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今後の付き合い



 3時間ほどカラオケを楽しんだ僕と柊は、昼食の為駅近くのファミレスを訪れていた。

 こんな事を言うのはどうかとも思うけれど、多分柊の歌唱力は一生上がらない。少なくとも、僕に教わっているうちは。


「湊にぃこの後どうする? 私の部屋で遊ぶ? ボウリングする? それとも私の部屋?」


「んー。らぎちゃんの部屋かなぁ」


 ボウリングはしたくない。

 というか、柊と一緒にスポーツをしたくない。

 これまで、彼女のアホみたいに高い運動神経は何度も僕の心を打ち砕いてきた。ボウリングに関しても、彼女が250点以下を取っているところを見た事がない。


「そもそも、体育祭が終わったばっかでボウリングは体力的にキツイかな」


 うん。ボウリングはやめよう。


「湊にぃは、たまに100点にも届かない」


「う、うるさい」


 苦手なんだよ。ボウリングは。




 ──そんな訳で、僕達は昼食後、桃原家に向かったのだった。


「湊にぃ。そう言えば、椛が新しいゲーム買った」


「じゃあ、それをやろうか」



 お邪魔しまーすと、部屋に入って通されたリビング。

 渡されるコントローラー。


「これ、一昨日発売したやつじゃん」


 大乱暴スケッチブラザーズ。縮めてスケブラ。

 様々なキャラクターから好きなのを選んで闘うゲームだ。

 

「ゲームは、らぎちゃんに勝てる可能性のある数少ないスポーツだからな」


 僕が小学生の頃なんて、この透けブ──スケブラの強さである程度カースト順位が決まっていた。

 僕が桜をイジメから守り切れたのは、このスケブラのお陰と言ってもいい。


『それはそれで釈然としないね』


 まぁ、なんか安っぽく感じちゃうよね。


「さぁ、らぎちゃん。存分に掛かってこい! 僕は逃げも隠れもしないぜ!」


 僕が選択したのはキャップを被った三等身の少年。

 一方、柊の洗濯はやたらとスタイルのいいお姉さんだ。


「ストック制。三機でいい?」


「おうともさ!」


 少し相性は悪いけれど、僕はある程度まで極めたからな。

 ちょっとばかりのハンデとして、せいぜい頑張らせてもらいますよ。


 さあ、尋常にしょ──


 K.O!


「……ちょっと待って。ブランクがあっただけだから。だいぶ指の感覚も慣れてきたし、まあ、次はいけるか──」


 K.O!


「そっかぁ。新シリーズになってから、後隙が12Fになってたのかぁ。気づかなかったわ。それさえ考慮すれば──」


 K.O!


 K.O!


 ────


 ──


 ……


「うわーん。らぎちゃんのバカァ!」


 完膚なきまでに叩きのめされた。

 柊強すぎ。


「この世界は力こそが正義。たとえ湊にぃがどこかの物語の主人公だったとしても、たとえ正義の味方だったとしても、私が負けることはない」


「ひぃーっ」


 なんだろう。物凄く、柊が怖い。

 いや、それも僕は知っていたはずだ。

 柊は勝利に強いこだわりを持つ子で、その為の労力を惜しまない。


「ライバルが例え相手の性癖に刺さった小学生の妹でも、正ヒロイン気取りの姉でも、幽霊でも、最後に勝つのは私」



 ゴゴゴゴーっと薄ら暗いオーラを身にまとった柊はずずずとこちらへ顔を寄せてくる。

 ちょっと怖いです。


「勝敗は決した。私の部屋に行こう」


「え、でも、僕はまだ──」


「何でも言うこと聞くからラスト1回してって、言った」


「何でも言うこと聞く!? まさか!僕はそんな事言わないよ」


「言った。5回言った。5回言うこと聞く」


「嘘だ!」


 本音を言えば、勢いで言ってしまったような気もするけれど、多分15分以上経ってるのでこんなものもう時効だ。


「勝負は──また来週。また来週家に来てくれたら闘ってあげる」


「分かった、そうしよう」


 僕がそう言うと、何故か機嫌が良くなった柊は僕の腕を引っ張って彼女の部屋がある2階へと向かった。


「テスト期間以来だな」


「ん。湊にぃ最近遊んでくれなかった。椛が一番遊んでもらってる」


 小学生の妹に対抗意識持たないでくれよ……。

 またさっきみたいなオーラが出てる。


「そう言えば、椛もそろそろ帰ってくるころじゃないか?」


 考えてみれば、普通の学生はみんな学校に行ってる時間だ。そして小学生の下校時刻。


「そう言えば、桜は遊びに行ってるのか?」


「ん。隣の部屋にいる」


「うぇ!?」


 いんの!?


「多分寝てる」


 あー、確かに桜ってよく寝るもんなぁ。

 昔、柊が泣きながら俺の部屋にやって来て、お姉ちゃんが死んじゃった! って狼狽えてたこともあったよな。今となってはいい思い出だ。

 当時は本気で心配したけど。


「丁度その辺。壁に耳をつければお姉ちゃんの寝息が聞こえるかもしれない」


 グッと親指を立てる柊。

 一体君は幼馴染をなんだと思っているんだい?


「しないよ、そんな事。僕はもっとノーマルな変態なんだ」


「……そっか」


 少し残念そうな顔で、柊は手に持っていたスマホをポケットにしまった。


 おい、ちょっと待て。

 今、てろりんって音がしたんだけど?

 動画で撮るつもりだったの? 僕を社会的に殺す予定だったの?


「怖いことすんなよ……」


 というか、そもそも隣の部屋で寝てる人の寝息なんて、聞こえるわけがない。いびきならともかく。


「この部屋の壁は結構薄い」


「そうなの?」


「夜あんあんしてるとお姉ちゃんが怒る」


「……あれ、らぎちゃんって彼氏いなかったんじゃないの?」

 

 付き合ってないだけで、男の人とはそういう事をしてるって事?


「大丈夫? ちゃんと同意の上でしてるのか? もし、何かあったら言えよ。その時は僕のお姉ちゃんにチクってやるからな?」


 僕は自分を棚の上に上げて言わせれ貰えば、やっぱり柊の将来は心配だ。

 他人の悪意に鈍感で、更にそれを許してしまう。

 得ることには貪欲。失うことに無関心。

 いつか取り返しの使いことが起こるんじゃないかって、考えてしまう。


「大丈夫。心配しなくていい。私は独りであんあんしてる」


「え?」


「ブイ」


 両手でピースをした柊はカニのように指をチョキチョキしている。真顔で。

 これはこれで、心配な感性だよなぁ……。


「ちなみにお姉ちゃんの部屋から声は聞こえない。あんあんしてない」


「あ、あのね、らぎちゃん。そういう話はプライベートって言って、他所の人にはしない方がいい話なんだよ?」


 異性の前で堂々とそんな話ができる人、まずいねぇよ。

 恥じらいとか、そういうの、ないのかなぁ。


『さくらは時々湊くんのを覗いてます。チラッと。チラッと!』


「どんな感じ?」


 突如聞こえたさくらの声。首を傾げる柊。


「やめろ! やめろって! そういうの、ほんと良くない!」


 そもそも、さくらにはトイレと風呂に入ってこないようにお願いしてるはずなんだけど。どうして!?

 これは後で要相談だな。僕はちょっと怒ってるぞ!


「なんか、もう色々と心配だよ、らぎちゃん……」


 どうせシスコン気味の桜の事だ。

 注意はすれど、あまり強くは言ってないのだろう。

 私の妹が傷ついたらどうするつもりなの!?とか、平気で言うし。

 

「湊にぃが、これからもずっと、面倒見てくれたらいい」


「いやいや。僕達はいつか大人になるんだもの。出会ったからには、いつかは別れなきゃいけないんだよ」


 永遠に失うものはあれど、永遠に得るものなんて、何もないのだ。特に僕なんて、もしかすれば数年後には地元を離れるかもしれない存在だ。


「湊にぃはリアリスト。私はほんの少し、夢を見させてくれればいいのに」


 むーっと口先を尖らせる柊に、子守唄でもうたおうか? と誤魔化す。

 

「ぴよぴよ」


 僕はムスッとした柊の両頬を指で摘む。

 うん。ヒヨコみたい。


 しかし、僕はその手を離すと、指には白い粉が。


「……っ!」


 ああ……そっか。そうだよなぁ。


 なんのことはない。ただの化粧。怪しい粉とかそんなものじゃない。

 

 柊が化粧をしている事に対し、今朝の僕は、珍しいなぁ、なんて陳腐な感想しか抱かなかった。


 違うだろう。そうじゃない。


 こうして僕と出掛けるにあたって、僕のために、彼女は化粧をしてくれたのだ。


「桜が手伝ってくれたのか?」


 普段の柊は、化粧なんて絶対にしない。

 多分、仕方もイマイチ覚えてないはずだ。


「今日の朝、お姉ちゃんが早起きして手伝ってくれた。だから今は寝てる」


 そっかぁ。


「ありがとう、らぎちゃん」


「なんのお礼?」


「さあな」


「変な湊にぃ」


「ぴよぴよ」


「2度目は面白くない」


「そっかぁ」


「でも、ネズミならきっと面白い」


 珍しく、ふふっと微笑んだ柊。


「……えっ!?」


 突如、物凄い腕力で、柊は僕を押さえ付けた。


「うぇ!? なに? なになになに!?」


「大丈夫。チュウチュウするだけ」


「…………。」



「…………。滑った?」


「うん。今のは大いに滑ったな」


「そっか」


 なんか、一瞬だけ危ういムードが流れたけれど、どうにか鎮静したようだ。

 僕が若干握力が弱まった柊の腕から抜け出し、上体を起こしたその時──僕の後頭部を何かが穿った。

 

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