第14話 決断
〜 伏魔殿 〜
「よくぞ集まってくれた、魔王諸君」
そこには、地獄の7人の悪魔が集結していた。
強欲のマモン:牛の様な顔とガタイのいい体格で、黒い蝙蝠の様な羽を持ち、ガサツな印象
強欲のベルゼブブ:司
嫉妬のレビィアタン:レヴィ
色欲のアスモデウス:色気のある胸、魚の尻尾、ピンクの長い髪、碧眼、黒い蝶の羽、翼が無かったら殆ど人魚であり、美しいが色目遣いが鼻につく印象
怠惰のベルフェゴール:羊の様な角、孔雀の様な黒い翼、銀色の短髪、黒い瞳で全ての者を馬鹿にした様な、とあるのアクセラレータを彷彿とさせる
傲慢のアザゼル:山羊の様な角、黒い翼、黒色の長髪で、常に瞳を閉じて冷静沈着な印象
憤怒のルシファー:黒の少し長めのオールバック、黒い瞳で、背中に黒い羽があり、少し目つきがキツく理知的な印象、漆黒の鎧を着ている
円卓に座る7人の魔王達、その1人であるルシファーが立ち上がって問う
「さて、数世紀ぶりに魔王が一堂に会した訳だが、皆は今、現世がどの様な知っているだろうか?」
問い掛けたが、誰も答える者はいない
「文明が発達し、大気を破壊して日光が強烈に降り注ぎ、更に火を多用して熱を放出し、星そのものが温まって来ている
星が温まれば、気流が活性化し、海流が活性化し、果ては火山活動が活性化する
大規模な噴火が各地で持続的に起これば、火山灰が空を覆い尽くし恐竜が絶滅した氷河期の再来となってしまうであろう
地球が数億年かけて生命が生まれ、進化して来たのは、熱くなり過ぎたら冷やし、冷やし過ぎたら温めるといった、地球の自己修復作用があったからに他ならない
さて、これを打開する手立ては無いものかと、部下の潜在意識に世界が危機である事を植え付けて仮死状態にして現世に転生させてきた
現世では、熱を発生させない太陽光発電や、地熱発電、風力発電、水力発電を作り上げたりもしたが、人々は費用対効果ばかりを追求し、大した成果は得られ無かった
もう既に残された時間は少ない、火急的速やかに対処するしか無い」
「して、その手段とは?我々が集められた事にも関係するのかしら?」
と、レヴィが発言した所、ルシファーは一瞬躊躇し、重い口を開く
「現世で大幅に人を減らすしか手はない、それも早急に、此方から直接手を下すのは不可能である事は皆知っている事と思う」
「では、どうするのです?」
「現世が崩壊するのを阻止する為、天国との全面戦争:ラグナロクを発案する
霊界と現世は表裏一体であり、過去の霊界での大規模な戦争では、必ず現世でも大規模な戦争が起きている
現世で氷河期になり98%の人々が死に絶えるのが良いか、戦争で70%の人々が死に、文明が崩壊して氷河期を回避出来るのが良いか、考えて欲しい
決議は3日後、この場所、この時間にとり行なう
各自、よく考えてくれ」
こう締めくくった瞬間
「オッシャー、これで長き因縁を晴らせる!」
「今までの屈辱、倍返しですわ!」
「戦争だ〜!」
と、マモン、アスモデウス、ベルフェゴールがいきり立った。
こうして、会議は一旦解散となり、魔王達はそれぞれの城に戻った。
だが、ベルゼブブのみルシファーに呼ばれた
ルシファーは十数年前にベルゼブブを殺したのは自分であった事を打ち明けた。
ルシファーが極秘で動いていた為、他の勢力に知られない為には、あの場で大規模な戦闘が行われるのは都合が悪かった事。
魔王の中で1、2を争う知恵者であるベルゼブブであれば、ひょっとしたら現世で世界を変えてくれるのではないか、とう期待があった事。
結局、水泡に帰したのではあるが…
「だが、すまなかった」
と頭を下げられた。
薄々ルシファーだろうなと思っていたので、問題無い事を伝え、司は自らの城に戻っていったのであった
「ベル様のお帰りでございます」
と、侍従がドアを開けると、ベル様〜とヒルダ抱きつきて来た、奥からは、お帰り〜とソファから手だけが3人分ヒラヒラと振っていた
司は少しイラっとしたが、自分の家の様にくつろいでくれ、と言ったのは自分なので、グッと堪えた
司はヒルダと3人を会議室に呼んだ、3人は完全に部外者であるが、第三者の意見も聞いてみたいと考えたからである
「さて、ここに集まって貰ったのは、ラグナロクが発議されたので、皆んなの意見を聞きたい」
「や、やっと雪辱を果たせるのですね」
とヒルダはやや涙ぐんでいる
「ラグナロクってなに?」
とクー(あかり)が不思議そうに尋ねる
「ラグナロクとは、天国との最終戦争という意味だよ」
「何のために?」
とクー(あかり)
「あかり(クー)は現世で地球温暖化って聞いた事あるだろ、重な原因は2つある
一つは太陽光を反射するオゾン層が破壊され地表に到達する光が大幅に増えた事だ
これは、昔より日の光が強くなった、昼と夜の寒暖差が大きくなったと実感したんじゃないか?
もう一つは人口増加による火の使用量の増加
これらが原因で地球全体が温度上昇し、地震や火山活動が活発になり、断続的な火山噴火が起きて地球全体が灰で包まれ、今度は太陽の光が届かなくなって、逆に氷河期になってしまうんだ
簡単に言うと、地球の自己修復作用が働いて、温度が上がり過ぎたから冷やそうとするんだ
もし、そうなったら殆どの人々が死に絶える、それを防ぐ手立てを今迄講じていたけど、全て失敗した
霊界で大規模な戦争を起こせば、連動して現世が大規模な世界大戦に突入し、文明の崩壊と共に地球温暖化に歯止めがかかる
氷河期で人口が1/50になるのと、戦争で人口が1/3になるのを比べたら、どちらが良いかなんて一目瞭然だろ?」
クー(あかり)は話が難し過ぎて、放心状態だ
ナツキは、悪魔とはもっと野蛮で身勝手であると考えていたので、暫し呆然としていたのだが
「もし核兵器が使用されたら、人類が死滅するんじゃ?」
「考えてみな、核を作るにも莫大なお金がかかるだろ、都市部には落とすかもしれんが、人が住んでるのかさえ怪しい所に落とすと思うかい?」
ごもっともである
「でも、司はヒカリと戦えるの?」
とクー
「戦うも何も、天国の一般市民には手を出す事は無いよ、天国は魔王の故郷みたいなものだから、極力戦場にしないんじゃないかな」
「ヒカリは一般市民じゃなくて、大天使ミカエルだよ?」
「はあ?!」
と立ち上がり驚く司、やはり知らなかったらしい
そういえば、とヒカリとの約束を思い出し、頭の中でヒカリに話しかけた
((もしも〜し、ヒカリちゃ〜ん、生きてる〜?))
((遅いじゃない、どう?何か分かった?))
((ん〜とね〜、ラグナロク?最終戦争?ってのが起きるかも、だって))
((ちょ、何それ!?、何がどうなってんの?誰からそんな情報が?))
((司から今相談されてる))
((あかり、司に触れられる?))
クーが司に触ると、頭の中でヒカリと司が話し始めた
((司、最終戦争って、いったい何やらかしてんのよ!))
((やっぱりお前が、ミカエルだったんだな…))
困惑した様子の司は今までの経緯を説明した。クーは難しい話しを聞いて眠る寸前だ
((と、まあ、そんな訳だが、他に代案あるか?))
押し黙るヒカリ
((…結論はいつまで?))
((まともな温暖化対策の代案が無ければ、天国に恨みを持つ交戦的な者ばかりだから、明後日議決されると思う))
((とりあえずこっちでも検討してみるから、明日のこの時間にあかりに触れて、繋いで貰える?))
こうして、長い夜がふけて行くのであった
「どうすれば…」
ヒカリ(ミカエル)は頭を抱えていた
今から仮死状態になって、現世を導くとしても、潜在意識にしか記憶が無く、最近現世に行った経験上、氷河期の到来を止められる確率は極めて低い
温暖化の認識が、地獄より天国の方が甘かったのは皮肉でしかないが、あのルシファーが出した結論である、間違ってはいないだろう…もう八方塞がりでどうしようもなかった
霊界の2大勢力が激突すれば今まで同様、現世でも大きな戦争が起き、文明は衰退し、人口もかなり減少するだろう
ただ、氷河期になり、ほぼ死滅するリスクを考えると、他に手は無い様にも思える
もし、天使と悪魔が死滅したら、天国と地獄の運営は誰がするのか、その他勢力から一方的蹂躙され、混沌に向かうのではないか
例え、一か八かの勝負の代案を閃いた所で、天使に恨みを持つ他の魔王達は確実な代案でない限り納得はしないであろう…そもそもあのルシファーが無いと言っているのであるから、確実な代案などあるはずもない
戦争が回避不能だとすると、問題はどう戦争の被害を少なくするか、である
〜 翌日、交信の時間 〜
「あかり(クー)に触ればいいんだよな?」
と後ろからクーを抱きしめた
「ギャー」
と司を引っ掻くクー
「イテテ、ちょっとした冗談じゃないか」
と悪びれる様子もない司
「司、そこに座って」
と座った司の肩に触れるクー
((どうだ?結論は出たか?))
((戦争は回避出来そうにないから、被害を少なくする方向で考えたわ
1.戦争は誰もいない所で行う
2.私かルシファーが打たれた場合、即座に決着とする
3.天使が負けた場合、貴方達が天国から追われた様に、天使は天国から出て行く、悪魔が負けた場合、地獄に天使を派遣して統治するわ、人間は鞭ばかり与えても中々改心しないもの、飴と鞭で調教しなきゃ、まあ飴は天使が与えるのだから、天使への信仰心が増えるという打算は否定しないけどね
この3点で妥協出来ないかしら?))
((まあ、そんな所か…ヒカリには現世で世話になりっぱなしで悪いが、次会うときは敵同士だな…お互い生き残ったら、又3人で仲良くやろうや))
((そうだね、お互い生き残ったらね…))
こうして通話を終えたのであった
〜 決議の場 〜
ベルゼブブがヒカリ(ミカエル)から提案された内容をそのまま提案した
敗北条件に実質天使の下僕扱いされる可能性もあったが、魔王全員がルシファーが負ける姿など想像さえ出来なかった為、何の抵抗もなく提案は受諾された
ルシファーは天国を作った神と呼ばれたエデンと共にいた者であり、別格の存在として崇拝されていたのである
魔王が天国から追われた聖魔大戦では、ルシファーはどちらにもつかなかったのだが、もし魔族側に付いていたら今とは正反対の結果となっていたのは誰も疑っていなかった
詳細を決める議論の結果、1ヵ月後にラグナロクを発動する事が決議された
天国への連絡方法としては、やはりクー経由が一番手っ取り早い為、3人がルシファーに呼び出されて、正式にルシファーからミカエル(ヒカリ)に伝えられたのである。
第1話の後書きに、指乗りクーちゃんの写真を追加しました。