第30話 返済
「残金は186万ゴールドになります」
この町に来てからはや半年、借金は減って増えてを繰り返し、残金が殆ど減っていなかった
「嬢ちゃん達、何冴えない顔してるんだい?」
半年もいると、ギルドに来る人とは大抵顔見知りだったりする
「借金が中々減らなくてね…何か割りのいい依頼無い?」
「そんな依頼あったら、俺が受けてるよ」
「そりゃそうか…」
「依頼じゃないけど、賞金が100万なんてのがあるぞ」
「へ?何々?」
何でも10年に1度の武闘大会が開催されるという、優勝賞金100万、準優勝50万、3位と4位が20万と破格であり、過去に優勝した者は参加出来ないといったオマケ付きである
過去優勝した者は、遊亭の女将さん、ローグ、帝国の皇帝アスラン等、そうそうたるメンツであるが、最近では質の低下が嘆かれているらしい
だがその分優勝者の予想が難しく、トトカルチョが白熱して毎回大盛況だったりする
参加費は1人辺り5000ゴールドとお手頃で、対戦相手を殺してはいけないといったルールがある為、腕試しにもってこいだというのも、人気の秘訣なのかもしない
「3人で出場してみようか」
3人はダメ元で、10日後の大会に参加申請をしたのである
〜 大会5日前 〜
「うぅ、いい匂い〜」
沢山の屋台が立ち並び、美味しそうな香りが漂ってきて、クーちゃんが涎を垂らしている
「これよりトーナメントの対戦相手が掲載されます」
と、掲示板の前では300人近い人が、対戦表が貼り出されるのを待っていた
ナツキはCブロック、ムツキはAブロック、クーはDブロックとなり、順調に進めば、ナツキとクーが戦って勝った方がムツキと当たる事になるのだが…
「ねえねえ、これってウチらの知ってる人かな…」
「あの人以外、こんな名前で登録しないんじゃないかな…」
Aブロックに見知った名前をみつけた、遊亭の旦那という記載があったのである
3人は広間を探して回ると
「よう、元気にしてたか?」
向こうから声を掛けて来た、旦那である
「お久しぶりです」
3人は揃って頭を下げた
「ここにいるって事は、お前達も参加するのか?」
「私達3人とも腕試しも兼ねての参加なんですが、旦那が参加するとか詐欺でしょ」
「俺もな、参加したくはなかったんだが、女将がどうしても出ろってうるさくてな…」
「ま、まさか女将さんも来てるの?」
「ああ、過去の優勝者だけが座れる特別観客席で観戦する予定だ、お前達、無様な所を見せるなよ?」
3人は大会にエントリーした事を激しく後悔した
〜 大会開始時間 〜
「さあ、やってまいりました10年に1度の武闘大会、これにて開幕します‼︎」
盛大な拍手と共に出場者が闘技場へと入場した
下馬評では、ダントツの1番人気が遊亭の旦那、2番人気が3大会連続2位のシャラポア、3番人気がジュラ、ナツキ達もギルドでそれなりに狩をしていたはずだが、3人とも圏外である
トトカルチョでは、圏外は一括りの枠で取り扱われ 、1番人気〜14番人気と圏外から、1位と2位を当てる方式である為、8番人気と圏外が同じ位の倍率だったりする
因みに、何故旦那がこの世界で有名なのかというと、旦那がこの世界に来て1ヶ月程経った時に、遊亭から少し離れた場所にヨグソトホートが現れた
旦那が、たまたまその場に居合せ、剣で切り刻んだが直ぐに再生した為、司のハー◯イーンを見よう見まねでぶっ放して消滅させたのだが、近くで見ていた人は感動した
作り出された魔法陣が美しく綺麗だった、カッコいい技名を叫びながら技が放たれたのが新鮮だった
それを真似して、自分の魔法に名前を付けて叫ぶながら放ったら、技のイメージが鮮明になり威力が上がった為、瞬く間にこの世界で流行した
旦那はその第一人者として、伝説となったのである
だが、旦那に勝たせたくないのか、はたまた上位人気をブロック毎に分けてしまうと、配当が低くなり、運営が抜く金額がバレてしまうのを恐れてか、Aブロックに1、3、4番人気が固まっていた
そしてムツキは運悪くAブロックで、しかも1試合目が旦那であった
「旦那〜、お願いが〜」
ムツキが上目遣いで旦那に擦り寄った
「わざとは負けられんぞ」
「旦那のケチ〜」
「もし俺がわざと負けたりしたら、後で俺が女将にどんな目にあわされるか想像出来るだろ?」
「そりゃあ…まあ…」
「なら、お前さんも連れ戻されない様に、死ぬ気でやるしか無いだろ」
仕方ないので、どういった戦いをするか3人で相談する事になった
「多分、旦那はムツキちゃんが怠けていなかったか確かめるはずだから、最初から全力で来る事は無いよ」
「同感」
「なら、最初から全力であたれば、見せ場位は作らせてくれるはず!」
そうこう喋っている間に
「第一試合の人、入場して下さい」
会場スタッフに案内され、入場門を潜り闘技に入ると大きな歓声に包まれた
約10m四方のA〜Dの舞台があり、それぞれに審判がいる
Aの舞台には既に旦那が上がっており、観客席からは聞き慣れた歓声も聞こえた、ギルドでお世話になっているアリスや顔馴染みの連中、そして最前列には異様にニコニコした女将さんかいた…非常〜に怖い…
第一試合の闘技者が全員登った所で
「それでは、第一試合初め!」
ムツキは両手で剣を構えた
「その剣、俺が向こうに置いて来た剣じゃないか」
ムツキがしまった、という顔をしている
「そうかそうか、お前たちが持って来てくれたのか」
「今の持ち主は私なんだから、渡さないわよ!」
と、速さで翻弄しながら切りかかっているが、旦那は何なく避けていく
「ん〜、その剣が持ち主をお前と決めたのなら、俺は依存無いぞ」
旦那は空にとび、片手をムツキに向けて火の玉を複数放つ
ムツキは剣で火の玉を切り裂きながら空を飛び、旦那に切り掛かろうとするが、旦那に易々と躱された
空中戦では旦那の方が圧倒的に早く、ムツキに全く勝機が無いように見えたが
『プリズンメイデン!』
ムツキが叫ぶと、まるで空中を足場にしたかの様に旦那を中心に高速で飛び跳ね、旦那に斬りかかっていき、傷を負わせた
「あの旦那に傷を、ムッちゃん凄い!」
プリズンメイデンは、旦那を中心とした透明な球体の壁を作り、その壁を足場としてムツキが飛び跳ねていた
「ほう、少しはやる様になったな、だが、これならどうするのかな?」
旦那を中心として、炎が広がった
「ああっつ〜いィィ〜」
ムツキはプリズンブレイクを解除して、床で転げ回る、そして旦那をキッと睨み
「これならどう?!」
剣に魔力を込め、斬撃波を連続して放つ
「ほう、少しは剣を使いこなしているみたいだが…剣の声は聞いてはいないみたいだな」
放たれるいくつもの衝撃波をかわしながら、旦那はムツキに近づいていき、剣の刀身を素手で掴む
「なっ!」
驚愕するムツキであったが、剣から強烈な衝撃波が放たれ、ムツキは場外へと弾き飛ばされてしまった
「この剣の名は黒夜叉、どうやら俺を再び主人に選んだようだな」
こうしてAブロックの1回戦は、旦那の圧勝で幕を閉じたのであった。
ナツキ:「残酷な天使のテーゼの作詞家さんって、印税で6億円稼いでたらしいね」
ムツキ:「小説家って儲かるんだね〜」
クー:「それだけあったら、毎日ケーキ食べ放題!」
ムツキ:「1個300円として、200万個!」
ナツキ:「ケーキの個数は置いておいて…18歳下のイケメンと結婚して…」
ムツキ:「なんだと、許さん!」
クー:「そうだそうだ!」
ナツキ:「言われるままお金渡してたら、数億がすっからかん」
ムツキ:「ま、まあ当然の報いというか…」
ナツキ:「更に夫が若い美人の愛人作って逃げられて離婚、気づいた時には7千万の借金まで背負う羽目に…」
クー:「ヒィィィ!」
ムツキ:「怖!」
ナツキ:「金の切れ目が縁の切れ目を体現してるよね」