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平穏を捨てた日

「...あの...私、九条君、いえ...九条宏樹君が...好きなんです!私と付き合ってもらえませんか...?」

  

 なんだこの状況は。

 学校一美少女と言われ、高嶺の花と言われる結城さんに校舎裏に呼び出され、来てみるとこれだ。

 俺は学校では普通の見た目をし、普通の能力の男子生徒である。

 勉強も運動も平均的だ。

 嘘告白なのか、罰ゲームなのか、はたまた本気なのか、それとも別の何かか。

 頬が赤らんみ、涙目プラス上目遣いである。

 超可愛いな。

 こんなの食らったらひとたまりもない。

 こりゃ、みんな惚れるわ。

 

 他の生徒なら迷わず肯定する告白だ。

 高校生の大半は、性欲で脳が溢れた猿であるか、綺麗な恋愛を夢見た脳内お花畑な人である。

 この告白なら初対面でも否定する人はいないだろう。

 

 だが、俺はそういうことに興味がない。

 当然告白されてきたら振るという選択をする。

 相手がこの人以外なら、即そうしたはずだ。


「結城さん、俺のこと好きじゃないでしょ?」


 本気で告白してきている相手にこの返答は当然失礼であり、傷つける言葉である。

 だが、この相手にとってはそうではないはずだ。

 

「...どうしてそう思うんですか?」


 一般的な高校生ならこのような返答はしないだろう。

 怒ったり、訂正してきたりするはずだ。

 

 だが、目の前にいる結城凛華は違う。

 俺が確信をもって発言していることから、冷静に聞くことを選んだ。

 この頭の回転の速さと観察眼からこの選択をするのだ。

 入試そして中間テストでも一位であり、この美貌と気品の高さから惚れる者も多い。

 要は、容姿端麗、頭脳明晰ということだ。


「君はこの一週間、俺に興味があるように見えた。先週、ナンパから助けたのがその前日だ。」

 

「はい...その時の九条さんがかっこよくて...この一週間見てて......好きになりました。」


 ちょうど一週間前、俺の帰り道で男二人にナンパされていた所を助けたのだ。

 その後はお礼を言われ、帰宅した。


「だがあの時、君はナンパされながら俺のいる方のみチラチラ見ていた。たくさん野次馬はいた。なのに、俺に助けてほしいみたいに。それに君ならナンパごとき振り切れたでしょ。話術でもなんでも。君なら体術でもいけるのかな?」


 じゃあ何で助けたのか。

 こいつは自分で状況を脱することができるのに、俺に助けを求めている顔をしていた。

 俺に助けてほしかったのだ。周りの人ではなく俺に助けられなければならなかったのだ。

 

 今日その目的が分かった。

 

「.......」


「その時思いついたのか、その前から計画していたのかは知らない。だが君はその状況をチャンスと捉えた。俺がどうするのか。見てないふりをして逃げるのか、それとも助けに入るのか。その時どう助けるのかも見ていたのかもしれないな。そこで俺は彼氏のふりをした。そしたら怯えていながらも俺の方ばかり見ていた。いや、観察してた。目の前に怖い人がいるのに。」


 どのような人なのか。

 恋愛に興味があるか。

 恋愛をする可能性があると思っているのか。

 人間関係をどう思っているか。

 交友関係はどうなのか。

 人間をどう思っているか。

 そして、結城凛華に興味があるか。


 それを観察していたのだ。

 

 そしてこの一週間の学校での視線。

 今日のこいつの目的のためのテストだったわけだ

 

「.......」


「まず君は恋愛などに興味はないはずだ。表面上繕ってるが、告白されるのを億劫にしているし、恋愛が話題に出ている時、他人に合わせているだけだ。それにナンパから助けた後もまるで俺の反応を見ているかのようだった。」


「...」


「それで俺に何の用?」


 数秒無言の時間が続く。

 この学校の校舎裏は日陰のせいか、最近夏を感じ始める日差しの中、汗一つ垂らさず立っている。


「...ふふっ。やっぱ思った通り。君ならその結論にたどり着くと思ったよ。君に告白をオッケーされたらどうしようかと思ったよ。確かに君のことは好きじゃないよ。...ちょっと質問いい?」


 学校で見ている九条凛華とは別人みたいだ。

 それになぜ俺がこの結論にたどり着くと思ったのか。

 学校以外でも俺のことを調べているのか、俺の身内から聞いたのか。


「どうぞ」


「君は将来恋すると思う?」


「思わないな。君は?」


「...ふふっ。私も。じゃあ付き合って?」


 さっき“思う”と回答していたら“恋人のふりをして”などと言われただろう。

 学校でも外でも男に言い寄られているからな。

 めんどくさそ。

 

 だがこいつは本当の恋人になれと言ってきたのだ。

 家も裕福と聞く。

 この容姿と頭脳では、言い寄ってくる人はこれから減ることはないだろう。

 家庭事情は知らないが縁談などがあるのかもしれない。

 どうせ一生恋愛などすることなく、そういった全てを面倒に思ってる彼女は、解決策として恋愛や自分に興味がなく、家族が納得できる男として俺に“本当の”彼氏になれと言ってきているのだ。


「条件がある」


「何?」


「まず万が一、恋をしたときは別れること。それとこの関係に問題が発生した場合、二人で解決すること。誰にもこの関係を疑われないようにすること。裏切らないこと。最後に何の支障もない場合、そのまま結婚すること。」


 この関係はどちらかというとデメリットの方が大きい。

 これまで学校という影響力社会において、俺は目立たないように過ごしてきた。

 なんせ目立つと面倒なのだ。

 そして家でやりたいこともあるので、遊びに誘われても断ることの方が多い。

 そんな普通の生徒である俺が、学校一人気の彼女と付き合っていることを他の生徒は面白く思わないだろう。


 そして彼女の家の事情も知らないので、何かに巻き込まれる可能性もある。

 特に人間関係の拗れはごめんだ。


 だがメリットもある。

 こいつは会話が最小限で済むのに、足りないことはない。

 つまりすれ違いも起こらないし、知っておきたい情報は先にくれる。


 そしてこいつの考えは面白い。

 好きになる人が一生できると思わないからと、同じ考えの人にガチで告白してくるのだ。

 この行動力も尊敬する。


 これだけではメリットの方が少ない。 

 それに二つ目のメリットはこいつの考えにはないだろう。

 だから最後の条件を付けくわえた。

 こいつの家は家柄が良いらしい。

 経営者なのか、資産家なのか、大企業の幹部なのかわからない。

 勉強にもなるし、将来安泰だろう。

 俺とこいつなら底辺からでも上がっていけるだろうから。


「うん、それでいいよ。じゃあよろしくね。これ連絡先」

 

 そう言ってQRコードを見せてきた。

 結婚まで予想の範疇だったらしい。

 こいつの限界を知りたいな。 


「ん、登録できた。今日は送ってった方が良いか?」


「じゃあ、駅まで送って?」


「わかった」


 隣に立ち、歩き始めた。

 横に立つと輪郭が際立ち、とても顔が整っている。

 汗一つ掻かず、凛とする立ち姿に見惚れている人もちらほらいる。

 そして隣に立っている俺には、嫉妬の念を送ってくる人も少なくない。


「やっぱり、肝が据わってるな」

 

「何のことですか?」


 人前だからだろう。口調が綺麗になっている。

 こっちを試すような目で見てくる。


「人生かけて告白する人もいるのに汗すら掻かずにできるんだもんな」


「それは恋愛の話でしょう。私は自分の内面を告白したに過ぎませんし」


「今日の展開も予想の範疇だったっぽいしな」


 今日の会話の展開は提案する側からすれば緊張するだろう。

 こいつは肝が据わっているのか、予想の範疇だったのか、それとも俺が人畜無害だからなのか。

 底が見えないやつだ。

 

「ふふっ。やはり君を選んでよかったです」


 こいつと会話することを楽しいと思うのはお互い様だったらしい。


「なんで俺を選んだか聞いてもいいか?」


「だって君、よく周りを観察して誰も不満を抱かないように振舞ったり、会話を誘導したりしてるでしょ?それにさっきの会話からもわかるように頭もいい。」


「そうか」


 高校入学して二か月ほどでこの結論を出すのはさすがだな。

 俺は周りを見ながら人間関係のトラブルが起きないようにしていたのだ。

 理由は面倒だから。


「ところで明日からの名前の呼び方とどう接したらいいか、どうふるまえばいいかとかもろもろの打ち合わせをしたいんだが」


「そうですね。駅まで歩いてる間に終わるでしょう」


「それもそーだな」


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