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旅行


 友人達との3泊4日の旅行。

 2日目は観光名所巡り、3日目の今日はパワースポットへと訪れた。


 エマがはしゃぎ過ぎてトラブルに遭ったりもしたけれど、それをかき消すくらい楽しくて、充実していた。明日はいよいよ帰宅。地元へと戻る。

 帰りつつ、埼玉県で開かれるという夏祭りに寄って行く予定だ。


「おい! 見ろよ湊! このホテル、エッチなビデオが流れるぞ!」


 今日は二人一部屋でビジネスホテルに泊まりだ。

 もちろん、俺は中嶋と同じ部屋。思春期前回で備え付けのテレビに食いついている。


「何でもいいけど、先に風呂入ってくるぞ?」


 さすがに3日目となると、僕も疲れが溜まってきた。

 特にエマはそれが顕著で、移動時間はずっと寝ていたくらいだ。


 僕は少し熱めのシャワーで汗を流す。

 真夏でも、僕はどちらかと言うと風呂は熱い方がいい。一日目に行った宿は良かった。もう1回温泉に入りたいな。


 とは言え、あとが詰まっても困るので、僕は早々に洗い流し、最後に冷水を浴びてから浴室を出た。と、同時に女性の嬌声が聞える。


「いやーん。あはーん。うふーん」

 

「中嶋、もう少し音量下げ……はあ」


 爆睡だった。


 そうだよな。


 彼も疲れていたのだろう。起こすのが可哀想なくらいよく眠っている。

 風呂は明日の朝入ってもらえばいいか。


「おやすみ」


 僕も寝る準備に入るために、歯ブラシを用意したところで、扉がノックされる。


「はーい」


 開けると、桜と朱里がいた。

 2人とも既に風呂に入ったようで、若干紅潮した頬が艶めかしい。


「どうしたの?」


「別に。エマとまさきはもう寝ちゃったから遊びに来ただけ。もう寝るの?」


「うん。その予定。中嶋ももう寝ちゃってるしね」


「そう。ならいいわ。行きましょう、朱里」


「はい」


「じゃあ、おやすみ」


「ええ、おやすみ。……それから湊、そう言うビデオを見るのは構わないけれど、もう少し音量を下げた方がいいわ」


「え? いや、ちょっ、誤解だよ。これは中嶋が……」


「彼、もう寝てるのでしょう? 別に恥ずかしいことじゃないわよ。じゃあね」


 イヤなものを見るような目でそう言った桜は、少し気まずそうな朱里と共に踵を返す。


「違うってば!」


 僕は去っていく桜を止めようとして──過ちに気づく。


 ──がちゃん


「ぬあっ!」


 それはオートロックの扉が締まった音。

 僕は締め出された。


「……今日は廊下でお休みね。可哀想」


「待って! 待ってよ! 見捨てないで!」


「何よ。私にはどうする事もできないわね」


「えっと、あの、桜さんの部屋に入れてもらえませんか」


「嫌よ。アンタ女の子の部屋に入るつもり? 私達をどうするつもりよ」


 ダメだ。さっきのビデオのせいで桜の警戒心が強まってる。


「それに私の部屋で寝てるエマは今日も薄着よ」


 薄着かあ。……そう言えば、エマっ普段は寝る時パンイチって言ってたもんな。


「あの、でしたら私の部屋に来ます?」


「「え?」」


 僕と桜の声が綺麗にハモる。


「少し狭いかもしれませんけど、私はまさきさんと一緒に寝るので、ベッド使ってください」


「あなたが神か……」


 ニコッと微笑む朱里はまるで女神のようだ。


「お願……」


「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」


「うん?」


「良くないわ。それは実に良くないわ」


「どうして?」


「当たり前じゃない! アンタと朱里を同じ部屋で寝かせるなんて、できるわけないわ!」


「でも、そしたら隅田くんが……」


「し、仕方ないわね。私が面倒見るわよ。私と寝ればいいわ」


「献身的な自己犠牲……そうか、桜は思いやりに溢れた人だったんだね」


「何他人事みたいに話してるのよ」


 という訳で、桜と寝ることになった。


「あんた、妙にポジション慣れしてるわね」


「あー、ほら、うちの姉がさ」


 うちの姉は家にいる間僕のベッドで眠る。

 必然的に邪魔にならない良いポジを見つける能力が上がったのだ。


 それにしても、こんな風に同じベッドで寝るなんて何年ぶりなのだろう。10年振りとか?



「……8年ぶりだわ」


「え?」


「一緒に寝るのは8年ぶり。……あの時は確か、真ん中に柊がいたわ。大雨の日……夜中に椛が痙攣を起こしちゃって、うちの親は病院に行ったの。私と柊は隅田家に預けられたんだけど、柊が雷を怖がっちゃってね。3人で手を繋いで寝たわ」


 クスッと笑いながら昔を懐かしむ桜。

 そっか。そんな事もあったっけ。


「ねえ、湊は柊のこと、どう思う?」


「どうって言われても……」


 前は可愛い妹分という感じだったんだけどな。

 最近はやけに大人びて見える。

 こうやって少しずつ俺たちは大人になっていくんだろうな。


「僕はね……って、寝てるし」


 少し考えている間に桜はスヤスヤと寝息を立てていた。何だかんだ、彼女もはしゃいで疲れていたのだろう。


 昔の桜には僕しかいなかった。

 こうして友人達と出かける事ができるだなんて、再開前は考えすらしなかった。


 それを少し寂しく感じることもあるけれど、それ以上に、彼女が楽しそうに日々を生きていることが嬉しい。


 いつか僕の存在も数いる中のひとりになるのかもしれない。


 そんな日が待ち遠しいようで──少しだけ怖い。


「おやすみ、桜。また明日」



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