藍
高校に入学してすぐの頃。私は、部活をなんにしようか迷っていた。
お姉ちゃんには、
「友達付き合いあんた下手なんだから、人数多い部活に入った方がいいよ。ダンス部とか人数多いらしいし、いいんじゃない?」
そんなことを言われた。
でも、私は小説を書くことに興味があったし、だから小説執筆部なんていうのがあるなんてすごいと思った。
早速訪ねに行ったのだけど、なんとそこにいたのは先輩一人だけ。
えええ……という感じだった。
でも、先輩が兼部すればいいじゃんと言うので、私は手芸部と兼部するという形で、小説執筆部に入部した。
先輩は、オタクっぽい見た目だからラノベでも書いているのかと思ったら、児童文学を書いていた。
でも、先輩はだんだん、読まれるようなジャンルや作風を選ぶようになっていった。
だから私は、先輩の本当に書きたい小説ってなんなんだろうなって知りたくなってきた。
もしかしたら、そもそも児童文学でもないかもしれないし。
私は先輩が、小説家になろうの話をちょっとだけしていたのを思い出した。
もしかしたら先輩はそこに、なにかあげているかもしれない。
私は先輩のペンネームで検索をかけてみた。
一件出てきた。
早速読み始めてみると、児童文学だった。
小説情報を見てみれば、ブクマ0件だし、PVも20とかだ。
私がこのまま何も残していかなかったら、先輩はますます書きたい物語を書かないようになるかもしれない。
そう思った私は、感想を書いて行くことにした。
まあ、「あい」ってユーザーネームでは私だとは思わないだろうけど。
でも、きっと小説って、世界のどこかの誰かの心が少しでも動かされれば、きっとそれでいいのだ。それが一人でも、たくさんでも。
だから私の心が動きましたよって伝えれば、それで十分。
そう私は思った。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
それからだいぶだったある日。
先輩がいつもよりも楽しそうに小説を書いているから、私は声をかけた。
「なんかのりのりですね今日の先輩」
「あ……そうかもな。……あのさ、前、僕の小説に感想書いてくれたのって、藍だよな」
「……そうです、前……書きました」
「ありがとな。結構、励まされたんだよなあれに」
先輩は少し恥ずかしそうにそう言った。声は小さめだったけど、耳の中ではよく響いた。
「よかったです」
「あ、で、僕もさ、藍の小説の感想ちゃんと書いてみたから、よかったら読んでみて」
そう言って、先輩は数枚の紙を渡してくれた。
そういえば、私も感想を他の人にもらうっていうことを、あまり経験してこなかった。
だからなんだか、その紙は、コピー機から出たばかりのような温もりで。
「先輩……文芸部と合体してもよろしくお願いします」
「もちろん。これからも楽しく書こうな」
「はい」
私は返事をして、西日が差し込む窓を眺めて、そしてそれから、先輩がくれた感想を読み始めた。