表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

陽だまり

作者: who2

 市バスはゆっくり坂道を下って行った。太陽の光が窓から差し込み、バスのシートに座っている膝の上に陽だまりを作っていた。

 男に振られた。十年、尽くしてきたつもりだ。相手には奥さんがいた。いつも男はもうすぐ別れると言った。騙されているのは分かっていた。中年女が一人、ただ不倫をしただけかもしれない。

 バスが少し揺れた。私の頬に熱いものがつたわる。やがて、涙はポロポロと、とめどなく溢れだした。とても周りの目が気になった。窓側の隣に座っていた私より少しばかり年が上に見える男は目をつぶって居眠りをしているようだった。泣いているのを誰にも気づかれたくないと思った。

 バスが次の停留所の名を告げる。隣の男は首を回し、小さく息を吐いた。目が覚めたようだった。この男にもおそらく家族があるのだろうと思った。男は停車ボタンを押し、私の肩に自分の肩が触れないように、窓際に体を寄せた。

 泣いてはいけない。私は自分に言い聞かす。

 バスが停留所に留まり、男がすいませんと言った。私はシートから立ち上がった。男が脇を通り過ぎようとした時、ポツリと言った。

「もう、春だな」確かにそう言った。

 私はぼんやり男の背中を見た。下を向くと、さっきより大きい陽だまりがそこにはあった。

                                 了


読んでいただきありがとうです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ