第1話 転生
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人は何故、ファンタジーに惹かれるのか
それは「真実」がそこに隠れているから
かもしれない
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「ムツキの馬鹿~」
私の名前はナツキ、珍しい白色のナーガである。
まあ、全身人間にもなれるが、外にいる時は危険なので、大抵は身体能力が高いこの姿である。
ナーガと言ってピンと来ない人もいるだろうが、上半身が人間で下半身がヘビだったりする。
気持ち悪いって?
イヤイヤ、可愛いよ…
え、いや…可愛いは言い過ぎかな…
そ、そうだ私は綺麗系だよ、綺麗系…な!
木の枝の上を飛びながら逃げているムツキは虎の獣人で、かれこれ100年位共に旅している、いわゆる腐れ縁、てやつである。
何から逃げ出ているかというと…ドラゴンから逃げている最中だったりする。
事の始めは、ムツキと一緒に狩りに出かけた先で
「そこの洞穴から宝物の匂いがする」
なんて言われて入ったはいいが、ドラゴンの巣穴だったのである。
戦う?ムリムリ、どれ位無理かと言うと、人間がライオンに素手で立ち向かう様なものである。
「ナツキちゃん、逃げて‼︎」
ムツキから言われて後ろを振り返ると、ドラゴンの口から放たれた、巨大な火の玉が目の前に
「ヒィ」
必死に避けようとするが…木の根に引っかかってバランスを崩した
真っ赤に染まる視界…走馬灯等もなく一瞬にして全てが真っ黒に染まる。
「ナツキちゃん!」
炭化して、まるで焼け焦げた塩の彫像の様に崩れ落ちていくナツキを尻目に、ムツキは涙ながら逃げていったのであった。
◎ ◎ ◎ 輪廻は回る ◎ ◎ ◎
ナツキの魂は現世で物部悟として転生したのである。
〜 22年後、現世 〜
俺の名は物部 悟22歳、結構漫画やアニメも見たりするが、フィギュアを買う程オタクではなく、オタク以上、一般人未満といった所である。
彼女すらいた事がないから、ひょっとするとオタク未満なのかも…嫌々そんな時は…無いはず…
いや、俺から告白した事がないのだから、俺だって作ろうとすれば出来たはずである。
まあ、バレンタインにチョコを貰った事はないのだが…
先日、いきつけのパチンコ店で最新台を打っていた時の事である。
2万円打ってもスーパーリーチすら来なかったので、打ったまま辺りの当たり回数や回転数を確認して、別の台に移ろうかな〜、と考えていた。
だが、今打っている台が千円以内で当たるから移らなくてもいいか、と何故か思った。
訳が分からず、まさかな〜と思いながら打っていたら、10回転程回したらリーチが来た、リーチ予告が弱く当たる訳ないや、なんて思っていたら、本当に当たった、しかも12連した。
当たるという幻聴が聞こえたわけでも、当たった映像が見えたわけでもなく、ただ当たる事が解った、という感覚であるが、これが再現できれば、俺も超能力者の仲間入り、というか、カジノでこれが出来れば一躍大金持ちなので、この時の感覚を再現すべく日夜奮闘していた。
奮闘3日目、どうもこの時の感覚を再現しようとすると頭痛がする
奮闘7日目、やっと再現できた、解った事は1カ月後に死ぬ、はあ?多分やり方が違ってたんだな…
それからは怖くなって、たまに試みるが、再現できていない。そうこうしている内に1カ月が経過しようとした時
「お腹痛い、洒落になんない、救急車…」
救急車で運ばれて、薄れゆく意識の中
「我が人生に、百片の悔いあり…」
盲腸による急性腹膜炎により、そのまま天に召されたのであった。
◎ ◎ ◎ 輪廻は回る ◎ ◎ ◎
物部悟は22年の生涯を閉じ、魂は霊界へと帰った。
通常、霊界での姿は直近の現世での姿を引き摺るのだが、物部悟は自分自身の事が好きでは無かった為か、それとも潜在意識のナツキが男である事を拒んだ為か、ナツキの姿で霊界に転生したのである。
〜 霊界(あの世) 〜
「え〜と…ここは誰?私はどこ?」
丸太の壁、丸い木のテーブル、木を50cm程切っただけの簡素な椅子、広さは8畳位だろうか、ログハウスの中っぽい
「ナツキちゃ~ん、おかえり~」
金髪の美人が飛びついてきた。
「誰?」
「ナツキちゃんひっど~い、ムツキだよ、ム・ツ・キ、いくら向こうでの生活が長かったからって」
「それとナツキって誰?」
ムツキから鏡を渡され、鏡をみると、肩まである銀髪、茶色い瞳、体を見ると若干ある胸、細い指、細い足、服は原始時代か?と思わせるみすぼらしいワンピースだが、どうやら女性らしい…
なんでだ?、もし自分が女性に生まれたら絶対に、ボンッ、キュッ、ボーンだと思っていたのだが…納得いかない…
「その内思い出すと思うけど、私はムツキね」
意識がはっきりしてきたが、自分は物部悟だった記憶しかない。
でも体は女性であるし、ナツキと呼ばれている、とすると、ラノベで有名な異世界転生か?
「ここって異世界?」
思い切って聞いてみたが
「異世界って何?、この世界は現世で言う所のる霊界とか、あの世とかって呼ばれる世界だよ、はるか彼方に地獄や天国もあるよ」
流石に異世界なんて都合のいい世界がある訳ないか…てかやっぱり死んだのか…
と、シミジミ思ったが、地獄って訳でも無さそうだし、ムツキも天使って訳でもなさそうである
「天国や地獄で無いなら、ここは三途の川?」
「ここは天国や地獄の中間にある、煉獄って所ね」
煉獄って響きを聞くと、地獄と似たり寄ったりな場所なのだろうか…
良い事も悪い事もしていなかったから…いや多少は悪い事はしたからここに来たのかな…
と前世でした事を思い出していたが、そもそも両親より先に逝ったのだから、仕方ないのかもしれない…
ふとムツキを見ると、肩に10cm程の大きな蜘蛛がチョコンと乗っていた、何処かで見た事がある様な気もするが、現世でこんな大きな蜘蛛を見た事はないはずだ
「そこの蜘蛛さんは?」
「ご主人様、クーの事も忘れちゃったの?」
蜘蛛が喋った事に驚いたが、そういえば昔夏休みに実家帰ると、自分の部屋に1cm程のピョンピョン跳ねる蜘蛛を見つけた。
近寄ると顔を上げてジーと見つめ来て、上顎をワシャワシャと動かしていたので、爪楊枝の半透明なケースとハガキで蚊等の小さな虫を捕まえて来てあげて、蜘蛛だからクーと安直な名前を付けていた。
だが、翌年帰った時には居なくて、調べたら寿命が2〜3年程だったので、既に亡くなったのかと、悲しんだ記憶がある。
「ここでナツキちゃんを待ってるみたいだったから、一緒に住んでたんだけど、物凄く大きくなったんだよ」
「えっと…こっちの世界では、蜘蛛って喋れるの?」
「ん〜、蜘蛛が喋ってるのは見た事ないけど、特訓したんだよね〜」
「ね〜」
と頷くクーではあったが、実の所ナツキが居ない間ムツキは暇を持て余しており、暇潰しに生きた小さな虫を取って来てはクーにあげていた為、ぷくぷくと大きくなった。
又、毎日の様に「あなたのご主人様がね〜」とクーを相手に延々と独り言を喋っていた結果、今に至る。
「クーちゃん、おいで」
「ご主人様〜!」
クーは嬉しそうに、ナツキの服に飛び付き、肩に登ったのであった。
「ち・な・み・に~、まだナツキちゃんの記憶が戻ってないから言っておくけど~、こっちの世界でも死んじゃうから!」
ムツキが妙に深妙な顔になる
「死ぬとどうなるの?」
「動物とかは数日そのままだけど、人間は魂が体を拘束する力が強過ぎて、魂が抜けると直ぐに体が崩壊しちゃうから、死んだ直後に塩に変化したりする事が多いかな、魂は現世に転生されるけどね、ちょっと手をだして」
よくわからないが手を出すと、ムツキが一本の指を掴んで微笑み「えいっ」と、掴んだ指を逆方向に曲げグキッと嫌な音がした
「ヒギィィィ〜」
痛さで転げ回るナツキ、クーは咄嗟に床に飛び降りて机の上に駆け上がる
「ごめんごめん、魂そのものを傷つけられる様なものだから、現世より痛いでしょ?(笑)」
ナツキは涙目でキッと睨んだが、ムツキはナツキの指に手をかざし
「治れ〜」
暖かい光が手を包みこみ、指が治り痛みが消えていく
「こっちでは、意思の力である程度の事が出来るのよ、魔法みたいなもんかな」
魔法と聞いて心が躍り、先ほど酷い目に遭わされた事も忘れ、ドアから外に飛び出した。
そこには木々が生い茂げるジャングルといっても過言ではない世界があった
『ファイヤーボール!』
何も起きなかった…
漫画では片手で顔を隠して格好をつけながら、もう片方の手を前に突き出して叫んでいたのを思い出しながらやってみたのだが…
ふと視線を感じ、振り返るとムツキとクーが生暖かい目で此方を見ていた、物凄く恥ずかしい…
「何やってんの?」
「い、いや…魔法で火の玉を飛ばそうかと…」
「えと、こんな感じ?」
ムツキが指の上に火を灯し、それを枯木に放つと、枯木がボウッと燃え上がった
「それそれ、どうやるの?」
「まずは指の上で火が灯るのをイメージして、火を作って放り投げるだけだよ」
目を閉じて指の上に火が灯るイメージをしてみた
「凄い凄い、出来るじゃない」
恐る恐る目を開けると、指の上に火が…灯ってない…
どういう事かと振り返えると、クーちゃんの前脚の上に火が灯るのが見えた
「ご主人様〜、出来たよ!」
「蜘蛛のクーちゃんですら出来た事が、出来ない自分って…」
うなだれるナツキ
ムツキが言うには、此方の世界は光と闇の因子があり、その2つの因子の組み合わせにより、火風土水のエレメントとなり、この世界を構成している
私たちの体や空気でさえ、このエレメントで構成され、自分達の意思がエレメントを支配しているからこそ、自由に動けるのだとか
つまり、火を出すという行為は、中空に漂う風のエレメントを、意思の力で火のエレメントに変換支配した結果なんだとか
火を灯したい空間を自分の一部だと思って、その空間に火をイメージする
「火の光、火の熱さ、火の焦げた様な匂いを思いだして」
言われた通り目を閉じてイメージすると、指先が仄かに暖かくなり、焦げた匂いがし初めた
暖かい…てか熱い…目を開けてみると指が燃えていた
「ギャァァァ〜、指が〜」
「何やってんの、指の中の火のエレメントを燃やしてどうするの、ほら水」
転げ回るナツキにムツキが水をかけて、火を消してくれたのであった
〜 1ヶ月後 〜
『ファイヤーボール!』
拳程の火の玉が飛んでいき、岩に当たって消え去った
なんとか火、風、水、土の魔法がどうにか出来る様になった
「危ない!」
火の玉が飛んでいった方から、声がして避けると
ジッ!
何かが頰を掠めた。
後ろを見ると、木に深々と刺さった槍があり、避けなかったら頭に突き刺さっていたかと思うとゾッとした
声をした方を恐る恐る見ると、豚がいた、太ってるとい意味の豚ではない、見た目が豚で歩いていた。