第3話 紅の豚
「まずは現状の認識を確認します、ドラゴンは全身を固いウロコで覆われており、普通の剣や魔法での攻撃は無意味だと思われます、異論ありますか?」
ナツキ達の家で丸いテーブルに3人と1匹が座り、ナツキが碇ゲンドウの様に腕を組み、聞いた
「ありません」
「俺も無い」
「次に吐き出す炎は凄まじく、私も一瞬で死にました、何か対策はありますか?」
「ありません」
「俺も無い」
「以上をもちまして、討伐は無理、と判断されました、お疲れさまでした」
と頭を下げて立ち去ろうとした
「ちょっっ、お前等!もう少し真剣に考えてくれ!!」
渋々ながら座り直し、現状の装備の確認やら、落とし穴に落としてる埋めれないか等、議論していく
「そもそもお前たちどうやって、その人間の姿でこの煉獄で生き残って来たんだ?」
すると、ムツキが獣人に変身して見せた
「おお、器用なもんだな、そっちの嬢ちゃんも変身できるのかい?」
ナツキも前世では簡単に変身出来ていたが、今回はやった事ないな〜と思いながら変身してみたが、白のナーガに変身出来たのである。
「ズルい…」
1匹だけ変身出来ないでいたクーちゃんが寂しそうにしていた
「クーちゃんもその内出来る様になるから」
ムツキが慰めるも、クーが変身したら何になるのだろう…と疑問を持つナツキであった
〜 1週間後 〜
「ヒィィィ」
私の名前はムツキ、何の因果かドラゴンから逃げている、他の人はドラゴンに追われる事なんてそうそう無いと思うが、かれこれ3度目である
それはもう死にものぐるいで…というか、あの巨大な口に噛み付かれたら、間違い無く死ぬ…
ドラゴンはバキバキと木々を踏み倒しながら迫っている
「も、もう少し!」
若干色が異なる地面をジャンプして過ぎ去ると、後ろでズドン、と大きな地鳴りが鳴った、ドラゴンが落とし穴に落ちた
落とし穴の底には剣やら槍を敷き詰め、ドラゴン自身の重さで串刺しにしてやろう、というジルの発案によるものである
「今だ!」
そこにジルとクーが糸を切って、吊り下げていた巨大な岩を落とし
『『ファイヤーボール!』』
戻って来たムツキと、控えていたナツキは穴の中にファイヤーボールをひたすら叩き込んだ
「さ、流石にやったよね…」
「だ、だよな…」
その時地響きが起き、突風が吹き荒れた
ドラゴンが翼をはためかせ、浮いていたのである
「グォォォ〜」
「んなアホな?!」
怒り狂ったドラゴンの顎に赤い光が収束していく
『『『ウォーターボール!!』』』
直径1mはある水の玉が、ナツキ、ムツキ、クーの前に作られ、ドラゴンの顎に向かって放たれた
水を瞬間的に超高温にするとどうなるか、水蒸気爆発が起きる、はず…
これも事前に打ち合わせた内容であるが、こんな状況になった時点で危険度MAXなのでお蔵入りした案である
放たれた水球はドラゴンに辿りつき…はしなかった、辿りつく前に全て蒸発したのである
だが、そのお陰で辺りは濃霧となり、ドラゴンがブレスを放つ時にはナツキ達を見つけられなかったのである
「あれは…無いわ…」
ウォーターボールが蒸発した時点で万策尽きたナツキ達は蜘蛛の子を散らす様に遁走し、事前に決めておいた集合地点に集まっていた
「だよね…あれで死なないとか、無敵じゃん」
項垂れる一行
「お前たちありがとう、これ以上迷惑はかけられない、世話かけたな」
立ち去ろとするジルであったが、ムツキが手を掴んだ
「ちょっとまちなさいよ、ここまで来たら引き下がれないわよ」
頷くナツキとクー
「どうせ、当たって砕けるつもりでしょ」
押し黙るジル
「しかし、もう策もない、倒せる手段すらない状況で、お前達までこれ以上危険に晒すわけには…」
「どうせ砕け散るつもりなら、自爆覚悟の案を考えればいいじゃない」
「そうね、砕ける散るのはどうかと思うけど、もう一度考えてみましょうか」
こうして、再挑戦を決意したのであった
〜 1週間後 〜
「なんで又私なのよぉ〜」
ジャンケンに負けてドラゴンから逃げるムツキ、地響きを立て、木々を倒しながら追いかけるドラゴン
ドラゴンが何故飛んで追いかけないかは、上空からでは木が邪魔で直ぐに見失なってしまうからだろうと推測したが、ピンチになれば飛んで逃げてしまう為、上空に飛ばれる前に決着を付けないといけない
「ゲッ!?」
今後も落とし穴作戦でいたのだが、前回取り逃がした獲物だと認識したドラゴンは低空飛行しながら追いかけて来たのである
だが、何の策も無いまま、落とし穴の地点に来てしまった
「そのまま飛んで!」
と、ムツキの声が聞こえ、訳が分からないまま落とし穴をジャンプした
後ろを飛んで来たドラゴンは何かに引っかかり、更に両脇の木が倒れて来て、落とし穴に落ちたのである
良く見ると、倒れた木には目に見えない位細い蜘蛛の糸が括りつけてあり、ドラゴンはそれに絡め取られたのであった
「今だ!」
ナツキが蔦を切断すると、穴の回りの木々から、数十本の槍が穴に向けて発射された
これもクーちゃんの弾力ある糸を使い、ボーガンの様に槍を発射したのである
だが、高速で発射された槍もドラゴンの硬いウロコを貫く事は出来なかった、いや、1本だけ目に刺さり、傷を負わせる事は出来た
「グォォォオォォォ〜」
穴から翼を羽ばたかせて、怒り狂うドラゴンが顔をだす。
そして、その顎に真紅の光が収束していく
「やってくれ!」
ムツキは逡巡するが、蔦を切り、先の尖った丸太と、丸太に縄で括り付けられたジルが発射された
木の中はくり抜きの水を入れて魔法で氷にした、水蒸気爆発を狙ってである
だが、ジルは熱波に体が燃え、火ダルマになる。
「ウォォォ〜‼︎」
意識が飛びそうになるのを堪えて、真紅の顎に向けて必死に風の魔法で軌道修正した
たまたまジルが潰れた目の視覚に入っていた事も功を奏し、杭はドラゴンの顎に突き刺さった
瞬間、ドラゴンの口に収束したブレスの熱と杭の中の氷とで水蒸気爆発が起こり、ナツキ、ムツキ、クーも10m程吹き飛ばされた
「ど、どうなった?」
上空にはドラゴンがいない、恐る恐る落とし穴を覗き込むと、首から上が無くなったドラゴンの死体があったのである。