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キャラ作りの為のブラックコーヒー



 桜と和解してから数日が経った。

 

 あの後、陰で僕達の話を聞いていた柊が色々とサポートしてくれたお陰で、初めはぎこちなくもあったけれど、今は少しずつ前の関係を取り戻している。……いや、桜の方はまだ全然ダメか。

 桜の毒舌はもう癖みたいなもので、時々心を抉る言葉を吐いて来たりもするのだけれど、その後必死に謝ってくるものだから、今はちょっと可愛く見えたりもする。


 そして、今日は土曜日。


 桜と柊が隅田家に来て勉強をする約束をしている。

 テストも直前に迫り最後の追い上げだ。

 

 そろそろかなぁ。そう思った時、ピンポーンとインターフォンが鳴った。ベストタイミングだ。


「はーい」


 僕が玄関を開けると、そこにいたのは2人の少女。

 桃原桜と妹の柊だ。


「いらっしゃい。先に僕の部屋に上がっといて」


「お邪魔しますわ」


「お邪魔します」


「桜、口調がどっかの貴族みたいになってるぞ?」


 柊はともかく、桜は数年ぶりの我が家。ちょっと緊張しているみたいだ。


 僕は二人に部屋へ向かうように言うと、飲み物の準備をする。

 桜には緑茶、柊にはオレンジジュースだ。

 

 姉妹なのに味覚も全然違うよなぁ。

 桜はコーヒーをブラックで飲むけれど、柊は苦いのが全くダメだ。


 こんな正反対な2人だけれど、見た目はどちらも最上級の可愛さ。桜はどちらかと言うと綺麗系なのだけれど、容姿が整っていることには変わりない。


 僕はお盆に3人分の飲み物を置いて2階へと向かおうとしたのだけれど、そのタイミングで、柊が階段を下りてきた。何故か一緒にさくらもいる。


「何か手伝う?」


「ううん。平気だよ」


『さくらも手伝う?』


 さくらも大丈夫。


「湊にぃ。お姉ちゃんそっくりの愛人形(ラ〇ドール)──これ、喋るの?」


 またその話か。


「らぎちゃん、だから僕は愛人形(ラブド〇ル)なんて──」


 しかし、僕がその言葉を言い切るよりも先に、目を見開いた。

 視線の先にいるは白いワンピース姿に半透明な体。

 彼女の正体は桜の生霊──さくらだ。


 もしかして。


『ねえ、湊くん。柊にはさくらの事、見えるみたい』



 ──ポクポクポクちーん



「まずは落ち着こう、らぎちゃん。とりあえず深呼吸だ」


 柊はホラーと雷が大の苦手。

 今でも雷の鳴る夜は、桜のベッドに潜り込まなければ、眠れないくらいだという。

 彼女が取り乱す前にまずは落ち着いてもらう。


「すぅーはぁー。すぅーはぁー」


 腕に抱きついてきた柊が深呼吸する。

 柊の熱い吐息が布越しに肌へと伝わってくる。

 そんな体に密着された状態で深呼吸なんてされても……。

 臭くないよな? 大丈夫だよな?


「……落ち着いた」


「よし、じゃあ、まずなんだけど、これから話すことは絶対誰にも言わないでもらいたい」


「湊にぃがそう言うなら、約束する」


 ふぅ。よし、ひとまずは大丈夫そうだ。

 ……後は何を伏せて何を話すべきなのか、という事だけれど、さくらの正体が桜の秘めた好意である、ということは伏せた方が良さそうだ。


「この子は桜の生霊らしいんだ。席替えで僕と桜が隣の席になった日の夜に僕の枕元に立ってたんだ」


『さくらが来たのは朝だけどね?』


 そこはどっちでもいいだろ。


「つまりそういうことです」


「……害はないの?」


 害って……。

 一応桜の生霊なんだから、その言い方はちょっと……。


『さくらは無害だよ。湊くんと遊んだりしてるだけ』


「らぎちゃん、一応桜には伏せておいてくれるかな?」


「うん。こんなこと、私の口からお姉ちゃんには言えない。また今度、詳しく話を聞かせて」


「了解」


 その時までに、それっぽい言い訳考えておかないとなぁ。

 らぎちゃんを信用していない訳では無いけれど、もしこのことが桜にバレでもしたらきっと大変なことになる。

 少からず、桜のことは傷付けるだろう。


「ちなみに桜には見えてないんだよな?」


『そうだね。目の前を通り過ぎたけど、全く反応しなかったし』


 よかった。

 これでもし、桜に見えてたりしたら僕にも打てる手がなかった。

 僕はほっと溜息を吐いて胸を撫で下ろす。


「じゃあ、そろそろ上に行こうか。あんまり待たせると桜も不審がるだろうし」


「わかった。──後、カステラ持ってきたからお皿が欲しい」


「了解。そこの棚に入ってるから、持ってってくれるか」


「ん」


 僕は飲み物の乗ったお盆を再度左手に持つと、階段を上っていく。

 階段を上っていく1番奥が僕の部屋。

 隣は一応姉貴の部屋だけど、もう何年も掃除以外で立ち寄っていない。


「さくら、扉開いてくれ」


『任せて』


 キイッと開く扉。

 傍から見たら、これもポルターガイストなのだろうか。

 そんなことを考える。


「お待たせ桜……って、何やってんだ?」


「あっと、えっと、うんと、いんと、おっと」


 僕の前であたふたし始めたのはベッドの上で枕に顔を埋めていた桜。

 どう見ても変態の所業である。


『庇えないなぁ、これは。どう見ても現行犯だよ』


「他人事みたいに……」


『他人なんだってば。桜はあくまでさくらの親だよ。さくらはこんなにむっつりスケベじゃない。いつも堂々とちゅーしよって湊くんに言ってる』


「受理したことはないけどな」


「アンタ達が遅いから眠くなっちゃったのよ!」


 虚しい怒鳴り声が部屋に響く。

 こいつ、責任転嫁しやがった。すんげー図太い。

 顔は真っ赤だけど。


「……湊にぃが匂いフェチを開花させた」


 和解の後遺症はちょっと重いみたいだ。

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ありがとうございます。


第二章始まりました。

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