少しでも長く一緒に
「何よそれ。2人のLoveキュンな世界に私は邪魔って言いたい訳?」
なんだ? そのめちゃくちゃダサい言い回しは!
「その通り過ぎて頷くより他ない」
え!? 頷いちゃうの!?
僕を挟んで姉妹喧嘩を始める二人。
決して手は離さないんだけれど、桜の握力が強くて、さっきから痛い。
柊の方は爪がくい込んでるし。
「ふ、ふーん。そう。まぁ、手間が省けてよかったわ。……言っとくけど、別にまだ負けた訳じゃないから。でも、今回は潔く引いてあげる」
「ん。私も負けるつもりはない」
よく分からないけれど軽くギスギスした雰囲気になったので、僕は空気に徹して、大股で歩き始めた桜に腕を引かれるようにして歩く。
「待ってよ、桜。道、そっちじゃないぞ?」
「はぁ? 何言ってんの?」
十字路を右に曲がろうとする桜。
しかし、僕達は普段この道を真っ直ぐ行く。
「私はいつもこの道を右に曲がって駅まで行ってるんだけど? アンタ達こそ何で遠回りして学校に行ってんのよ?」
遠回りって……。
ははーん。さては桜のやつ知らないんだな?
僕達が通っている道は言わば、柊が見つけた隠しルートだ。
「なんで私まで無駄に登校時間が長くなるような道を──」
そこまで言ったところで、桜は僕の顔を見上げた。
そして、何かに気付いたように目を丸めてから、数秒の停止。やがて、俯く。
「どうしたの?」
「……別に、何でもないわよ。きょ、今日だけはアンタ達が使ってるルートで行ってみてあげてもいいわ」
どうやら柊が見つけた裏ルートの凄さに気付いたらしい。
柊もどこか安心した顔付きになっている。
「じゃあ、行きますか〜」
信号が青になった事を確認した僕は、ちょっと汗ばんだ2人の手を握りながら駅への道を往く──
さて、両手に華を楽しんだ僕であるが、久しぶりに3人で話せた事に浮かれ過ぎて、いくつも大切なことを見逃していた事に遅まきながら気付くことになる。
登校というのは、学校に着くまでの事だ。
じゃあ、登校中ずっと手を繋いでいた僕達はというと、当然、他の生徒にも見られるわけだ。
美女2人に囲まれる男子生徒がいたら誰だって二度見、いや三度見くらいする。
もっと気にかけるべきだったのだ。
配慮すべきだった。
あの2人が周囲にどんな影響を与えているのかを。
「いつまで黙ってんだよ、おい。どういう関係だって聞いてんだ、このもやしっ子パロパロザウルス」
現在、僕は3年生の先輩達に囲まれている。
スポーツのために入ってきたであろうムキムキ体型の先輩が僕に詰め寄ってくる。
そして、同じく鬼の形相でこちらを睨む取り巻き。
少しアウトローっぽいところがあるけれど、顔は如何にも男前って感じ。
嗚呼、多分この人が柊の彼氏だ……
僕は財布から1000円札を2枚取り出した。
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心が救われます!
※柊に彼氏はいません。
では、次回をお楽しみに!