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ごさくらにする? おさくらにする? それともわたさくら?



 家に帰ると、当たり前のようにさくらがいる。

 さくらは何故か僕の家からは出ることができないようで、学校に行っている間は会えない。


『それがね、ちょっと違うんだ。私は湊くんに取り憑いてる訳だから、自由に家から出ることも出来るんだよ。家の外では見えないだけで』


「へぇ、そういう事だったのか」


『うん。試しに全裸になってみたけど、全然反応なかったし』


 僕が見てないところで、そんなハレンチなことしてたの!?


「霊感強い奴いたらどうすんだよ」


『あれ、もしかしてジェラシー?』


「……別にそういうわけじゃないけど、あんまりいい気はしない……」


『へへっ。そっかぁ。じゃあ、もうしないから頭ナデナデして?』


「え? 今?」


『いーまー』


 そう言ってさーちゃんはベッドの上で胡座をかいた僕の上にすっぽりと収まるようにして座った。


 今日は委員会帰りなので日も沈んでおり、さくらにもこうして触れることができる。


『ふにゅーん。えへへっ。やっぱり湊くんのナデナデは心地いいなぁ』


 生霊の方の桜──さくらは精神年齢が低いように感じる。というよりは、この性格や話し方はまるで彼女が転校して行く前の桜だ。

 昔はこれくらい人懐っこい性格だったし、よく泣いて、よく笑う子だった。

 まぁ、人見知りし過ぎて、一部の人としかコミュニケーションは取れなかったけれど。


 僕は艶やかな髪をなぞるようにして手を動かす。

 さーちゃんはそんな僕の胸に背中を預けるようにしてもたれ掛かると、右肩辺りに頭を置いた。


『ねぇ、今度はぎゅーして』

 

 僕は後ろから包むようにしてさくらを抱く。

 

『あったかいなぁ』


「そっか」


 僕からすれば酷く冷たい。

 幽霊だからだろうか。さーちゃんからは体温を感じない。どころか、思わず身震いしたくなる程度には、その体は冷たい。


「桜が変わったのは僕のせいか?」


 桜は初め、僕だけに当たりがきついのかと思っていた。 

 彼女に嫌われるだけの理由はちゃんとあったから。

 けれど、関わっていくうちに彼女自身が変わっただけで、僕への好意は変わっていなかったと知った。


 なら、あれだけ桜の態度が変わった原因はなんなのだろう。やはり僕のせいなのだろうか。


『せいって訳じゃないけれど、原因は間違いなく湊くんだよ』


 やっぱりそうか。


『捻れちゃったのは桜自身のせいだから、責任を感じる事はないと思うけどね』


「他人事みたいだな」


『他人だもん。私はこの状況意外と感謝してるんだ。大好きな人とこんなに堂々とイチャイチャできるんだもん。私は幸せだよ?』


 にへっと笑う桜。

 ああ、もう……可愛いなぁ。


『算数も数学も所詮は人間が考えたもので、世の理に当てはまる絶対的なものではないって事は覚えて置いて欲しいな』


 随分と難しい事を言う。

 僕の愚かで矮小な脳みそではちょっと処理しきれない。


『1+1が0になってるって言いたいの。後は自分で考えて?』


 なんだか、ヒントを聞いて余計に難易度が上がってしまった感がある。

 僕と桜。2人が何を持ってして1とするのか。


「それはエジソン的な話?」


『天才とは1%のひらめきと99%の努力である』


 あー、確かエジソンの名言だったよな。

 僕が言いたかったのは、粘土を2つくっつけると大きくなるので1+1=大きな1になるってやつだけど。


『湊くんは鈍感なんだから。全くひらめけないんだから! 考える努力を99%して欲しい!』


「この僕が鈍感? やれやれ何を言い出すかと思えば」


 そんなわけない。

 今日も中嶋に言ったけれど、僕は鈍感系主人公みたいなポンコツじゃないのだ。


『嘘! 全然! 何も! 見えてないじゃんか!』


 す、凄い剣幕だ……。


「ご、ごめんなさい」


 あー、でもそれなら僕もさくらに言っておかなきゃいけないことがあるな。


「私は1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄になると言ったのだ。なのに世間は勝手に美談に仕立て上げ、私を努力の人と美化し、努力の重要性だけを成功の秘訣と勘違いさせている」


 これだってエジソンの名言だ。


「つまり、僕が本当に鈍感系の人間なら、どんなに努力してもそれは無駄なのかもしれない」


『だから毎回さくらを上回る知識を披露するのやめてよ! せっかくさくらがいい事言ったのに毎回台無しだよ! 無駄でもやって。せめて努力してる振りをして!』


 ぷくりと頬を膨らませたさくらがポカポカと叩いてくる。


『はぁ。全く……さくらは生霊だけれど、この存在は桜の感情そのものなんだからね? さくらの扱いにだって気を使って欲しいものだよ』


 さくらはすりすりと僕の胸に頭を擦り付けてくる。

 これだけの事を言ってても、態度はこれだ。

 さすがに僕のこと好き過ぎないか?

 僕、ここまで好かれる心当たりがないのだけれど。


『そうかもしれないけど、それでも好きなんだよ。湊くんに出会ってから今の今まで好きじゃなかったことなんて1秒もない。今だって凄いドキドキしてるんだよ? 確かめてみる……?』


 さくらは耳まで真っ赤にしながら、上目遣いで、されど毅然とそう言った。


 こんな顔するんだ。

 

 かつて、僕は彼女の事が異性として好きだったことがある。

 けれど、考えてみると僕は当時、彼女をここまで可愛いと思った事はなかったはずだ。

 僕が子供だったのもあるが、多分中学生時代にかなりの努力をして得た容姿なのだと思う。


 しかも、その努力は僕の為だという。

 ここまでしてくれた桜に対して何も思うことなく、僕は誰かを好きになることができるだろうか。

 多分、無理だ。


「僕は、桜を好きになってもいいと思うか?」


『もちろんだよ。さくらは湊くんに好きになってもらいたい。周りがなんて言ったとしても、過去がどうだったとしても、桜は湊くんの事大好きなんだもん。これから先もずっとそう。桜がどんなに変わっても、この気持ちだけは永遠に変わらないから』


 さくらが正面から僕を抱きしめる。

 冷たいはずなのに、どこか温かみを感じる。


 鈍感な僕には、まだはっきりとは自分の気持ちすらわかっていないけど。


 僕は桜の事と昔みたいに笑い合いたい。

 桜を好きになりたい。


「のだと、思います」


『そこは桜を幸せにしたいって言った方が好感度上がるよ?』


「桜を幸せにしたい」

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