第2話 記憶
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
豚が喋った、言うなら紅の豚の主人公からヒゲを無くした感じだ、もしやあれがファンタジーでいうオークというやつだろうか…だとすると…凌辱される?
「イ・ヤダァァァ〜」
必死に逃げた、それはもう、がむしゃらに!
振り返ると、豚が追いかけてきていた
恐怖に引きつり、家の方へと逃げていく、するとムツキが見えた
「ムツキちゃ〜ん、逃げて〜!」
「あら、ジルさんじゃないの、どうしたの?」
ナツキは拍子抜けしてコケた、そして這いずりながらムツキの後ろに隠た
「知り合い…なの?」
とムツキに尋ねると、近くの集落に住んでいるジルさんだという
「ま、まさか、既に手籠めにされたんじゃ…」
?といった顔をしているムツキの反応を見ると、どうやらオーク=女性を凌辱ではないらしい
「スマンスマン、火の玉が飛んできたのでな、てっきりサラマンダーかと思ってヤリを投げたのじゃよ、すると嬢ちゃんがいて、逃げてったというわけじゃ」
「ああ」
納得がいったらしいムツキ
「そっちの嬢ちゃんは、ムツキさんの連れかね?」
「ええ、現世からやっと帰って来たんですよ、ただ、現世での生活が長かったせいか、此方の事を中々思い出してくれなくてね〜」
何か近所のおばさんの井戸端会議をみているかのようだ…
「そうかそうか、それは良かったな、ならお詫びと、お祝いもかねてご馳走したいから、集落にこないか?」
ムツキを見る限り危険は無さそうだし、他の生活がどの様な物か知りたかったのもあり、御相伴になる事にしたのである
ナツキ、ムツキ、ナツキの肩に乗ったクーは、ジルの後をついていき、歩く事1時間、木の柵に囲まれた村?の様な所にたどり着いた
そこでは、エルフやドワーフやピクシー等様々な種族が暮らして…は居なかった。
見渡す限り、豚、ブタ、ぶた…よく見ると賢そうな豚や、チンピラ風の豚、色っぽい豚等いるが、一面豚だった
断じて綺麗なエルフのおねいさんを見たかった、という訳ではないが…まあ少しは見たかったが…これだけ豚だけだと、出される料理が心配になってもくる
出された料理は何の肉かは判らないが、だだ焼いて切っただけに見える…
「美味い!そしてこの飲み物がとても美味しい!」
ムツキやクーちゃんも大喜びで、騒ぎ、踊って、爆睡したのである
それを見届けたジルは、両手を合わせて合掌した
「ちょっとちょっと、起きてよ!」
ムツキに呼ばれて目を開けたが、何も見えない…目隠しをされているようだ
目隠しを取ろうとするが、身体が何かで巻かれていて身動きがとれない…というか吊るされているらしく、足すら地面についていない
昨日はジルに連れらて行った村で、ドンチャン騒ぎをして…目隠しされて、縄でぐるぐる巻にされて…何かのサプライズか?
「ムツキちゃん、クーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫って状態じゃないけど、怪我はないよ」
「プラプラしてる〜」
「ジルに嵌められたみたいだね、とっとと逃げなきゃ」
縄に火を灯し、焼き切ろうとも考えたが、もし燃え広がった場合、身動きも取れずに丸焼きに…シャレにならない未来が予想出来たのでやめた
「まかせて!」
と、クーが意気込む
ピキッ!
クーの背中が割れ、脱皮して飛び出してきた
「シャッキ〜ン!」
殻の上でポーズをとったクーはナツキの上に飛び乗り、牙で縄をコリコリと削っていったのである
そして10分後…ドサッ!ナツキの縄が切れて床に落ちた
「イタタタタ…やっと解けた〜」
「私も早く出して〜」
「ハ〜イ」
コリコリと削ってくれている
「シャキン!!って簡単に切れない?」
「風魔法使うと、ムツキちゃんまで切れちゃうかもしれないけどいい?
「今のままでお願い…」
それからナツキとクーが協力して、漸く3人とも縄から脱出出来たのであった。
「ここ何処だろう…」
と冷静になり辺りを見渡すと、すぐ側に洞窟がある…何処かで見た事がある気がする…
すると、何かに気付いたムツキは血相を変えて、クーを拾い、ナツキを引っ張ってその場から駆け出した
洞穴からドラゴンが顔を出した、以前にナツキが殺された例のドラゴンである。
「グォォォ〜!」
ナツキも全力で走る…が木を避けながら走るナツキに対して、木を踏みつけて駆けるドラゴン、しかも圧倒的に歩幅が違い、追い付かれるのも時間の問題
『ファイヤーボール!』
ナツキがドラゴンに向けてファイヤーボールを放つが、全く効いていない
「それなら、『ファイヤーボール!』」
ムツキが逃げている方向にファイヤーボールを飛ばすと100m程先に火がついて、一気に燃え上がった
「火の中に突っ込んで!」
一瞬何を言っているのか判らないが、ムツキを信じて火の中に突っ込んだ。
すると、ムツキは急に方向転換をして、少し先にあった木の影に隠れた
ドラゴンはそのまま直進していき、どうにかやり過ごす事が出来たのである。
「ハア、ハア、どうにか逃げ切れたみたいね」
全身黒焦げの酷い状態であるが、どうにかこうにか2人と1匹は無事であった
「ムツキちゃんだけなら、前みたいに木の枝の上を飛んで行けば、楽に撒けたんじゃない?」
「え、前って…ナッちゃん記憶戻ったのね!」
嬉しそうにナツキに抱きついたムツキであった
「ジルめ〜、煮込んでトン汁にしてやろうか」
「そうだそうだ」
怒り心頭のムツキ、クーと一緒にジルに問い詰める為、オークの村に向かっていた。
もし村ぐるみの犯行なら、村に入った途端に捕まって逆戻りという事もありえるので、村の外でジルが1人になった所で拉致する予定である。
そして村に辿り着いた、いや村だったと言った方が正しいだろうか…一面焼け野原がそこにはあった
「何これ…」
焼け焦げた家々を見渡しながら、村の奥に進んでいくと、人影を見つけた
焼け焦げた家の前でへたり込んでいた者は、ジルだった。
ナツキ達が近づくとジルは気付き、走ってナツキの胸ぐらを掴み
「お前たちが逃げたりするから、こんな目にあったんだ!」
理不尽で身勝手な言い分に、思う所はあったが、あまりにもボロボロに泣きながら喚き散らしたジルに、何も言え無い一同であった
散々喚き散らしたジルは大人しくなり、ナツキは何があったか尋ねた
「お前ら済まないな…ドラゴンへの生贄にしたのを棚に上げて…」
全くその通りだが、この惨状を見ると怒りすら吹き飛んだ
「俺は狩に出かけていてな、途中で村の方から煙が上がっているのに気が付いて、大急ぎで戻ってみると、ドラゴンが村人を食い殺し、焼き払っていったんだ」
「あのドラゴンには数年に一度、生贄を捧げていたんだ、その日が昨日で、本来は俺の親友の番だったんだ」
「だけど、お前達に偶然会ってしまったもんだから、欲が出てな…済まなかった」
「だが、こうなってしまったのは、全て自業自得、俺の責任だ」
「虫のいい話なのは承知しているが、俺は叶わないまでも、あのドラゴンに一矢報いたい、何か良い方法が無いか知恵を貸してくれ、お願いだ」
あのドラゴンには一度殺され、昨日も殺されかけた、2度ある事は3度あると言うし、倒せるのなら倒したいという気持ちはあった
「基本戦うのはジルで良ければ、手を貸すよ」
「ああ、それで十分だ、宜しくな」
「それでは、憎っくきドラゴンをぶっ殺すぞ〜」
「「「お〜!」」」
こうして、ドラゴンに無謀な挑戦をする為、一時的にジルと手を組む事になったのである。