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運命の人



「ただいま」


 ファーストフード店で解散した後、私は一足先に家へと帰宅し、パーティーの準備を進める。

 皆、一度家に帰宅して風呂や着替えを済ませてからここに来るらしいので、私は部屋の片付けをする。


「はぁ、我ながらおバカさんね」


 片付ける、と言っても部屋はいつも綺麗にしている。

 無論、湊がいつ来てもいいようにだ。

 私は湊の事ばかり考えている。

 なのに私は湊のことを全然知らない。


「本当に愚かね」


 彼が今どこで何をしているのか、私をどう思っているのか、何も知らない。


 ──あ、でも今日は中嶋とナックに行くって言ってたわね。

 私と同じ店にはいなかったはずだけど。


 軽く時間を持て余した私は部屋のカーテンを薄く開けて外を見る。


 すぐ隣は湊の部屋。


「電気は付いてないわね……まだ遊んでるのかしら?」


 私はゴロリとベッドに寝転ぶ。


 ──ちょっと休憩。


 みんなが来るまで少し寝よう。

 きっと今日は夜遅くまで眠れないだろうから。





 次に目が覚めたのは、インターフォンの音でだった。

 

「みんな一緒に来たのね」


「そうそう! ケーキも買って来たぜ!」


 私は3人を自室へと招く。

 明日だって学校はあるけれど、みんな泊まっていく気満々なので、ジャージや制服などを着てきた。


「私の部屋はこっちよ」


 誰かを部屋に招くなんて初めてだ。

 なんかちょっと、緊張する。


「うわぁ、桜の部屋チョベリピンク〜」


 まさきは死語っぽい言い回しで感嘆の声を上げる。


「なんか、ここまでピンク尽くしのピンクだと、エッチな気持ちになっちゃいますね」


 ──ギクッ


「あ、朱里。違うのよ? 私が部屋をピンクで統一したのは苗字が桃原だからよ。決して邪な気持ちはないわ」


「わかってマース。桜がそんなこと考える子じゃないデスから!」


「……このミラーボールはなんだ?」


「これはあれよ。クラブ気分よ」


「このアロマキャンドルは?」


「趣味よ……」


 部屋を物色し出す三人に、思わずため息を吐き出す。

 こういうのは男子高校生がベッドの下を漁るノリではないだろうか。


「へえー。あ、ペンギンさんデス! 可愛いデ……」


 私はベッドの上にいたペンさんに触れようとしたエマの手を掴む。そのぬいぐるみだけは、柊にも椛にも触らせていないものだ。


「それに触ったら、殺すわよ」


「ヒッ……!」


「あ、ごめんなさい。それ、大事なものなの」


 私はクローゼットを開けると、棚の上にそっと乗せる。

 しばらくはここに入っていてもらうしかない。

 

「ま、まあ、まずはパーッとやろうぜ! 今日は炭酸ジュースたくさん買ってきたから!」


 一瞬だけ流れてしまった変な空気をまさきが流す。

 正直助かった。


「わーい!」


 まさき達は机の上にスナック菓子や飲み物を広げていく。


 炭酸ジュースなんて、何年ぶりだろう。

 昔はそこそこ好きだった。

 けれど、転校して、自分を大人に見せようと思うようになってからは、コーヒーをブラックで飲んだり、ジュースを飲まなくなったりするようになった。

 ジュースを飲まない事が大人っぽい、苦いものを嗜めるのが大人っぽい。そんなイメージが私にはあったのだ。

 否、ある、と言うべきだろう。今もそう思って続けているのだから。


「では〜、桜の栄光を讃えて〜乾杯!」


「「「カンパーイ!」」」


 こうしてパーティーが始まった。






「桜サンは運命の人って信じマスか?」


 運命の人……?

 1時間程語り合った頃、エマが唐突にそんなことを言い出した。


「昔は信じてたわ。疑いすらしなかった。けれど、今は信じたい、って言うのが本音かしら」


 運命は変えられる。良くも、悪くも。


「私は信じますよ。私も今の推しと出会ったのは、本当に些細なきっかけでしたから」


「んー。私は別にって感じだな。今の彼氏も付き合ってからは気持ちが冷めてく一方だし」


 意見は三者三様って感じのようだ。


「まさきさんって結構ドライですよね……」


「仲良しって感じだと思ってマシたケド」


「別に彼氏が好きじゃなくなった、とかそう言う事じゃねぇよ? 相手が好きなままでも、恋は冷めるって話しよ」


「デモでもデスよ? いつまでもドキドキラブラブしたくないデスか?」


「私はしたいですね。キュンキュンの毎日を過ごしたいです」


「それは恋に恋してるってやつじゃね? まあ、お前らも付き合ってみればわかんじゃねーの? 多分付き合う前の方が楽しかったって言うタイプだろうけど」


「うわっ」


「ぐふぁぁ」


 まさきのことばで2人が撃沈する。

 恋だけが好きってことにはならない、という意味だろうか。湊が言いそうな言葉だ。


「今、その彼氏と付き合ってて、まさきは楽しいの? 私もそういうのは、よく分からないのだけれど」


「恋が冷めても代わりに愛情が芽生えるっつーか、なんだろな。楽しいぞ。喧嘩もできるようになったしな」


「喧嘩がタノシイのデスか?」


「言いたいこと言えるって大事だろ? 付き合いたての頃は、やっぱりお互い顔色伺い合ってたからさ。今の方が安心はできるよ」


「それ、もはや夫婦じゃないですか!」


 言いたいことを言い合えて、喧嘩ができるのが夫婦。

 という事は、私と湊は──って、何考えてるのよ。

 私のは喧嘩とかそう言う話じゃない。

 あれもこれも、本当に言いたいことを伝えられなかった結果じゃないの。


 ……やはり私と湊は、恋人からは程遠い存在なのかも。


「まさき今何年付き合ってるのデスか?」


「もうすぐ4年」


「4年!? 高二で4年!?」


 私なんて、湊に話しかける事もままならないのに。

 まさきはもう4年も寄り添ってるの?


「同じ中学の人ですか?」


「そうそう。高校も同じ。──あ、今年桜と同じクラスだぞ。中島竜也って言うんだけど、知ってるかな」


「あばばばばばばばばばは」


「さ、桜サン? ダイジョーブ!? 目が渦巻きになってるヨ!」


「い、いえ。それでエマ。運命の人って話題を出したからには、エマにも何かあったんじゃないですか?」


 だいぶ話が逸れてしまったけれど、再び運命の人へと話が巻き戻す。

 まさか、まさきの彼氏が私の憎き敵だったとは。


「そうそう、そうナンデスよ! 実は今日、ポテトを咥えてお店を歩いていたら、同じ学校の男の子にブツカッてしまったんでデス! ジャパニーズカルチャー的にはこれって、運命の人じゃないデスか?」


「普通パンじゃねぇの?」


「そうですね。……でも素敵じゃないですか? そこから始まる恋があってもいいかもしれません」


「ソッカ! じゃあ、明日、学校で探してみるヨ」



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