第11話 世界樹
「ミカエル(ヒカリ)様、大変です!」
翌日の早朝、天使が数名駆け込んで来た
天使達はヒカリの元に駆け寄り、なにやら焦った様子で話し込んでおり、一通り話し終えると、ヒカリが何か指示して出て行った
「貴方達、何したの?!」
何したのも何も、寝ていただけなので
「あかり(クー)ちゃんは母親と、私とムツキはこっちのペットで寝ていただけだけど?」
「その前よ、此処に来る時に、雲をかき消したでしょ、あの雲は過去に何回もかき消された事があったけど、今までは半日もあれば元に戻っていたのよ
あの雲は、雑魚であれば寄せ付けないから、天国の守りの要といってもいい代物なの、ねえ、何したか言いなさい!」
と、詰め寄られたが
「そう言われても…エバーが作った炎の槍で吹き飛ばしただけだしね〜」
「ひょっとしたら、昔エデンの園で見かけた2人組が何かしたんじゃ?」
そう言うと、何かしら思い当たる節があったのか、ヒカリは考え込んだ
「ねえ、これから一緒に世界樹に来てくれない?」
そう言われて、一行は揃って世界樹の元に向かった
町の中央に向かうと、左右に広がる高い壁があり、壁の上には数名の天使が警備しており、ヒカリが指示すると巨大な門が開いた
中は、幻想的とも言える程、綺麗な色取り取りの花が咲く花畑が広がっていた
「わ〜、こんな綺麗な所があったんだね〜」
と、クーが洩らすが、ナツキとムツキも満更でもなく、言葉が見つからない様であった。
「此処がエデンの園ね、来て欲しいのはあそこの世界樹」
と指を差したのは、花園の中央にそびえ立つ巨大な木であった
世界樹に近いていくと、遠くから見るのと違い、とてつもなく巨大であった
ふとヒカリ(ミカエル)を見ると、何か思い詰めた様な、不安な顔をしている
木の幹には階段があり、登って行くと、幹中央に巨大な扉があった。
ヒカリが恐る恐る取っ手に手をかけ、引っ張る
ギィィィィ!
扉が開かれ、ヒカリは絶句した
そして早足で中に入っていき、ナツキ達も後を追う
中は階段と左右にランプがあり、ヒカリが入ると、ランプが一斉に灯っていく
奥に進むと突き当たりに祭壇があり、ヒカリは呆然としたまま暫く立ち尽くしていたが、重い口を開いた
「ここの入り口の扉は、誰も開ける事が出来なかったのよ…」
遥か昔、エデンとルシファーが世界樹とエデンの園を作り、天にあった事から、天国と呼ばれる様になった。
やがてエデンがいなくなり、ルシファーが天国を去り、大天使が管理する事になったが、ヒカリを含め誰も扉を開ける事が出来なかった為、放置していたという
クーが祭壇を見て回っていると、菱形の穴が開いていた
試しにカリ棒さしてみると、穴はカリ棒より小さく、刺し込めなかったが
「この穴、力を吸いとるぞ」
と、クリ棒が喋った
「何その剣、魔物?」
「一応、魔物では無い…はず…だよ?」
ヒカリも驚いていたので、喋べる剣は相当珍しいらしい
クリ棒曰く、先を少し入れただけで、力が吸われたらしい
「ここにあった何かが雲を作る力を注ぎ続けていた、と見るべきかしら…穴に力を注ぐ事で天国を包む雲は再生するかもしれないわね…とすると、14年前の人影ってのが、ここにあった何かを持ち出した可能性が高いかな…
貴方達が探す2人組と時期が同じだから、同一人物である可能性があるのだけど、もっと詳しく教えてくれない?」
蜘蛛だったクーちゃんがベルゼブブと名乗る者に殺され、そのベルゼブブは2人組の片割れに瞬殺されたと、説明した
「はぁ? あのベルゼブブの死に貴方達が関与してて、しかも誰かに瞬殺された?」
驚きを隠せないヒカリ、段々と表情が険しくなっていく
「考えたく無いのだけど…ベルゼブブを瞬殺出来る人物なんて、ルシファー位しか思い当たらないんだよね
もしルシファーであるなら、誰にも気付かれず天国に侵入し、誰も開けられなかった世界樹の扉を開け、そこにあった物を持って行ったとしても、不思議は無いわ」
だが、エデン様亡き後、ルシファーが誰かとつるむなんて事は無かった
エデン様が復活された?とも考えたが、復活されたのであれば、皆の前に姿を現すはずだ…
もう一人の人物は誰なのか?
持って行った物は何だったのか?
何故味方であるはずのベルゼブブを殺したのか?
分からない事だらけであった
誰もが黙り込み、重くるい空気が漂う
「ねえ、貴方達が探していた2人組の1人がルシファーかどうか、地獄に行って確かめて来てくれない?」
正直、2人組には文句の1つでも言ってやろうと思っていただけなので
「いやいやいや、地獄なんて物騒な所、行きたくないよ」
「あかり(クー)の母親を、探してあげたじゃない」
確かに貸しだとは言われたが、余りにも釣り合いがとれてないので、理由をつけて断りたい
「そもそも地獄って簡単に入れないし、入ったら無事に出られないでしょ」
「あの巨神兵が一緒だと、近付いただけで総攻撃食らうけど、3人だけで行くなら、あかりちゃんがいるから簡単に入れると思うよ」
「へ?私、地獄なんて行った事なんかないよ?」
と、不思議そうにクーが答える
「司だよ司、司がベルゼブブだから、観光案内位訳ないはず」
「えええ〜」
驚愕するクー
「元々、ベルゼブブが死んで、現世に転生したのを知って、何かやらかすんじゃないかと思って、私も仮死状態になって現世に転生したんだけどね、結局私も司も、あかりちゃんが死んだ後、直ぐに死んじゃった」
と、陽気に暴露したのである
「う〜ん、司は私の事覚えているかな〜」
「忘れている事は絶対ないよ、これは断言出来る、むしろ…
ま、まあ地獄の門番にでも、司に取り次いで、と頼めば難なく入れるはず
場所としては、煉獄の真南だから、気づかれない所までは巨神兵で飛んでいくといいよ
後、連絡はあかりと魂のパスを繋げておくから、私を思い浮かべれば話しが出来るはず、やってみて」
クーは、コメカミを押さえて、う〜んと唸りながら
「聞こえますか、此方、あかりです」
「聞こえるけど…声に出したら、意味無いでしょ」
目を閉じて、私の顔を思い浮かべながら、心の中だけで話してみて
((此方あかりです、聞こえますか、どーぞ))
((此方ヒカリです、聞こえますよ))
「おお〜、話できた」
こうして、ヒカリに押し切られた形で地獄行きが決定したのであった