いい話風
湊が中嶋とナックにいた時の桜視点のお話
「今日集まってもらったのは他でもないわ。隅田湊の事よ!」
「へぇー」
「はぁー」
「ふーん」
放課後のファーストフード店。
騒がしいハンバーガーショップ。
本日の議題を高らかに宣言する私の前にはやる気のない学友が3人。返事をする。
まず、私の右隣に座っているのが、香山まさき。
ショートヘアのボーイッシュな感じの子で女子にもモテるが、一応彼氏がいるので、私の敵ではない。
次に対面に座っているのが、本田エマ
キャピキャピ系でみんなの人気者。金髪でアメリカ人と日本人のハーフ。ミドルネームは忘れた。今のところ敵ではない。
そして、最後に右前に座っているのが松本朱里。
巨乳の眼鏡っ子で、よく男子からいやらしい視線を受けている。三次元に興味がないらしいので敵ではない。
「で? 今回の議題は?」
「ええ。よく聞いてくれたわ。ズバリ──」
「あ、ごめんなさい、桃原さん。ちょっとトイレ行ってきます」
「oh......! 松本さん便ジョニーデスね? なら、ワタシもポティト買ってくるネ!」
朱里が席を立つと、エマまでもが席を立ってしまった。
残ったまさきはスマホから目を離さない。
この三人とは去年同じクラスだったのだけれど、特に、朱里とまさきのキャラは対極と言ってもいいほどにかけ離れている。
それでも共通するのはとてつもなくマイペースだということだろう。
「はぁ、しばらく待つしかなさそうね」
──それから、それから
「仕切り直すわ。今回の議題はズバリ! 第11回隅田湊のLlNEゲットしよう作戦よ!」
「「ぱちぱち〜」」
拍手くらいしなさいよ……。
エマと朱里はやる気なさそうに口でぱちぱちーと擬音を奏で、まさきはポテトで汚れた手を払ったついでのぱちぱちだ。
「今回こそは、隅田湊のLlNEを手に入れるわ!」
「そう言い続けてもう11回目、と。正直、あたし等はもう
諦めかけてるんだけど? てか、去年の今頃、アタシに夏休みダブルデートしよう、みたいなこと言ってたよね? 桜の言う夏休みってのはいつな訳?」
「んなっ! 今度こそ、今度こそ頑張るわよ! 席だって隣なのよ? 明日の今頃は祝勝会よ!」
ダブルデートは……その、ちょっと難しそうかもしれないれど、せめてLlNEだけは今週中にゲットするつもりだ。
「あの、桃原さん。私達ってみんな今年はクラスが違うので隅田くんとどんな感じか説明してくれませんか?」
「え、ええ! それならたくさん聞かせてあげるわ! 今日はね、英語の授業で英対話があったのよ。もう、すんっごく優しい声で聴き惚れちゃったわ。教科書でニヤケ顔を必死に隠したりしちゃってね。それでね、ここからが凄いのよ! 対話が終わった後にね、湊の奴ってば、私に綺麗な発音だねって言ってきたのよ? うふふっ。楽しかっなぁ」
「……そ、ソレは本当に正しい発音デシたか? すじゃなくてthでしたか?」
「すっ! すげぇじゃねぇか!!!!」
「thげーぃじゃないデスか!」
エマ、ちょっとうるさいわね。
「でも、これだけで話は終わりじゃないのよ」
「なん……だと?」
「今日は私から話しかけたわ」
「すっ、すごいです!!!」
朱里が大声を上げると私の手を包むように掴んだ。
すると、スマホを机に置いたまさきも便乗するようにして私の肩を叩いた。
「頑張ったチャンだね! たくさんお話できたんだね。本当によかったデス!」
エマは感極まったように涙を零す。
先程までの態度とは別人のようだ。
「ずっと遠目から見つめるだけだった桃原さんがついに隅田くんとお話を……およよ」
「ぐすっ。桜、よく頑張ったな。あたしは嬉しいよ……ぐすっ」
「よかったヨォー! 桜がガンバった甲斐があってよかったデスよぉぉぉぉ。うわあああああん」
「みんな……」
私はいい友達を持ったと思う。
昔はカラに閉じこもって、他者との関わりを閉ざし続けた。
でも、視野を広げてみれば、こんなにも世界は優しさで溢れている。
私と湊が会話できたことを自分の事のように喜んでくれる友達がいるのだ。
「アタシがパフェ奢ってやるよ。好きなの頼め!」
「ありがとう。まさき」
「今度、桜の家でパーティーしないとデス!」
「ありがとうエマ」
「いえ、今度と言わず、今日しましょう!」
「ありがとう朱里……でも、今日は水よ──」
「「ノッタ!」」
「ええ?」
よく分からないけれど、どうやら今日は私の家でパーティーが開かれるらしい。
そうだ。
実は湊とときどき一緒に登校してることも話そう。
今週末デートに行くことも話そう。
きっとみんな、ビックリするはずだ。
……あれ、そう言えば作戦会議してないわ。
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