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スマホ


『何ニヤニヤしてるの? 湊くん』


 ベッドに座る僕の後ろから抱きついてきたさくらが、肩から顔を出して僕のスマホの画面を覗く。


 さくらは今ニヤニヤしていると言っていたけれど、実際には苦笑いだ。

 少し、いや正直結構、困惑している。


「桜の返信がめちゃくちゃ早い。絶対10秒以内に返って来るんだけど」


 わざと時間を開けてから返信をしてもそれは変わらず。

 なんだこれ。ずっと見てんのか?


 あいつ今、友達と遊んでるんじゃないのか?


『なんか、ちょっと怖いね……』


「普通にこえーよ。つーか、雑談ばっかで全然週末の予定に話が移らないんだけど」


 しかも、SNSを通すとキャラ変わりすぎ。

 絵文字、顔文字バンバンだし。


 ──はしゃぎ過ぎてのどが痛い( •̥ ˍ •̥ )‬


 いや、楽しそうなのは良いんだけどさ、友達との交流も大切だと思うんだよね。せっかく遊びに来てもらってるのに、スマホに集中し続けるのは良くない。


 そもそも、これって本当に桜が返信のしてるのかな。

 エマ辺りの仕業ではなかろうか。


 ──エマがシャワー浴びに行ったみたい。寝る前には必ず浴びるんだって!


 エマの仕業ではないらしい。


 ──まさきが覗きに行った! いやーん。


 まさきでもないらしい。いやーんなんて、桜言わねえだろ。てことはつまり……


 ──朱里はもう寝ちゃった。一人ぼっち。ぴえん。


 

「……僕は桜のギャップに耐えかねて、頭が痛いよ」


 言わねえだろ、ぴえん、なんて。


「LlNEだと、結構キャラ変わるね……っと、送信!」


 ここはずばりと切り込む。


 ──変でしたか?


 今度は敬語? ますます混乱してきた。


 ──普段は全て、ですます調で返信してます。

 ──湊は硬い言葉を嫌うと思い、辞書を片手に返信してました。


 二文に別れた桜の返信は以上のようなものだった。

 辞書を片手にってのもビックリだし、返信の頻度もビックリだし、言葉遣いもビックリだし、もう何をどうすればいいのか分からないので、僕は『週末の予定を立てよう』一言そう返信する。


 時刻は現在1時半。

 明日も学校があるので、あまり夜更かしできない。

 早めに予定を決めて寝たいのだけれど……


 ──それは明日話しませんか? 


 マジか。それだと雑談だけで終わっちゃうんだけど。

 話したいこと、全然話せてないんだけど。


『冷たいなぁ、湊くんは。理由がなくたって話したいと思うのが、好きって事でしょ? 湊くんは桜と、用がないときは話したくないの?』


 別にそんなことは無いけれど。


「……じゃあ桜は、この取り留めのないやり取りが楽しかったって事?」


『そうだよ。返信が来るのが楽しみで、ずっとスマホを見てるくらい』


 そうだったのか。

 怖いって言って悪かったかな。


 僕は桜におやすみを伝えてベッドに横たわる。

 当たり前のようにさくらは添い寝しているけれど、そろそろ暑い季節。


「もう夏か……」


 体育祭が終われば、文化祭準備が始まって、いよいよ夏休み。

 

『さくらとも、たくさん思い出作ってね』


「そうだな。今年の夏は友達と遊んで有意義に過ごそう」


 たまには自分から中嶋を誘ってみるのもいいかもしれない。


 あー。


『……どうしたの? 何か憂鬱?』


「いや、親父と姉貴が帰ってくるなぁ、と思ってさ」


 仲が悪いわけじゃない。

 ただ、姉貴の方がちょっと苦手。

 歳は4つしか離れていないけれど、小さい頃から父親と海外を渡り歩いている彼女とは桜や柊以上に関わりが少ない。

 向こうからすれば、可愛い弟ちゃんなのだろうけれど、僕からするとお姉ちゃんではなく姉貴……というよりお姉さんみたいな感じなのだ。


「伝わるかな?」


『向こうは姉弟として接してくるけれど、湊くんからすれば、異性のお姉さんって事?』


「そう。それ! 裸でウロウロされると目のやり場に困るじゃんか!」


『うんうん』

 

「一緒に風呂も無理だよな」


『うんうん』


「誕生日におしゃぶりと哺乳瓶送ってくるとか有り得ないだろ? こっちはもう17だってのに」


『うんうん……ん? 真央さんってそんな変人だったっけ?』


 家の外では王子様とか呼ばれてるらしいけど、それは外面が良いだけであって、姉貴の本質ではない。

 

「……それに、あの人、努力すれば何でも出来ると思ってるし、事実大抵の事は努力で乗り越えられる人だから、僕にとってはコンプレックスでさ。姉貴が空を飛んでも、僕は驚かないよ」


 今回も、テストの点数で怒られるのかなぁ。

 今から少し憂鬱だ。


 ──ぽったたた、ぽったーこん


 スマホが愉快な音楽と共に振動する。


 画面には隅田真央という名前。


 噂をすればなんとやらってやつだろうか。


「もしもし──」


「やあやあ湊かい? 私だよ。真央だよ。久しぶりだね。おはよう、こんにちは、こんばんは」


「こんばんはだね、姉貴。こっちはもうすぐ午前2時になる頃だよ」


「へぇー、そうかい、そうかい。私は今起きたばかりだよ」


 少なくとも5時間は時差のある国にいるらしい。


「珍しいね。姉貴が電話をかけてくるなんて。お盆には帰ってくるんでしょ?」


「いやいや、それがね。私の住む町が紛争に巻き込まれてしまってね。少しだけ帰りが早くなりそうなんだ」


「げっ」


「何か言ったかい? 姉を心配するよりも先に、自分の身を案じたのではないだろうね?」


「ま、まさかー。姉貴が、怪我をしてなくてよかったよ」


「ふふっ。そうかい。こんな時の為に銃弾を避ける訓練をしておいてよかったよ」


 冗談が言える程度には、状況は悪くないらしい。

 そんなに大きな被害は出ていないのかな?


「ちなみに、いつ帰って来るの?」


「そうだね。後6日かな」


 体育祭の前日だ……


「楽しみにしてるよ」

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