第33話 賞金、借金、そして
表彰式には皇帝ジークハルトから直接賞金が手渡されるらしく、ほぼ全ての観衆が帰る事なく、今か今かと席で待っていた
そして大歓声と共に、金色の鎧を纏った、ライオン頭の獣人の皇帝が現れた
如何にも支配者然としているのだが、ネコミミがピンと立ちピョコピョコと動いて、妙に可愛く見えた
「此度は今話題となっている遊亭の旦那が参加し、レベルの高い戦いで我も楽しませて貰った
この武闘大会で勝ち抜いた2名に、栄誉と賞金を授ける
まず優勝者、遊亭の旦那、前に」
皇帝が握手を求め、旦那が応じる
大歓声が響くが、当の本人はえらく力が入り、握りあっている
「女将とは仲良くやっているのか?」
「ああ!」
どうやら、皇帝は女将に気があるらしく、女将は牽制も含めて旦那を参加させた意味もあるようだ
「続いて、準優勝のナツキ」
大歓声に紛れて「ナツキちゃ〜ん」とクーの声援も混じる
「ほう、女将の故郷は強く綺麗な者ばかりなのだな、見事な戦いであった」
女将と同郷である事を即座に見抜いたのは、王である資質によるものなのだろうか
握手を求められ、少し躊躇するも握手を交わし、そして念願であった賞金50万ゴールドを手渡されたのであった
「これにて武闘大会は閉会します
トトカルチョで儲けた人、大金を失った人、多々いるかと思いますが、これだけはお願いします
逆恨みして大会出場者を闇討ちする事だけはやめて下さい」
どうやら過去に逆恨みして闇討ちした事があったようだ…でも闇討ちじゃなきゃいいのか?とも思ったが心の内に留めておいた
皇帝から手渡すのは優勝者と準優勝者のみだったので、クーは閉会してから受付嬢から賞金20万ゴールドを手渡された
宿屋に戻ると、アリスや見知った顔触れが集まっており
「準優勝おめでとう」
と、沢山の人からお祝いの言葉を頂き、又テーブルには沢山料理やお酒が並び、盛大に祝賀会が執り行われた
「ねえ、この料理やお酒ってどうしたの?」
「私の奢りだから気にしないで」
ギルドの受付嬢はそんなに給料貰っているのだろうか…
「流石に悪いよ、賞金も入ったし半分出すから」
「貴方達のお陰で、かなり儲けさせて貰ったから、大丈夫!」
詳しく聞くと、1番人気と圏外に30万ゴールド賭けて、360万ゴールドの配当があったらしい…
「それもこれも、ナツキちゃん達が教えてくれたお陰だよ」
満面の笑みでそう言われた…
確かに旦那が負ける姿は思い浮かばないとも言ったし、ウチらの実力も分かっているのだから1点賭けで十分な気がするが、苦労して3人で70万ゴールド稼いだのに対して、殆どインサイダー取引で330万ゴールドを儲けたアリス…
納得いかない…
「そいえば、ムツキちゃんはどうしたの?」
宿屋の隅っこでイジけているムツキを見て、心配そうに聞いて来た
「ああ、実は…」
ムツキが旦那に愛剣を取られた話をすると
「ナツキちゃんの剣やクーちゃんの槍みたいなのは、そこらに無いからね…」
「やっぱりそうだよね…」
「ああ、でもお宝が眠っているって噂のダンジョンならあるよ?!」
「え、何々?!」
今まで隅っこでイジけていたはずのムツキが、飛びついて来た
「ダンジョン都市って呼ばれる所で、ダンジョンの中には何故か宝箱があって、色々なアイテムが出るんだって」
「ナツキちゃん、クーちゃん、行くよ!」
「でも、結構遠くて帝国から北東に歩いて行くと2〜3ヶ月、飛んで行っても1週間程かかるし、巨大な蟻の大群がいて帰ってこない人もいるらしいよ」
「飛んで行けば直ぐだね」
ムツキは目の色が変わっている、どうやら行かないという選択肢は無さそうだ…
〜 翌日 〜
カジノに向かった3人にオーナーが出迎えてくれた
「昨日はご活躍でしたね、本日は賞金から一部返金という事でよろしかったでしょうか?」
ナツキは机の上にドスンと、金貨の入った袋を置く
「60万ゴールドありますので、お納め下さい
後、これから少し遠出をするので、次とその次位は納めにこれないかもしれないので、上乗せしておいて下さい」
カジノとしては直ぐに完済して貰うよりも、利子だけ払い続けてくれる方が有難く、いざとなれば遊亭の女将に持っていけばいいだけなので
「どうぞどうぞ、ゆっくりと行って来て下さい」
と、笑顔で見送られたのであった…
「お宝目指して、しゅっぱ〜つ!」
〜 3日後 〜
ダンジョン都市に向けて飛ぶ事はや3日、中継地点に町がある為、休憩がてら立ち寄る事にした
「ここがモケの街か〜」
町の規模としては、遊亭のある町と同じ位だろうか、だが道ゆく人は殆ど猫耳、いたる所に、尻尾を大事そうに抱く少女の像が飾られていた
「あなた達、旅人かな?」
親切そうな、女性が声をかけて来た
「ええ、この町は初めてで、何処か良い宿屋ありますか?」
一瞬人々の目が此方に向いてキラリと光った様な気がしたが、周りを見渡すと此方を気にする素振りも無かった
「なら、この大通りを300m程行くと、アズ屋って名前の宿屋があるよ」
言われた通り進んで行くと宿屋の看板がある店に辿りついた
外見は屋根に少女の像がある以外は普通の宿屋である
「いらっしゃいませ〜」
中も少女の像がある以外は、いたって普通であった
「すいません、3人一部屋でお願いします」
「ランクはいくつでしょうか?」
「ランク?」
「ひょっ、ひょっとして…アズ教徒じゃないなんて事…ありません…よね?」
「アズ教?」
「そ、そうですか…本日は一泊で宜しいでしょうか?」
と言われ、とりあえず宿屋で一泊する事にした
「ナツキはん、起きて〜や!」
「ん、んん…」
中々起きないので、クリ棒の柄がバシッとナツキの横面を引っ叩く
「痛!…な、何?」
と、辺りを見渡すと、一面に甘ったるい匂いが立ち込めていた、以前にマンゴラの触手を切り裂いた時に嗅いだ匂いだ
「ま、マズイ」
体は痺れかけているが、まだ何とか動ける程度である
「ムツキちゃん、クーちゃん!」
2人とも、だらしなく涎をたらして、目が飛んでる
「クリ棒、そこら中の壁に穴を開けて、この匂いを風魔法で廊下に流して」
クリ棒が飛び回り木の壁に穴を開けまくり、風魔法で匂いを廊下へと流して貰った
すると
「うわ、何で逆流してんだよ!」
と、遠くから店員の声が聞こえた
店員が混乱している間にナツキは変身して、尻尾をムツキとクーに巻き付けて窓ガラスを突き破って逃げたのである
翌日、モケの町から少し離れた所で目を覚ました3人
「あ、頭痛い…」
「クラクラする…何があったの?」
昨日の夜の事を話すと
「そ、そういえば、町の人全員まるで私達を獲物でも見つけた様な目で見てなかった?」
「そ、そういえば…」
思い当たる節がある
「私達が完全に麻痺したら、生きたままお腹を切り裂いて食べるつもりだったんじゃ…」
「「ヒィィ!?」」
3人とも身震いした
実の所、トリップさせたまま1週間程、アズが如何に素晴らしいか、店員が力説して洗脳する予定であったが、どちらにしても碌でもない話しであった
こんな所には長居は無用だと、旅路を急ぐ3人であった。
ナツキ:「子づくりしましょ、そうしましょ♪」
ムツキ:「何そのヤバイ歌」
ナツキ:「今やってるゲームのギルド員から聞いた、すももももももの最強◯×計画って歌なんだけど、ちょっと表現が直接的過ぎなんだよね、私だったらもう少し濁すかな」
ムツキ:「例えばどんな風に?」
ナツキ:「中出ししましょ、そうしましょ♪」
クー:「ナツキちゃん、それダメなやつ…」
ムツキ:「何を、何処に、の表現が無いから、聞く人によってはシュー生地の中にクリーム出してるんだな〜て思うかも?」
クー:「思わないよ!」
ムツキ:「まあ…コンパで歌ってヒーローになる位しかないよね」
ナツキ:「それだ!」