真夜中の猫のかくれんぼ
冬童話2021に参加したいと思い、初めて童話に挑戦してみました。
冬のある日の夜、小さな街の路地裏に、五匹の猫が集まっていました。
五匹は魚の缶詰を取り囲み、話し合っています。
「猫は五匹だが缶詰は一つだニャ」
黒猫のシャドーがそう言うと、足としっぽの長いクールが気取った口調で言いました。
「誰が缶詰を食べるか、かくれんぼで決めるのデッス」
「かくれんぼはずるいよ。シャドーは黒いから、物影に隠れると全然見つからないミャ」
白猫のバニラはそう不満げに言いました。
何を隠そう、バニラはかくれんぼが大の苦手。なぜなら物陰に隠れていても、白くて長い毛が必ずどこかから飛び出してしまって、すぐに見つかってしまうからです。
「そういうことなら、鬼をシャドーにすればいいんでぃ」
威勢のいい虎猫のトラは言いました。
「ルールどうすんのダス?」
眠たげな目で太っちょのプリンがそう尋ねると、賢いクールが答えました。
「朝日が昇るまでに全員見つければシャドーの勝ち。見つからなければ見つからなかった猫の勝ち。勝った猫が缶詰を食べられるのデッス」
こうして、シャドー、クール、バニラ、トラ、プリンの五匹の猫たちは、真夜中のかくれんぼをすることになりました。
「みんな僕がかくれんぼ苦手なの知ってるのに、ひどいミャ」
バニラはがっかりしましたが、魚の缶詰がかかっているのだから頑張らなければなりません。
野良猫たちにとって、魚の缶詰はすごいごちそうです。
「ようし、頑張るミャ」
シャドーが目を閉じながら数を数えだしたのを見て、猫たちは急いで走り出しました。
シャドーが十数えて目を開けると、路地裏には誰もいなくなっていました。
「さてと、みんなを見つけるニャ」
シャドーは魚の缶詰を食べる自分を想像し、舌なめずりしながら歩き始めました。
空からはちらちらと雪が降り始め、空気は冷えきっています。
「うう寒い、早いとこみんなを見つけないとニャ」
白い息を吐きながら、シャドーはそう言いました。
シャドーはかくれんぼが得意だから、自信満々です。
しばらく歩いていると、パン屋さんのあたりに辿り着きました。
パン屋さんの前にはフランスパンの形の看板が置かれています。
でもフランスパンの切れ目が、いつもと何だか違うような気がしました。
「おかしいニャ」
シャドーはフランスパンに近づいていき、目を凝らしました。
するとそれは、フランスパンではなく、看板にしがみついているトラでした。
「トラみつけたニャ!」
シャドーがそう言うと、トラは「ちぇっ」と舌打ちしながら看板から道に飛び降りました。
「うまく隠れられたと思ったのに、一番に見つかっちまったでぃ」
悔しそうにトラはそう言いました。
「段々寒くなってきたし、早くみんなを見つけられるよう手伝ってほしいニャ」
「仕方ねえなあ、わかったでぃ」
トラはブルっと身を震わせながらそう答えました。
こうして、シャドーとトラは一緒に通りを歩き始めました。
そのうち二匹は広場に出ました。でも猫の姿は見あたりません。
ただ広場のベンチに、あたたかそうなコサック帽が一つ、置きっぱなしになっていました。
「ありゃあ立派なコサック帽でぃ。きっとお金持ちのマダムの落とし物でぃ」
そう言いながら近づいていったトラは、帽子に触れたとたん、声をあげました。
「ぎゃあ、こいつ、生きていやがるでぃ!」
トラが思わず飛び退くと、コサック帽はむっくりと起き上り、猫の形になりました。
それは帽子ではなく、デブっちょ猫のプリンでした。
「ふあぁ、なかなか見つけに来ないから、思わず寝てしまったダス」
プリンはシャドーとトラを見ながら言いました。
「あらあら? まだクールとバニラは見つかっていないダスか?」
「そうなんだニャ。夜も更けてきたし、見つけるのを手伝ってほしいニャ」
シャドーがそう言うと、プリンは眠たげな目をこすりながら言いました。
「なるほど、それならワイも、探すダス。見つけて早く寝るダス」
こうしてシャドーとトラとプリンは、他の場所を探し始めました。
広場のそばのアーケードには、衣料品店が立ち並んでいます。どこもシャッターが閉まっていますが、とあるお店だけはマネキンが表に出しっぱなしになっていました。
「わあ、素敵なお洋服だニャ。これを着ればオシャレになれるニャ」
シャドーはそう言いながらマネキンに近づいていきます。マネキンはお花の刺繍入りのロングコートを羽織っていて、コートの裾は地面につきそうなほど長く垂れています。
「シャドー、あぶないでぃ!」
トラはそう叫んで、シャドーに体当たりしました。
「一体なにするニャ!」
不満げな顔をしているシャドーにトラは言いました。
「コートの中に、何かいるんでぃ!」
シャドーはコートの裾に目を凝らしました。確かに、細い脚みたいなものが何本か見えます。
それを見たプリンは、首をかしげながらマネキンに近づいていきました。
「プリン、近寄っちゃいけないでぃ!」
トラはまた叫びましたが、構わずプリンはマネキンのコートの裾を咥え、ずらしました。
すると中から、クールが姿を現しました。
「あまりにも寒いので、コートの中に隠れていたのデッス。ここなら絶対に見つからないと思っていたのに、残念デッス」
クールはそう言いながら気取った足取りでコートの中から出てきました。
「クール見つけたニャ!」
シャドーはそう言いました。
「なんだ、クールだったんでぃ」
トラはほっと胸をなでおろしました。
それから四匹は、白猫のバニラを探し始めました。
表通りも、アーケードも、駅の中も、色んなところを探したけれど、バニラは見つかりません。
「一体どこにいったのかニャ……」
四匹とも、バニラを捜し歩くのに疲れてきてしまいました。
それにかくれんぼを始める時にはちらついている位だった雪が本降りになり、真っ白い雪が降り積もり始めていたのです。
「これじゃあ、バニラは見つからないデッス」
あたり一面の銀世界を眺めながら、クールは肩をすくめて言いました。
そしてついに、朝日が昇り始めました。
「もう朝ダス」
そう言いながらプリンがあくびをしていたら、どこかから「くしゅん!」とくしゃみの音がしました。
「一体どこからくしゃみの音がしたんでぃ?」
みんながキョロキョロあたりを見渡していると、シャドーが叫びました。
「うわあ、今なにか踏んでしまったニャ」
みんながシャドーの足元を見ると、真っ白い雪が降り積もった地面が、ガサゴソ動いているのが見えました。
そしてよく見れば、それはバニラだったのです。
「バニラ、みーつけた!」
みんながそう言うと、バニラはみんなのほうを振り向いて、笑いながら言いました。
「えへへ、ついに見つかっちゃったミャ」
「だけどもう、朝日は昇りきっているのデッス。バニラの勝ちなのデッス」
クールは長いしっぽで朝日を示しながら、言いました。
こうしてバニラは缶詰を食べられることになりました。
「絶対に美味しいでぃ……」
「いいなあ、食べたかったニャ」
「今回バニラは頑張ったから、当然なのデッス」
「よかったダスね、バニラ」
「……いただきますミャ」
バニラは蓋の開いた缶詰を見て、ごくりと喉を慣らしました。
でも、一人でごちそうを食べるのは、なんだか落ち着きません。
「量は少ないけど、みんなで食べるミャ」
「いいのかニャ?!」
「もちろんミャ。みんな夜通しかくれんぼして、お腹がすいたはずミャ」
「ありがとう、バニラ!」
みんなは優しいバニラにお礼を言って、仲良く缶詰を分け合って食べましたとさ。
お読みいただきありがとうございました。
感想等いただけたら嬉しいです。
※12/27誤字一か所修正いたしました。ご報告ありがとうございます!
※1/18誤字二か所修正いたしました。ご報告ありがとうございます!