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二人三脚


「2年3組の二人三脚、補欠の方は、今すぐに第4走者の場所まで来てください」


 体育委員の放送が校庭に響く。


「ねぇ、2年3組の二人三脚補欠って、隅田くんじゃなかったっけ?」


 ハチマキを三つ編みにねじ込んだクラスの女子がそんなことを言う。


「僕? 僕は確か、えーっと、僕だ!!!」


 僕は急いで第4走者の元へと走る。

 マジか、寄りによってアンカーかよ。


 補欠はあくまで補欠だ。

 もし怪我などで出れない人がクラスから出ない限り、出番はない。

 まさか自分が走るなんて、全然考えてなかった。


 僕、二人三脚の練習なんて1回もしてないぞ。


「す、すみません! お待たせしました!」


 僕は第4走者が集まる場所について、体育委員の先輩に声をかける。


「では、このビブスを着てね」


 僕は赤いビブスを着ると、相方を探す。

 ちなみに、ビブスは他の競技でも使われていたらしく、ちょっと湿っている。

 来ていたのが可愛い女の子であることを祈るばかりだ。


「相方、出来れば身長が近い人だといいんだけど……あっ」


 まさかも、まさか、想定外。

 第4走者が並ぶレーンで、つまらなそうな顔をして相方を待っていたのは桜だった。


「マジか、桜か!」


「何よ、不服かしら?」


「滅相も御座いません!」


 僕は桜の左隣に立つと、早速布を巻き付ける。


「い、痛くないか?」


「え、ええ。大丈夫よ」


 なんだろ、よくわかんないけど気まずい。


 僕は少しキツめに布を巻くと、上体を起こす。


 ──昔はこんなに身長差なかったよな……。


 多分、今はもう15cmくらい差が開いてると思う。


「アンタ無駄に図体だけ大きくなったのね」


 同じような事を考えていたのか、桜は僕を見上げてそう言った。


 クソっ、近いんだよなぁ。


 汗に混じって、シャンプーのいい匂いがする。

 癖になりそうな匂い。


「視線が イヤらしいんだけど? やっぱり視姦趣味なんじゃないの?」


「な訳ねぇだろ!」


「あーやめて、やめて。暑苦しい。ただでさえこの距離だと言うのにこれ以上は適わないわ」


 そんなやり取りをしているうちに、いつの間にかスタートの号砲が鳴る。


「おい、始まったぞ」


「分かってるわよ」


 二人三脚は100mを3回走った後、アンカーが150m走るリレー形式だ。


 出だしは順調。6クラスのうち、2位だ。


そのまま順位は変わらず、目の前で第二走者のクラスメイト達にバトンが引き渡される。


「第4走者の人達は定位置に着いてください」


 体育委員の指示が出る。


「行くぞ」


「いちいち指図しないで」


 僕達は一歩踏み出そうとして──ずこっ。

 思い切りコケた。


 どうにか僕が下敷きに割込めたので、桜は僕の胸板に頭突きする形になったけれど、今のは下手したら地面に顔を強打してもおかしくなかった。


 僕は桜に押し倒されたような姿勢になりながら口を開く。


「気を付けろよ、下手したら今ので怪我してたぞ」


「まるで私が悪いみたいな言い方ね」


 僕達は小言を言い合いながら、定位置に着く。


「って……あれ? いつの間に」


 いつの間にか、うちのクラスがビリになってた。

 他の5クラスが団子状態で白熱している中、うちらのクラスだけ遅れをとっている。


「見てなかったの? バトンを渡すタイミングで転んだのよ。視野が狭いわね」


「あー、悪いな。桜の事で精一杯で──」


「なっ! 私に見蕩れてたなんて、そんな……」


 いや、言ってないけどね。


 僕達を置いて、次々他のクラスが出発していく。


「これはあれかな。ビリが確定してるのに最後まで全力で走り切らなきゃいけないやつかな?」


 一位との差は既に15mくらいある。


「……アンタ、それ、本気で言ってんの?」


「半々かな。──それとも、桜はこっから勝つ気でもあんのか?」


「当然よ。私の辞書に敗北なんてないわ」


 まぁ、テストは毎回僕が勝ってるけどね。

 けど、負ける気はない……か。


「桜、100m走のタイムは?」


「私を体育会系と一緒にしないで。──50m走は6秒72よ」


 そのセリフ、どっかで聞き覚えがあるな。

 でも、それなら余裕だな。


「勝ちに行くか。──わかってるよな?」


「ええ。私はただ真っ直ぐに己の道を行くわ」


「なら()は、ただその隣に寄り添うよ」


 痛くて、痒くて、恥ずかしいセリフ。


 けれど、これが本当の僕等の関係なのだから。


 桜はクラウチングスタートの構え。

 僕はバトンを貰うため、左手を後方に伸ばす。


 そして──バトンは今、僕達の手に渡った。


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