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打ち上げバンザイ



「アンタ何してんのよ……」


「う、うるさいわい! てか、なんで桜もいんだよ。お前もクラスの打ち上げに誘われなかったのか?」


「冗談きついわね。誘われたに決まってるでしょう。私はこれまで行われてきたクラスの打ち上げに呼ばれなかったことなんて、一度もないわ。……高校生になってからはね」


 うわ……。

 最後の高校生になってから、って一言が妙に重い。



 現在僕は、クラスの打ち上げに呼ばれなかった為に、エマに誘われた方のグループ打ち上げに参加することになった。

 メンバーは僕と中嶋と桜、他クラスからはエマとまさき。

 この前一緒だった朱里って子はいないみたいだ。


「あの子は体力的に無理そうだったから。アンタと違ってちゃんと誘われた側の住人だから」


「ぼ、僕だって……!」


「僕だって何よ。言ってみなさい」


 僕だって……。


「ぐすん」


「あー。桜がいじめたデス! 泣かしたデス」


「え、あっ、ちょっ、ちょっと! 湊? 嘘、泣いてるの? えっと、ごめん。ごめんね?」


 あたふたと狼狽える桜。

 当然僕は嘘泣きなのだけれど、ちょっとは仕返しできたので満足だ。


「あれもこれも全部、中嶋のせいよ」


「え……俺のせいなの?」


 すごい責任転嫁だ。さすがに中嶋が可哀想。


「何言ってるのよ、湊。アンタ、こいつに騙されたのよ?」


「え? どういう事?」


「冷静に考えなさいよ。クラスで打ち上げをするって話になった時、中嶋がその計画の中心にいたのなら、誰もが湊の事は中嶋が誘うと思うじゃない」


「あ、まぁ、確かにそうかも」


 僕と中嶋の仲が良いと言うことは周知の事実だ。


「つまり、中嶋はこちらのグループに誘導する為に、敢えて自分から湊を誘わなかったのよ」


 なんてこった!

 僕がクラスのみんなに誘われなかったのには、そんな裏の事情があったのか。

 くそ、中嶋め! 僕が悲しい気持ちになったらどう責任を取るつもりだったんだ!


『それを促したのは桜だけどね。桜が中嶋くんに、嘘を吐かない程度に騙させたんだけどね』


 桜が犯人だったのかよ!

 なんだそれ。すげぇ、涼し気な顔してるけど?

 最早詐欺師の域だよ、これ。


「まぁまぁ、いーじゃんか。細かいことはさ」


 そう言って、まさきはおしぼりで手を拭く。

 関われば関わるほど、彼女の性格が中嶋とマッチしていて、お似合いと言わざるを得ない。

 特に、こういう大雑把なところとかね。


「早く注文しようぜ! 食べ放題でいいか?」


 中嶋は便乗するようにメニューを広げる。

 今日、僕達が集まったのは、駅の近くにあるしゃぶしゃぶ屋さん。高校生からすればちょっと背伸びのお店である。

 このお店のお肉は食べ放題にしてもお肉の質が落ちることがないので、味良し、量良しの二刀流点だ。


「鍋が2つあるから、男女に別れて出汁を決めよう」


 中嶋はそう言って、僕の方にメニューを傾ける。

 出汁か……正直、僕はつけダレの方をこだわるタイプなので、正直何でもいいって感じだ。


「じゃあ、このパクチー&ゴーヤにする?」


「パス」


 緑黄色野菜で取った出汁とか、考えただけで舌が苦くなりそうだ。


 結局、僕達は辛めのチゲと言うことで、話が落ち着いた。



 しばらくして、料理と飲み物が運ばれてくる。


「えー、本日はおイソがしい中まことにありがとうコザイマス!」


 エマが乾杯の音頭を取り始める。


「えー、思えば2ヶ月前〜」


 何故か回想に入る。


「しかしながら、私達の絆は──」


 誰もツッコミを入れない。


「……乾杯デス!」


 5分ほど長々と語ったエマはグラスを掲げる。


「「カンパーイ」」


 僕達はビールジョッキをカツンと合わせる。

 中身はオレンジジュースだったり緑茶だったりと、ソフトドリンクだけれど。

 ちゃんと、ストローもついてます。


「いやぁー! お疲れ様だね、おつかれさまー。何だかんだ、優勝はエマのクラスに取られちゃったしなぁ」


「当然デス。早漏デス」


「エマ、その言葉に足が速いって意味はないぞ」


「そうなんデスか!? ママがパパのこと早漏って言ってたデス。じゃあ、何が早いデスかね」


 真正面で、まさきとエマがそんな話をする。

 僕はちょっと気まずくなって、オレンジジュースの入ったコップに口を付ける。


「経験者の勃也に聞いてみれば? ナニが早いのか」


「教えてー、勃也」


「俺は竜也だ。……ご飯食べ終わったらな。今話すようなことじゃねぇよ──それより、今日の思い出話でもしようぜ」


 そうか、中嶋、君は──


「おい、湊。俺は幾度となく戦場に勃った──立った男だ。あれは、あくまで過去の話だと、理解して欲しい」


 ひどく真剣な顔だった。

 まさか中嶋がこんな顔をするなんて、思っても見なかった。彼にもプライドがあるんだろうか。


「ちなみに、俺はMだ」


「……。体育祭の話をしよう」


 あんまり、そういう話は聞きたくない。

 でも、まさきが中嶋を尻に敷く様子があまりにも想像しやすいものなので、納得せざるを得ない。


「──美海さんのお陰デス」


 おっと、知ってる名前がエマから聞こえてきた。

 クラス一緒なんだっけ。


「美海心恋、足大丈夫そうだった?」


 かすり傷だ、って本人は言ってたけど、あの後他の種目にも普通に出てたから気になってはいたのだ。


「多分大丈夫じゃないデスか? 今日は病院に行くって言ってましたけど」


 ああ、多分その方がいいだろう。

 体育祭中はアドレナリンが出ていただろうけれど、家に帰ってから、捻った事に気付いたり、ってこともよくある事だ。安静にしておくのがいいだろう。


 後でLlNEしておこう。


「美海さんと湊は仲良シ?」


「うん。仲良しだよ。放課後、委員会でよく顔を合わせるしね」


 なんだかんだ、中島の次に、一緒にいる時間の長い友達かもしれない。


『うわぁ、すごい、機嫌悪そう。これくらいで嫉妬するって……桜ってば、もう病気だよぉ』


 さくらは自分の本体に向かって散々な言いようだ。

 僕も敢えて桜の顔色を伺うつもりもないけれど、隣で中嶋がビクビクしてるから殺気は飛ばさないで欲しい。


「なあ、男子諸君。これから、ちょっと、勝負しない?」


 少しピリつきた空気をと吹き飛ばしたのは、まさきだ。

 空気が読めない中嶋に対し、空気を読んだ上で、この発言をできるのが、まさきだ。


「何をするの?」


「そりゃ、大食い対決っしょ! 男子対女子の勝負! 女子陣はちょうど3人だし、良いハンデだと思わない?」


 なるほど、そういうことか。

 僕としてはサラダを齧りながらちょちょちょと、お肉も食べたいのだけれど、たまにはいいかもしれない。


「俺はいいぜ? 俺の胃袋は瀬戸内海より広いからな」


「だそうなので、その勝負受けさせていただきます」


 四次元ポケットの使い手がいるのなら、僕達が負ける理由がない。


「じゃあ、賭けをしようか」


「内容は?」


「内容は──」



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