アイドルは、え?くそシスター?
僕はその後、数分に渡りさくらを堪能した後、朝食を摂るために、下の階へと向かった。
僕の部屋は2階で、家族構成は父、母、姉、僕、ペット。父と姉は今イギリスにいるので、この家に住んでいるのは僕と母だけだ。
「おはよう〜」
「おはよう、ご飯できてるわ。らぎちゃんと一緒に食べちゃって」
「うん」
僕は母親とおはようの挨拶を交わして椅子に座る。
机の上にはトーストと目玉焼き、ベーコンサラダが用意されていた。
「湊にぃおはよう」
「うん。おはよ」
母から"らぎちゃん"と呼ばれ、僕よりもひと足先に席に着いて朝食を食べる少女。
彼女の名は桃原柊。一学年下の桜の妹である。
桃原家は名字こそ代わっていなかったものの、再会した時には母子家庭で──夜遅くまで働く桃原ママに代わり、うちの母が朝食と昼食を用意しているのだ。
我が家も桃原家も家庭は似たような状態なので、助け合い、協力し合っているのだ。
『桜もね? 本当は湊くんと朝ご飯食べたいんだけど、どうしても素直になれなくて……』
当然、最初は桜も我が家で朝食を摂る予定だった。
でも──「何でわざわざアンタなんかと朝から顔を合わせなきゃいけない訳? おばさんが作ってくれたせっかくの料理がアンタのせいで台無しになるじゃない!」的な反応で拒否されたのだ。
『嘘はついてないんだよ? 桜ってば、湊くんと一緒だと、ドキドキしちゃって料理も味がしなくなっちゃうから』
え、そういうこと?
「鵜呑みにしていい?」
『いいよ。桜は湊くんが大好きなんだから』
そっか……。なんだろ、ちょっと気恥しいな。
「湊にぃ具合でも悪いの? さっきからぶつぶつ言ってるけど……」
キョトンと首を傾げて顔を覗き込んでくる柊。
姉よりも大きな胸が机の上で潰される。
「南無三!」
どうやら、先程のさくらとのやり取りのせいで、まだ脳が興奮状態らしい。
僕は机に頭を叩きつけて邪念を払う。
おっぱいなんかに屈したりしないぞ。紳士だからな。
「本当に大丈夫? おっぱい揉む?」
「っ! 馬鹿かお前! 彼氏いるんだろ?」
おっぱいを盗み見といて今更かもしれないが、一応諌めておく。
柊は桜同様、かなり可愛い。桜はどちらかと言うと綺麗系だが、こちらは王道。毛先に少し癖のあるショートヘアで、お目目はパッチリ。涙袋に小さなホクロがある。
しかも、桜と違って性格も良いのだ。普段は天然と不思議ちゃんの融合体みたいな行動ばかりしているけれど、それがマスコットキャラ感を出していて、柊は桜の5倍はモテる。
桜が月一なのに対し、去年柊が告白された頻度は週一だという。
僕だってモテたいとは思うけれど、そこまで多いと羨ましくも思えない。断るのとか大変そうだしね。
桜も負けてはないと思うが、高嶺の花感が強すぎて人が近づけないのだ。桜に告白してくるのは大体が先輩だって話も聞いた。
──話は逸れてしまったけれど、とにかく柊は姉と並ぶ程容姿に恵まれていて、しかも優しい。
彼氏のひとりやふたり、余裕でできるスペックの持ち主だ。
「彼氏はいる。私は彼氏持ち。付き合ってる」
「近い、近い、近い、近い!」
何故か彼氏がいる事を主張しながら近寄ってくる柊。
僕の理性という名の砦が落とされるのも時間の問題。
「よし、これだ!」
僕はスプーンで目を塞ぐ。視力検査みたいだが、至って真面目。今は視界のシャットダウンが最大防壁だ。
「視力悪いの? おっぱい揉む?」
耳元で囁くような声が聞こえる。
「揉まねぇよ!」
やっぱりこいつ何考えてんのか、全然わかんねぇぞ。
柊は僕にとっては妹のような存在だ。
なのに、この思考回路と行動パターンだけは全然読めない。
まさか視界を塞いだにも関わらず、耳に攻撃してくるとは。目の前が真っ暗なせいで余計に想像しちまった。
「なぁ、今日のらぎちゃんちょっとおかしいぞ?」
普段はこういう事あんまり言う子じゃなかったはずだ。
気遣いのできる良い子であるのは間違いないのだけれど、どうして僕の性的な欲求に対して気を遣おうと思ったのだろう。
「湊にぃ、欲求不満。何で愛人形持ってるの?」
「いや、持ってねぇけど?」
「何で嘘つくの?」
「嘘じゃねぇってば」
逆に何を根拠に僕がそんなもの持ってるって思ったんだよ。
「むぅ。まあいい。深くは追求しない。……でも、その愛人形ちょっとお姉ちゃんに似てる気がする」
柊の言い分としては、俺が欲求不満に見えたから、という事らしいが、別にそんな事はない。
むしろ、昨日桜のせいで傷心した心も今朝の一件で完全復活した気分だ。
後半はよく聞き取れなかったけれど、特に大事でもなさそうだし別にいいか。
柊はしばらく眉をひそめてこちらを睨んでいたが、やがて諦めたように食事に戻った。
「2人とも朝から元気ね」
コーヒーを片手にやってきた母さんがふふふっと笑った。こういうやり取りは正直親に見られたくない。
僕は母さんの言葉に反応することもなく、そのまま朝食に手をつける。
目の前では柊がカリカリと小さな口でトーストを齧っているが、この分だと後から来た僕の方が先に食べ終わりそうだ。
「そう言えば、お姉ちゃんも様子がおかしかった。おっぱ……何があったの?」
コホン、と咳払いをして言葉を修正する柊。
一応学習機能はついているらしい。
桜の様子がおかしい……か。
昨日の席替えが何か関係しているのだろうか。
「一応、僕も心当たりがないわけじゃないけど」
「……。そう。やっぱり湊にぃ絡みなんだね。なら、いいや」
え、それで納得するの?
「ちなみに、桜の様子はどうおかしいの?」
「ブリッジした状態で階段下ってきた」
「エクソシスター!?」
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