エピローグ 夕暮れアイス
「しばらく、海はいいかな」
病院に搬送され、念のため検査を受けた帰り道。すっかり日は傾いて、空が赤く染まっていた。
最後に夏気分をということで、コンビニで買ったアイスを食べながら歩道を並んで歩く。
「そういえば⋯⋯。海、全然入れなかったなぁ」
「"お前は"長い間入ってただろ。俺だよ、何もできなかったのは」
少し不満げな横顔、彼にとって今日は厄日だっただろう。
人のわがままに付き合わされた挙句遅刻。そして死にかけると言う出来事が一日に重なるなんて、同情するしかない。
沈黙が流れて、少し話しづらい。
「⋯⋯海に誘ったのも、実はもっと君と遊びたかったんだ。あの時、なんか寂しそうに見えたから」
少し前に、噴水で言い放たれたあの言葉。彼には彼なりの苦労があるのだと初めて理解した日。
「⋯⋯別に、平気だ。なんともねえよ」
「でも本当はちょっと遊びたかったんでしょ? ま、今度は危険じゃない遊びを考えますか」
残念な気持ちを抑えるように早歩きで歩道を進む。すると、後ろから呼び止められるようなトーンで彼が声を上げた。
「俺はお前と遊ばなくたって、いつも話してくれたり、一緒に帰ってくれるだけで⋯⋯満足だし? 無理して特別なことしなくても、いい、し」
目が泳いだように動き回る。海で泳げなかった分ここで泳ぐのかなんて言うくだらない冗談は一旦忘れることにする。
「そう? それもそうかもね。日常を大切にしようってことか」
アイスのワッフルコーンを齧ると、サクサクとした歯応えと甘みが口に広がる。指についたカケラを舐めとるのもまた一興。
「そういえば、課題終わった?」
後ろにいる彼の目を見てみると、課題が終わっていないこちらを蔑むような目を向けられた。
「当たり前だろ、あんなのすぐに終わるぞ」
「⋯⋯ちょっと写させてくれない?」
大きなため息の後、彼はゆっくり口を開いた。
「⋯⋯教えてやるよ。仕方がないから」
「いや、写させてよ」
プッと互いに吹き出した後、無言で頭を軽く叩かれる。全く痛くないので加減してくれたのだろう。
——甘いコーンのカケラを飲み込んだ。