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13,ルーク:一触即発

 胸の痛みに耐えながら、顔をあげる。クレアの見下す冷ややかな目。冷水を頭からぶっかけられたようだ。強い、俺より確実に。すごいな、最初に会った時はお姫様で、今は王子様か。

 俺は口元に手を寄せる。笑ってしまいそうになる自分を抑えた。

 ずれ方が半端ない。俺が安穏と過ごしていた六年間が吹き飛んでいくよ。


 殿下と呼ばれるクレアが、他の生徒に、ねぎらいの言葉をかけていくなか、俺一人地べたに座り込みじっとしていた。

 額に手を当てる。

 脳裏に浮かぶのは、本を胸に抱えた淡いドレスを揺らし駆け寄るお姫様だ。もう一度出会うとしても、その姿はお姫様の延長線上にあると想像していた。あのまま豪奢なお屋敷の奥深くにしまい込まれたお姫様として。

 現実はそんな想像の斜め上を飛んでいく。目の前に現れたと思えば、男かよ。俺より四歳下なら十五歳か。無理があるだろう。このまま男として生きるなんて。  


「ルーク」

 最後に俺に話しかけてきた。差し伸べようとした彼女の手を振り払った。

 周囲の空気がざわつく。教師の、殿下になんてことをという表情がかすみ見えた。


 ゆっくりと立ち上がる。立ち並べば、こんなにも小さい。こんな小柄な子をどうして男として扱える。『会いたかった』そうささやいておいて、今更この再会をなかったことにはできないからな。

「けがは大丈夫かい」慈悲深い王子様として、ほほ笑む。「僕も手加減せずに蹴り上げてしまった」

 肩を見れば衣服が赤くにじんでいる。

「あなたこそ、俺がつけた傷は大丈夫なんですか」

 クレアは腕の傷にちらりと目をやる。そういえば、そんな傷もあったかといわんばかりに、指先で傷まわりに触れる。

「気にしないで」ぱっと手を広げ、明るい表情を見せる。「このぐらいかすり傷です」

 そう言うか。俺の気も知らないで。

「じゃあ、俺も。あなたに蹴られたぐらいかすり傷です」

 クレアがキョトンとする。

「あなたがその血を流すような傷をたいしたことないと言うなら、俺も同じですよ」

 憮然としてクレアに告げる。俺が好き好んであなたに傷をつけるなんてありえないんだ。


「僕は土魔法で強化した足で蹴ったんだ。そうとう痛むはずだよ」

「それなら、俺も火で強化した刃であなたを傷つけた。同等でしょう」

 あなたの体に触れる機会あれば、その傷跡を見るたび後悔するだろう。そんな俺の気持ちを汲み取らない無邪気なあなたが苛立たしいよ。


「君は、僕と自分が同等だと言いたいのかい」くすくすとクレアが笑う。「確かに僕の体に傷をつけるなんて滅多にないことだ。良い記念になるよ。そういう意味では、今日は痛み分け。引き分けでもいいかもね」

「俺の胸の痛みなんて、数日で消えますよ」

「じゃあ、傷跡が残れば君の勝ちでいいよ」

 クレアが赤くにじむ衣服を撫でる。そんな必死でつけた傷なんか、記念にされたくはない。


「僕の名は、グレンだ。来学期からは同じ教室で学ぶ。君にはぜひ、僕の名を呼んでほしいよ」

「グレン」兄の名だな。「あなたがそうおっしゃるなら、俺も遠慮は致しません」

 本当に嫌になる。人をくうようになった。あの天真爛漫なお姫様をどこに隠した。あなたが、王子様になりきると言うなら、お付き合いしますよ。お姫様クレア


             ☆


 俺は真っ先に闘技場を後にした。早足で立ち去ろうとする俺に、ローマンが心配そうについてくる。

「大丈夫か」

「何が」

 そう答えても、いら立っているのは自分が一番分かっている。

「王子様にくってかかるなんて無謀にもほどがあるよ。あれでお咎めなしなんて、非公開の場で、王子様の許しが無かったら大問題になるよ」

「知るか」あれが王子様に見える方がおかしいんだ。「悪い。俺は帰る。今日はもう誰に会っても、優しくできない」

「いいよ。あんなことがあったんだ。俺が説明しておくよ」

 足取りを緩める。はあ、と息をついた。これでは人の良い親友にあたっているようではないか。立ち止まり、ローマンに向き合った。

「ごめん。教室へ行くんだ。俺からも説明するよ。

 残っているんだろ、みんな」

「ああ」

 ローマンがほっとした表情を見せた。

 教室ではみんなが待っていた。俺とローマンの別れを惜しんでくれるありがたいクラスメイト達。平民と貴族では校門も校舎も、利用施設も違う。これほどクレアがそばにいて気づかないわけだ。貴族と平民は、トラブル防止のためにも一切触れあわないようにはかられている。

 闘技場で王子様が現れたこと。無理やり実践演習になり、俺がケガを負っていること。一通り説明すると、彼ら彼女らは心配そうな顔をして、今日の不参加を快諾してくれた。

 俺は別れの挨拶をした。

「この数年、みんなと学べて夢のようだったよ。ありがとう」

 俺の人生において、普通の幸せを与えてくれた仲間に心から感謝した。


 ローマンは残り、俺はみんなに見送られ、帰路につく。

 教室を去るさい、俺を見送る集団の背後で、ローマンが一人の女の子と向かい合い楽し気に談笑している姿が見えた。なんだ、ローマンも俺を口実にしてたのか。結局、おあいこだな。人が好さそうに見えて、ちゃんと抜け目ないとこもあるじゃないか。


読んでいただきありがとうございます。

最終話まで予約投稿済みにしてます。

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