晩餐会
「よし、これでいいかな。桜、運ぶの手伝ってくれる?」
「分かったわ。ああでも、まずは先にテーブルを拭いた方が良さそうね」
僕は水で濡らしたテーブル拭きを桜に投げ渡す。
料理も全部終わり、いいタイミングでお米も炊けた。
早炊機能ってすげぇよな。
普通に美味しく炊けるし、むしろ通常モードなんて要らないんじゃないだろうか。
「いえ、やっぱり通常モードの方がお米の甘味はあるわよ。まぁ、食べ比べなきゃ分からない程度の差だけれどね」
そう言いながら机を拭く桜の臀部をただ何となく見つめる。ジャージエプロンなんて、あまり華のある格好ではないけれど、素材良ければ全て良しなんだろうなぁ。
──ピンポーン
本日二度目のインターフォン。
誰だろう。母さんの帰りにしては早すぎる。
僕はカメラで確認せずにそのまま玄関の扉を開いた。
すると目の前にいたのはちびっこい女子小学生。
「こんばんは。お姉ちゃん達来てますか?」
「こんばんは。今日はこっちで夕飯食べるみたいだから、上がってって」
僕は女子小学生の手を優しく、優しく、優しく、慈愛を込めて握り、手を引く。
彼女の名前は桃原椛。
桃原家の末っ子だ。現在11歳の小学6年生。
「桜お姉ちゃん! 連絡くらいして! 2人とも全然帰ってこないからソワソワってしちゃったんだから!」
「ごめんね。忘れてたわ」
椛はある意味三姉妹で一番のしっかり者。
ちょっと抜けてる桜や天然の柊を補うように、バランスの整った性格をしている。
「柊お姉ちゃんもいる?」
「多分柊なら寝てるわ。一目散にベッドに潜り込んだもの」
さすがは柊。
よく他の人の家で熟睡できるよな。
僕は割と神経質なので旅館とかでも難しいのに。
桜はエプロンをしゅるりと外して椛と共に階段を上っていく。柊は寝起きがとてつもなく悪く、例え昼寝であったとしても、抱いて揺すってやらなければ覚醒しない。
毎朝の桜の苦労が目に浮かぶ。
「さて、僕は僕で準備しようか」
──ぽくぽくぽくちーん
「「「「いただきまーす」」」」
我が家に可憐な少女達の声が響く。
桜、柊、椛。こうして桃原家の三姉妹と共に食卓を囲むのは本当の本当に久しぶりだ。
「これ、わさびマヨネーズ」
桜の好物だ。
あまり辛いのとかは得意ではなさそうなのだけれど、小さい頃から、からあげの時は必ずこれを付けて食べている。
ちなみに僕はわさびが食べられない。
「アンタまだ食べられないの? お子様ね」
「桜はお姉さんだなぁ」
モグモグとからあげを口に頬張る桜。
「お、美味しいわ。これはダイエットが大変そうね」
桜はそう言ってコップの水を全部飲み干す。
つーんと来ちゃったのだろう。少し涙目だ。
「せっかくお兄ちゃんが作ってくれたご飯なんだから、今は美味しく食べることだけを考えるべきなんじゃないかな?」
「ん。湊にぃの作る料理は世界一」
「ははっ。二人ともありがとう」
「私もちょっとは手伝ったんだからね?」
「お姉ちゃん、料理出来たっけ?」
「うん! 桜お姉ちゃんすごいんだよ! この前スクランブルエッグ作ってくれたんだから!」
「いえ、あれは玉子焼きよ……」
ゴニョニョと縮こまる桜。
彼女は妹達といると意外と弱い。
妹煩悩というか最早シスコンみたいなものだ。
「桜は立派にお味噌を溶いてくれたよ」
「そうよ。サラダも私が盛り付けたわ」
「さすがお姉ちゃん! すごーい!」
「ええ、ありがとう」
こうして、僕は久しぶりに誰かと食卓を囲み、『みんなと食べると美味しい』の意味を知ったのだった。
日付が変わった頃にもう1話投稿します。
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