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水着



 外の空気を吸ってバッチリ覚醒した桜と一緒に中嶋たちとの合流地点に向かう。僕自身、広島に来るのは初めてのこと。結構ワクワクしている。


「寝坊助ボーイ発見デス!」


 広島といえば瀬戸内海だろう。

 そんな意見の元、僕達は海辺の自然公園に訪れることになっていたのだが──駅の改札を出たタイミングで、そんな声が掛かった。


 それは言わずもがな、エマの声。

 現地集合するはずの彼女が何故ここに?


「ハッハッハー。アイアム、迷子ガール」


 迷子になってしまったらしい。

 

「遅れてごめん。でも、合流できてよかった」


「ねぼーにスクワれました。アリガトね」


 エマはバシバシと僕の背中を叩くと、ニヤニヤしながら桜の周りをクルクルと回っている。

 桜の方は珍しく、居心地が悪そうな顔で目を伏せている。あの桜でさえ、エマの強靭なコミュ力には及ばないらしい。


「海デス! 海! バナナボートももってキタよ」


 ハッハッハーと楽しそうに笑うエマ。

 確かに荷物の量は人一倍だ。


「とりあえず移動しようか」


 中嶋たちにエマ発見の一報を入れてから移動。

 海には思ったより早いタイミングで着いた。


「海だァァ!」


「海ダー!」


 僕とエマは大の字になって叫ぶ!

 風がとっても気持ちいい。


「桜も一緒にやろうよ」


「イヤよ。みんな見てるじゃない」


 桜は相変わらず人の視線に敏感らしい。

 ここにいる人達とは将来会うこともないんだし。

 なんてことを考えてしまう僕とは、やはり根本的に考えが違うのだろう。


「中嶋たちはもうバーベキューの準備してるらしいよ」


 キャリーケースを引き摺って海へ向かうことになってしまったことに対しては僕たちの計画性の無さを痛感するが、楽しいから良しとしよう。


 結局。僕達が中嶋と合流できたのは、一時間遅れのことだった。






「あー、わかったわかった。謝んのはもういいから、海行こうぜ海!」


 僕はみんなに謝罪をしてから砂浜に敷かれたシートに腰を下ろす。

 

 中嶋は既に水着モード。

 早くも着替え終えているようだ。


「ワタシは水着きてキタっ!」


 いそいそと、人目も憚らずにその場で服を脱いだエマはまさかのスク水。しかも、胸元にひらがなでえまと書かれている。

 我が校の体育の授業に水泳はないので、完全に自前だ。


「フェチデス!」


 フェチね……。

 エマの日本への憧れは若干拗れている気がするが、本人が良しとしているので、まあいいだろう。


「わっはっはっはーーー」


 超上機嫌なエマは中嶋と共に海へ消えていく。

 僕以上に他人の視線を気にしない二人だ。

 周囲の視線をものともしないはしゃぎっぷりだ。


 一方、中嶋の彼女であるまさきはバーベキューの準備。貸し出し用の鉄板の上で焼きそばを作っている。

 黒いタンクトップに白いタオル。更には手袋をしていて、まるで職人さんのようだ。


 脂跳ねないといいけど。


「メシはうちらでやっとくから、二人も着替えて来いよ」


 まさきの言葉を聞いた僕はチラリと桜の方に目配せする。しかし、桜は特に気にした様子もなく、そのままカバンを持って立ち上がる。


「行きましょうか」


 僕も水着と着替え袋を持って後に続く。

 着替えのできる小さな小屋に向かった僕達は特に会話もなく、そのまま男女に分かれて部屋にはいる。


「桜は平気なのか……?」


 他に人のいない部屋で、僕はすっぽんぽんになって水着を履く。多分桜の方が着替えにも時間がかかるだろう。

 一通り手の届く範囲だけ日焼け止めを塗って外に出る。


 それから5分ほど待って、着替えを終えて出てきた桜は──


「マジか」


 凄かった。

 思わず息を飲む。


「ダイバーの方ですか?」


 上下ラッシュガードの完全防具。

 長袖長ズボンの1ミリも肌を見せる気のないアイアン・メイデン。

 逆に感心だ。


「アンタだってパーカー着てるじゃない。文句言うんだったら、アンタも男らしく脱ぎなさいよ」


 いや、僕は海にはいる時は脱ぐよ。

 ただ日焼けが怖いから今だけ着てるのだ。


「それに……一応、水着も新調したのよ?」


 ジーッと軽く胸元だけチャックを開けた桜はその下に着たハイネック型のビキニをチラ見せしてくれた。


「oh......」


 逆にエッチだ。めちゃくちゃ可愛い。

 俺はその光景を目に焼き付けながら、とりあえずサムズアップして歩き出す。


 感想を貰えなかったことが不満なのか、少し不機嫌そうな桜だが、特に何かを言うわけでもなく、後ろを着いてくる。


 いやいや。無理だって。僕にはあの光景を言葉で表現できるだけの言語力はない。

 美も一線を超えると暴力だな。


 僕達はまさき達と合流して荷物を置く。


「おうおう。随分と身持ち堅い奴らだな」


「いや、僕は日焼けすると皮がてろんてろんになっちゃうんだよ」


 それはもう爬虫類なみだ。

 できるだけ強めの日焼け止めを持ってきてはいるが、どれほど効くかは正直自信ない。


「まずは日焼け止めを塗らないとな」


 とは言え背中だけだ。中嶋に頼んでちゃちゃっと終わらせよう。

 俺は日除け用パーカーを脱いで畳む。

 そのまま取り替えるように日焼け止めをカバンから取り出したその時、右肩をグイッと掴まれる。


「お兄さんいい体してはるやないかい」


 実におっさんくさいセリフでまさきがジロジロとこっちを観察してくる。実に居心地が悪い。


「ええよええよ。そんじゃあ、いっちょあたしの本気を見せてやるさかい、そこに寝っ転がりぃ」


「え? 何? 怖いんだけど」


 まさきの目はまるで獲物を狙う肉食動物だった。


「いや、お前いい体してるよ。うん。あたし好みだ」


「は、はぁ。そうですか」


「まじまじ。乳首とかすげぇエロい」


 こういうとこ、中嶋の彼女だよなあ。

 似た者同士っていうか、似た者夫婦って言うか。


「なあ。今度竜也にも鍛えるよう言ってくれよ」


「いや、中嶋だって、体付きはいい方だと思うけどな。腕だってがっしりしてるし」


 ぺたぺたと体中に触れてくるまさきに居心地の悪さを感じていると、痺れを切らしたかのように、朱里が口を挟んだ。


「あの、彼氏がいるのに、他の男の子にそういう事するのは良くないと思います! 日焼け止めは、私が責任もって塗ります!」


 彼女の言うことは概ね正しい。

 ただ、その彼氏というのが、彼女放ったらかしで他の女の子と海でキャッキャしてるのだが。


「おっ。じゃあ、お前がやるか? このむっつりめ」


 からかうように笑ったまさきが朱里に日焼け止めを渡す。

 

「よろしくお願いします」


 遠くではエマが中嶋を追いかけながら海藻を振り回していた。


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