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これは同棲ですか?

ピーラーで攻撃された日の放課後


『湊くん! おっかえり〜!!』


 放課後、委員会が終わって家に帰った僕が玄関を開けると、2階からトトトッと駆け下りて来たさくらがポスッと僕の胸に収まってきた。


「ただいま」


 僕はさくらの頭を撫でようとして──しかし、そのまま透けてしまった。


 日が昇っているうちは彼女に触れることができない。


 さくらはそこに存在しているようで存在しない。

 生きているようで生きていない。

 そんな曖昧な存在である事を改めて認識させられた。


『えへへ。いい匂い〜』


 僕は引っ付くさくらを宥めてから部屋へと向かう。

 あんまりくっつかれて制服がシワになっても困るので、とりあえず着替えからだ。


『じー』


「なんだよ」


『じー』


「あの、恥ずかしいからあんまり見ないでくれないかな?」


 童貞丸出しで恥ずかしい所存だけれど、流石に異性にガン見されると僕としても脱ぎづらい。

 

「っ! 待てよ! まさか風呂にまで着いてきたりしないだろうな!?」


 今朝、何食わぬ顔でトイレまで着いてきた時は流石に僕も怒ったけれど、さくらの強かさを見るに、お風呂まで一緒でも不思議ではない。


『生きてれば、イケナイコトの一つや二つしたくなるもんだよ?』


「お前、生きてんの?」


『あーなんかそれ傷付くなぁ』


 さくらは僕に近づくと、背中に腕を回して部屋着の上からピッタリと密着する。


『ぎゅー』


 隙間を無くすようにくっついたさくらは、グリグリと額を僕の胸板に擦り付けた。


『ねぇ、湊くん。さくら、今ドキドキしてるよ? 伝わってるかな』


「……っ。まぁ」


 確かに伝わってる。

 明らかに普通の速度ではない鼓動がさくらの中心で脈打っているのがわかる。


『さくらは生きてるよ。さくらがさくらで有る限り、桜が湊くんを好きでいる限り。さくらはずっと、湊くんの傍で生きていくんだよ』


 艶のある瞳はほんの少しだけ恥ずかしそうに濡れている。

 生霊であるさくらに体温はない。

 けれど、僕は微かにさくらの熱を受けたような気がした。

 胸の内が熱くなるような、そんな感覚を。

 

「僕はさーちゃんに触れることもできないんだけどな」


『そうだね。さくらはそれだけ曖昧な存在だから。でも、だからこそ、このチャンスは無駄にしたくないんだ。桜の中で7年間ずっと大人しくしてきたんだから、今だけは好きにさせて欲しいな』


 7年間って……桜はそんなに前から僕の事を──


『違うよ。湊くんを好きだったのは出会った時から。好きを伝えなくなったのが7年前』


 そう言えば……そうだった気がする。

 小さい頃は、桜からの好きを確かに聞いていた。

 というか、僕も桜に好き好き言ってたし、結婚の約束だってした。


 そうか、7年前まで──って、いかんいかん。あんまり考え過ぎないようにしなくちゃ。

 冷静に考えたら、さくらが来てから桜のプライバシーが全く保護されていない。


 好きな人に生霊が飛んでって、勝手に好意を伝えられてるなんて、セルフ拷問も過ぎる。


 でも、なんだろう。なんか桜の暴言が可愛く思えてきた。

 どうせ本人に会ったら会ったで、またへこむんだろうけれど、さくらといるとそんな気持ちも薄れていく気がする。


『むう。今ちょっといい雰囲気じゃなかった?』


 僕からすると、危ない雰囲気だった気がする。


「僕って結構流されやすい性格だからさ、早めに自制しないと取り返しのつかない事になりかねないんだよな」


『へぇ、いい事きいちゃったかも』


 あーあー、悪い事企んでるわ、この顔。


 まぁ、まだ日は落ちていないので、万に一つも間違いが起こることはないけれど、やっぱり自分を大好きと公言してる人が目の前にいるって状況は、落ち着かなくはさせる。


 近付き過ぎると、危ない。


「なぁ、さーちゃん。そろそろ離れてくれ」


『ブー』


 僕が半歩距離を取るように下がると、意外にもさくらは拘束を解いてくれた。

 代わりに、不貞腐れたポーズをとっているけれど。


「母さんが帰ってくるまでに夕飯を作らなきゃいけないから、また後でお話しよう」


 現在、時刻は18時30分頃。

 母さんが帰ってくるまで、あと1時間だ。


『さくらも手伝うよ?』


「え? 出来んの? 料理」


『無理』


 即答かよ。

 

 正直、桜と見た目が同じさくらに刃物を持たせるのが凄く怖いので、あまり台所には立ち入って欲しくない。

 今朝のピーラーが、僕のメンタルにかなり深くダメージを与えているのだ。


『一人は寂しいよ……』


 あーあー、全く。庇護欲をそそるような顔しやがって。

 上目遣いは反則だろう。


「お前、自分の武器を熟知してやがんな?」


『さーて、なんの事でそうです』


 すげーツッコミづらい返しだ。


「よーし、分かった! さくらにはお鍋状況報告係をやってもらう!」


『おお! 任せて! 湊くんの力になってみせるよ』



 ──現在、弱火で加熱中。出汁が出てます。


 ──現在、アクが大量に侵食中。至急応援を。


 ──現在……


 

 こうして、僕達の夕飯作りは無事、事なきを得た。



『初めての共同作業だねっ』


 完成した料理に目を輝かせ、にぱっと笑うさくら。

 この時、不覚にもときめいてしまった事を僕は誰にも言わずに生きていこうと思う。


ブックマーク、評価、ありがとうございます!

お陰様で日間ランキング上位に入れてます!

とっても嬉しい!


もし良ければ↓からお星様ポイしてください。

救われます。


夜にもう一話投稿するかもしれないので、その時は是非読んでください!

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