体育祭終わり。
「ほほう。あれが桃原さんの妹か! ほほう!!!」
「なんでテンション上がってんだよ、中嶋」
「あー……あれが、湊の姉か。 ……あぁ」
「なんでテンション下げてんだよ、中嶋」
部活対抗リレーで、バスケ部のユニフォームを纏った柊を見た中嶋は目をキラキラさせ、年下女子をはべこらせた姉を見てその光を失わせる。
「なぁ……男の俺達よりモテるってどういう事よ。なんで握手会みたいな列ができてるわけ? 死肉に群がるハイエナじゃねぇかよ」
「お前、人の姉を死肉と言ったな?」
ていうか、そんなの、僕が聞きたいよ。
姉は何故か、すごくモテる。異性にも同性にも。
列こそ作っていないが、チラチラと遠目から姉を見る男子生徒はたくさんいる。
「しかも、姉貴の本命は桜なんだよ」
「いいじゃん。年の差百合ってやつ?」
まあ、この歳での4歳差って、数字で考えるよりも広いよな。
実際、僕達が産まれたばかりの頃は姉が親の子育てを手伝って、面倒見てくれていたらしいし。
「もう姉貴はいいだろ。それより、らぎちゃんを応援しようぜ!」
僕達はリレーの方に視線を向ける。
「まあ、桃原さんの妹があんだけ可愛けりゃ、湊が溺愛するのも分かるわな。俺もあんな妹が欲しいぜ」
「うーん」
妹、ねぇ。
僕も前まではそんな感じで接してたんだけど、最近やけに色気が出てきたって言うか、大人びてきたって言うか。
ちょっと心臓に負荷が掛かってる感じ。
「控えめに言って可愛い」
「湊のそれ、聞き飽きた」
そんな何回も言った記憶ないんだけどな。
「つーか、そういえば中嶋さんよ。二人三脚の事なんだけど」
「おーっと、レースが白熱してるぜ」
もう少し上手く誤魔化せよ。
けど、まあ、野暮って言ったら野暮かもな。
せっかく気を遣ってくれたわけだし。
「ヨーヨー、そこのおふたりさん。元気デスかー」
そこで、後ろから声がかかる。
このちょっと訛った感じ……うん。やっぱりエマだ。
「ういっす!」
「スマッシュ!」
片手を上げて挨拶した中嶋に対して、エマが腹に一撃。
どういう挨拶? というか、みぞおち入ったべ。
「2人は知り合いだったんだね」
「ああ、俺の彼女繋がりでな、最近仲良くなったんだ」
中嶋の言葉を聞いて確信した。
やっぱり、こいつの彼女があのまさきって人なんだ。
「今日体育祭終わったらそろばん行きませンか?」
「そろばん? なんで?」
「間違い。ユウハンだった。──ご相伴に引っ張られチャッタかな〜」
ああ、ご飯か。ビックリ。
「打ち上げってことじゃねぇの?」
なるほど、どうしよっかな。
喋りながらスマホをかざしてくるエマの方へピースして、自然な流れでツーショットしながら考える。
「今日、姉貴いるんだよなぁ」
「うわ、お前シスコンかよ」
「友達より姉を優先する時点で、それはもう立派なシスコンだよ。なぁ、エマ」
「ファミコン」
何それ、ファミリーコンプレックスってこと?
文化が違い過ぎていて、ボケなのかどうかもわからない。
「どうすんだよ、俺は湊に合わせるぜ? 多分クラスで打ち上げすると思うから、湊が行かないってんなら、俺はそっちに行くけど」
「……クラスでもあんの? 僕、誘われてないんだけど」
「…………。俺はお肉が食いたいな」
「ねぇ、聞いてた?」
「くすくす〜。湊ハブカレテルんだ! オモシロいデス!」
エマはケラケラと笑っているけど、僕はうるうると泣きそうだよ。
まあ、そのうち誰かが誘ってくれる。はず。
「いいだろ、別に。どうせ行かないんだから」
「僕が問題視してるのはそこじゃない」
行くか行かないかなんてのは、どうでもいいのだ。
気になるのは誰からも誘われていない理由だ。
「来ないだろうって思って誘われれてないのか、それともハブられてるのか、そこが1番気になるんだよ」
「そういうのいいから。で、どうすんの?」
「クラスの打ち上げに誘われたら、そっちに行く。誘われなかったらエマ達と行く!」
「友情よりプライドを優先しやがった」
「かっこ悪いデスね」
「…………。」