第25話 願い
「ちょっとヘラ、貴方攻撃担当なんだからどうにかしなさいよ!」
その頃クーとエバーはと言えば、未だにアテナとヘラに炎の槍の斬撃を絶えず繰り出し、サンドバッグ状態にしていた
実の所、ヘラもサボっていた訳ではない、攻撃を仕掛けようと火の槍や火の鳥を何度か作り、放ってはいたのであるが、炎の槍の斬撃により尽く消滅させられていただけである
「このままではジリ貧ね…奥の手を使うから、もう少し耐えてて!」
「もしかして、以前に練習してたアレ出来る様になったの?」
「いや…一度も成功した事ないけど、今なら出来る!」
そう言いながら、上空に巨大な火の玉…というかミニ太陽を作りだしていた
そしてエバーの3倍はありそうな直径30m程の大きさにまで達した
「あとは任せた!」
アテナの防御だよりの殆ど自爆技であるミニ太陽が高速で、エバーとアテナに向かって落ちて来た
「「ゲ!!」」
アテナとクーがハモる
「エバー、ロンギヌスをあれに向かって放って!」
エバーがミニ太陽に炎の槍を投擲するが、飲み込まれて更に巨大化して落ちて来た
『ハーロイー◯‼︎』
彼方から極光がミニ太陽の中心部を穿ち、ミニ太陽が爆散して爆風が吹き荒れた
極光が放たれた方を見ると、司が大群を引き連れて此方に向かって来ていた
「やっと来〜た〜‼︎」
「ようやく来たわね」
司の到着に、全軍を指揮していたヒカリ(ミカエル)からも安堵の溜め息が漏れた
オリンポスと冥界軍はルシファーを下したミカエルを警戒し、数にものを言わせて包囲陣をひき、遠距離から攻撃しており、ジワジワと被害が拡大しつつあったのである
だが…
「え?」
司のいる部隊の更に後ろに、倍はあろうかという数の軍勢がいた…それもオドロオドロしい巨大な骸骨やら、巨大な人面蜘蛛、果てはドラゴンの背中に人間を生やしたサタンまでいた
((司、なんでサタンなんて引き連れて来てんのよ、てか何で今まで連絡しないのよ‼︎))
((仕方ないだろ、俺が非戦闘員を安全な場所まで誘導していって、戻ってみたら魔界軍に追いつかれてるは、混乱収集してやっと天国が見えたと思ったらあかりがピンチで、それどころじゃなかったんだよ!))
心のパスでいがみ合うヒカリと司、たがこれ以上状況の悪化を避けたいヒカリは
「一か八か!」
髪が逆立ち、金色に輝く
『か〜め〜は〜◯〜派〜‼︎』
巨大な光がサタンを貫いた
サタンはヒビ割れ、ガラスの様に崩れていった
「おし!」
が、又すぐに別の場所でサタンが現れた
崩れていったものを良く見ると、巨大な鏡の妖怪であった
((影武者か…司、何かこの状況をひっくり返す手は無いの?))
((無茶言うなよ、戦力が倍以上差があって、殲滅魔法の対策までされてる状況で、どうするんだよ!))
((私に任せて!))
殆ど絶望的な状況の中、クーからヒカリに連絡が入った
((あかり、貴方どうするつもりなの?))
((試してみたい事が一つあるの))
そう言い、呪文を唱え始める
「闇よりもなお昏きもの…」
まるで歌う様にクーは呪文を唱えていくと、エバーが金色に光り、両手を広げて宙に浮いていく
((あかり、その呪文だけはダメ〜!!))
とヒカリが叫ぶが、クーに反応は無い、まるで屍のようだ
異様な雰囲気を真っ先に察したヘラはエバーに向けて炎の鳥を放つも、まるで効果がない
「我と汝が力もて等しく滅びを与えんことを、『ギガスレ○ブ!』」
その瞬間、エバーの身体が黄金と闇の明暗を繰り返し、皆既月食の光の様な禍々しく邪悪なオーラを纏ったエバーが顕現した
「ま、まさか本当に異界の神が顕現したとでもいうの!?」
「滅べ!」
顕現したエバーから意思が発せられた
その場にいた天界、オリンポス、冥界、魔界、地獄の覇者達でさえ、その異様な光景と圧倒的な威圧感に戦慄した
霊界を統一する寸前であったオリンポス、冥界、魔界の軍勢はその恐怖を払拭する為、エバーを取り囲んだ
「後の事を考えるな、全力だ!」
ゼウスの号令に従い、オリンポスはアテナが光輝き、オリンポス全軍のオーラが目に見えて強大となり
冥界軍は全軍が剣を天に掲げて雷を集約し、巨大なプラズマを軍の上空に作り上げた
魔界軍は、妖怪達が集まり1体の頭の上にサタンの体がある巨大な黒いドラゴンになった
「殲滅しろ!」
ゼウスの号令により、オリンポス郡上からは幾千の火の玉が、風の刃が、雷がエバーへと放たれ
冥界軍からは巨大なプラズマが放たれ
魔界軍の巨大なドラゴンからは口から炎が放たれた
次の瞬間、オリンポス、冥界、魔界軍の攻撃した者を数万の黒い光が貫き、ある者は上半身が消滅し、ある者は身体の中心に穴が空き、消滅した
ゼウスは片腕を失い、ハーデスは両足を失い、中でもサタンは巨大化していた事が仇となり消滅し、3軍の統率者の殆どは戦闘不能か消滅した
「オォォォ〜!」
天使、地獄軍は勝利の雄叫びを上げた
だが、エバーは天国に向かって歩き始め、近くにいた天使達までも黒い光で消滅させる
天国達は一瞬呆気にとられるが、パニックになり逃げ始めた
だが、まるで蚊でも撃ち落とす様に次々と天使を消滅させていったのである
「クーちゃん、やめて〜」
ナツキが叫ぶも反応が無い
ひょっとしたら…と考えナツキとムツキはヒカリの元へと、飛んでいった
「ヒカリ、クーちゃんにパス繋げて!」
((クーちゃん、答えて!))
ナツキとムツキはヒカリを通じて必死にクーに何度も呼びかけたが、意識が繋がる事は無かった
「ヒカリ、元に戻す方法は無い?」
「解るわけないでしょ、でもこのままだと霊界が滅びるわよ?」
そんなやり取りをしている間にも、エバーが天国に向かってゆっくりと動いている
「もうなりふりかまってられないわ、やるわよ」
「でもオリンポス、冥界、魔界の一斉攻撃で倒せなのに攻撃が通じるの…?」
「ルシファーを倒した時のアレやるわよ、あれでダメならもう手はないわ」
ただ、あの時にはクーとエバーもいて力を注いでいたが、今は倒すべき敵であるのでどうしても足りない
「司、ガブリエル、ラファエル、アリエル、アズライール、私に力を注いで!」
4大天使に司、ナツキとムツキと共にヒカリの背中に手を置いて力を注ぎ、ルシファーを倒した時の黄金の槍が右手に現れた
「いっけ〜!」
黄金に輝く槍がエバーへと放たれたが、エバーからも黒い光が放たれ、一瞬目も眩む様な光が辺りを照らし、互いに消滅した
「こ、これでもダメなの?」
そんな時
((おね…が…い…))
クーと意識が繋がり、クーから膨大な闇の力が流れ込んで来た
「もう一度、後の事考えなくていいから限界までお願い!」
ムツキ、ナツキ、大天使、司にもう一度力を借りて作り出した槍は、クーから流れ込んだ力の影響か、闇そのものであった
「お願い!!」
放たれた闇の槍に対して放たれた黒い光であたが、槍は黒い光を透過してエバーのコックピットを貫くと、エバーは光を失い地に落ちた
一方、ヒカリは咄嗟に黒い光を避けたものの、後ろにいたナツキとムツキは体半分が消滅していた
「ナツキ、ムツキ!」
泣きそうな顔でヒカリは、ナツキとムツキの手を握り締める
ナツキ、ムツキ、クーとエバーの体が、端から光の粒子へと変化していく
「3人一緒…だね……」
ムツキがそう呟くと、3人は微笑みながら光の粒子となって消滅したのであった。