下の下の妹
僕は絡み合う姉妹を見て頭を抱える。
一体僕は何をしているのだろう。
事故とは言え、僕と柊はキスをしてしまったわけで、それに対してシスコンの姉が怒るのは当然のことだ。
僕も大いに反省している。
ただ、その結果、ずっとニヤニヤしている柊が桜に押し倒されている現場を見ている僕の、今の状況に至った理由についてはまるで意味がわからない。
とりあえず、頭を冷やしたいので帰ってもいいですか。
「らぎちゃん、今日はごめん。帰って一人反省会を開くとするよ」
僕はそれだけ言い残して階段を下っていく。
今は2人の母である楓さんはいないようなので、帰ってくる前に逃げたい。後ろめたさで目も合わせられない。
しかし、靴を履いて玄関を出ようとしたところで、ガチャりと鍵が開く。
「ただいま〜って、うわぁ! お兄ちゃん来てたんですね」
桃原家三女の椛参上。
「おかえり、こんにちは。お邪魔してます」
椛はまだ小学生。
僕達は体育祭の振替休日なので学校がなかったのだけれど、この子は今日も通常授業だ。
「もう帰っちゃうんですか?」
「うん。今日はらぎちゃんと遊んでたんだけど、色々あってね……」
「そうですか。残念です。スケブラ買ってもらったので、お兄ちゃんと是非一緒に遊びたかったんですけど、仕方ないですね。お兄ちゃん、忙しいですもんね」
言いながら、ちらりちらりと上目遣いをしてくる椛。
あざとい。けど、その行為は僕の罪悪感をチクリチクリと刺激した。
だって、そのスケブラをさっきまで柊と一緒にやっていたのだもの。
さっきまで散々遊び倒して、そのゲームの持ち主の誘い?を断るなんて僕にはできない。
「もしよければ、今から椛ちゃんと遊びたいなぁ!」
「ほんと!? やったぁ!」
僕は靴を脱いでリビングへと向かった。
「ほっほっほ。儂に勝とうなんて100年早いのだよ!」
「うぅー。さすがお兄ちゃんです。完敗です」
さっきは柊にしてやられた僕だったけれど、小学生女子に負けるほどヤワじゃない。
あの手この手を駆使してハメて、搦手、わっしょい。
僕の圧勝だった。
気持ちいい。嫌なこと全部忘れられる。
僕は勝つことでしか、生を実感できない。
「歴戦の武将みたいな事言わないで下さい。お兄ちゃん、大人気ないです!」
ぷくーっと頬を膨らませる椛の頬をつつく。
「じゃあ、次から僕はキャラクターランダムにしてあげるよ」
これが丁度いいハンデになるだろう。
「……ねぇ、そろそろキャラクター選択してもいい?」
「ダメです」
ランダムで出てくるの、さっきから苦手なキャラばっかりだし、勝てないと面白くない。もうやめたい。コントローラー投げ出したい。
「お兄ちゃん、逃げてばっかりではいけないんです。今日、玄関で会った時も逃げようとしてたんじゃないですか?」
「うっ……」
それは図星だった。
逃げる……確かに、そうだったかもしれない。
それは今日に限った話だけでなく、これまでもずっとずっとうだった。
「そんなの、かっこ悪いよな。よし、もう一戦お願いします!」
人生なんて、大抵のことは上手くいかないものだ。
だからって、逃げてばっかりじゃ人は成長できない。
「でも、何だかんだ、お兄ちゃんはそうやって、最後にはちゃんと向き合うんですよね。最近お姉ちゃんが優しくなったのも、お兄ちゃんのお陰ですし」
僕、今小学生に諭されてますか?
確かに三姉妹の中では椛が一番精神年齢高めだとは思うけど。
そんなことを思ったところで、画面には僕の得意なキャラが。
「お兄ちゃん、邪悪な顔してます……」
圧勝だった。またもや、圧勝だった。
「いやぁ、そろそろ休憩しよっか。楽しかったぁ」
「勝ち逃げです! 小学生相手になんて大人気ない!」
世の中って言うのは引き際が重要なのだ。
「それが大人のやり口か! 汚い! 汚いよぉ」
「戦場に大人も子供も関係ないよ。いるのは一人の戦士だ。僕は今日椛ちゃんから色々教わったし、椛ちゃんも僕から色々教わった。ウィンウィンじゃない?」
「……お兄ちゃん、友達います?」
「!?」
「正直、自信は……ない」