしくない状況
後は、崖のあるカーブで、走行時の癖から必ずタイヤが通るグリップポイントに少しグリスを垂らして、潰れたグリス缶を崖下にでも放り投げておけば、勝手に事故ってくれて、事故として処理してくれるという訳である
こうして司は、あかりの敵討ちを果たしたのであった
「昨日の戦闘シーンは良かったよな!」
だが、話しかけた先に、あかりはいない…
「あかりじゃないんだから、そんなの分からないわよ」
ヒカリから冷やかな返事があるだけだ
復讐を果たし数日経ったが、警察が来る事は無く、復讐を果たせばスッキリすると考えていたのだが、釈然としない日が続いた。
「まあ、司はあかりが好きだっから仕方ないけど、そろそろ立ち直らなきゃね」
司は今までに無い程の衝撃を受けた、あかりを好きだなんて自覚は全く無かった。
が、思い返してみると、思い当たる節がないでもなく、初恋に気付いた時には相手が亡くなっていた事に、更に落ち込んだ。
そんなある日、少年が一家惨殺して少年院送りになったというニュースが流れ、世間を騒がせた
ふと司は、この世の中が子供を甘やかしているから、人々が堕落していっているのではないか、と考えるようになった
例えば、少年法が12才までなら、これ程少年犯罪が増えないだろう。
例えば、万引きしたら執行猶予なく、即実刑1年以上とかにすれば、間違いなく万引きが激減する。
個人の権利ばかりが優先され、公共の権利を蔑ろにしていった結果、社会全体が腐っていっている様にしか思えなかったのである。
公共の権利とは個人の権利の集合であり、其方を優先するのは当然であるはずなのだが…
そして、社会が重大事件が起こってからでしか、対処しない。
ならば、その重大事件を起こして、社会を正しい方向に修正しようと考えたのである。
であるなら、標的はただ1人である。長年現状を変えようとともせず永遠と口先だけの言い訳しかしていない現首相である。
「首相にはこの国を正す為、尊い犠牲になって貰おうじゃないか」
と悪い顔を見せた。
セラミック製の薄い板に斜めに切り込みを入れ、手の甲と腕に固定して、普通の腕にしか見えない様に上から特殊メイクで隠す。
手首を内側に曲げた時に、折り曲げた所で2つに割れ、鋭利な刃物が飛び出すという単純な仕掛けである。
又、父の友人から紹介して貰った芸能人から、テレビのプロデューサーに話を付け、政治の討論会に参加する事になった。かなりの裏金を支払う羽目にはなったが…
討論会は少子高齢化についてであり、政治家達は
「学業を全て無償化にすべきだ」
「子供手当を拡充するべきだ」
「市町村がもっと積極的に婚活パーティーをすべきだ」
なんて話しているが、司は根本的に間違っていると考えており、手を上げて発言した。
「まず、子供を作るという行為は、子孫を残そうとする本能によるものです
この本能が最も強くなる時が、16〜20才の思春期(発情期)であり、体が最も子作りをしたいと欲求している時期なのです
さて、今の社会はどうでしょうか?生存本能が最も子作りをしたい時に、不純異性交遊だ、恋愛や結婚なんて後から出来る、今は勉強しなさい、結婚は社会に出て自立してからにしなさい、と言い聞かせ
生存本能が衰えた時、そろそろ結婚しなさい、早く孫の顔が見たいと言い張る
根本的に、社会の風潮や仕組みが間違っているから、少子高齢化なんて事が起きるのではないでしょうか
もし、これを正すのであれば、結婚年齢を男女平等という大前提を基に男女共に16歳にして、学生結婚を推奨し、学生で妊娠した場合は学校で褒賞し、20才未満で子供を作った場合には政府から特別金を支払い、大学入試への加点をするべきでしょう
16〜20才での若年結婚・若年出産を、社会全体で祝福し、それが頼りないというのであれば、社会全体で支えていく事こそ重要なのではないでしょうか」
だが、頭の硬い大人達からは
「そんな事は出来る訳が無い」
「社会が見えていないから言える事で、モラルが著しく下り、社会が大混乱に陥る」
と頭ごなしに切り捨てられたのである。
司としては、予想通りの回答であった為、特に反論もせずに討論会は終わった。
司は、当初の打ち合わせには無かったが、急遽首相に握手を求めた。
首相は快く承諾してくれた。
生番組で中学生から握手を求められたら、世間体的に断る事は出来なかったのであろう。
首相に近づく司、後5歩といった所でつまづいた演技をして寄りかかろうとした、その瞬間、右手首を曲げた
パキィン!
乾いた音と共に右手の人口皮膚が敗れて、折れたセラミックが鋭い刃として剥き出しになった。
そしてそのまま司は首相の首に向けて突き刺そうとしたのだが、その時横から人影が現れた
ザクッ!
ヒカリが胸から血を流し、崩れ落ちていたのである。
「な、何故、ヒカリが…」
ヒカリは司と付き合いが長く、あかりが亡くなってから言動や行動がおかしい事に気が付いていた。
更に最近になって司がいなくなる様な錯覚まで覚えた為、後を付けていたのである。
そして、司が首相に握手を求めた。
普段の司からはあり得ない行動であり、飛び出したのである。
そして、次の瞬間
パンッ、パンッ、パンッ!
首相のSPからの銃撃により、司は即時射殺されたのであった。
このニュースは首相暗殺未遂事件を中学生が起こした事、SPが中学生を射殺した事、後日出て来た司の社会に対する不満の数々をしたためた遺書により、連日ニュースを賑わせた
そもそもあの時点で司は殺人未遂の“少年”であり、初犯である事からも刑としては少年院に数年入る位のものであった
「射殺するなんてあり得ない」
「大人であれば十分に取り押さえられた」
「SPの方が過剰防衛で罪に問うべきだ」
等とネットを賑わせた。
後日、事態を重く見た政府は、凶悪化する少年少女の犯罪を無くす為「子供に舐められない社会」をコンセプトとして2つの政策が実施された。
1.少年法を見直し、殺人未遂や強姦等の重犯罪を犯した者、恐喝や万引きの常習犯は、少年法から除外して実刑とし、氏名や写真をメディアで公開した。
2.恐喝やイジメ等の問題児だけを収容する全寮制の学校を各都道府県に1つ作り、各学校から1〜2名選出して収容した。(養護学校が知的障害等がある者が入る学校である様に、情操が足りず社会生活が困難であると判断された者が入る学校)
先生は勉学よりも性根を叩き直す事に重点を置く為、マル暴から引き抜かれた。
給料が倍+成果報酬と高額なのと、体罰も許される事から積極的に教育され、生徒からは恐怖の対象として恐れられた。
この更生学校が施工されて一番喜んだのは、何を隠そうこの学校に入れられた生徒の両親である。
今まで世間から冷たい目で見られ、先生には見放され、将来はヤクザになるしかないと思われた子供が真面目になったのであるから、その喜びは計り知れない。
又、他の学校の子供達も、この学校にだけは入れられたくない、と大人しくなったのは言うまでもない。
この2つの政策が実施されて以降、凶悪な少年犯罪が激減し、次第に大人の犯罪までもが減っていったのである。
これにて、エピローグは終了です。
次話から、第1章天国と地獄となります。