取られたくない。
現在、僕と桜と柊は3人で仲良く登校中。
右隣には桜、左隣には柊が、僕の手を握って歩いている。
これが伝説の両手に華ってやつだろうか。
いや、桜と柊の名を加味するのならば両手に花と言ってもいいのかもしれない。
中身はそれぞれ残念なところのある桃原姉妹だけれど、容姿は抜群に優れている。
きっと世の男性からしたら羨ましいと思うこと間違いないだろう。
僕だって、内心はるんるんだ。
でも、そんな両手に華の僕には、現在気になる事がひとつだけある。
それは──
「らぎちゃんは何で僕の手を握ってるのかな?」
僕は桜が転ばないようにする為に、手を繋ぐことを提案したはずなのに、らぎちゃんは桜ではなく僕の隣にいる。
「湊にぃと手を繋ぎたかったから?」
こてんと首を傾げてこちらを見上げる柊。
疑問形で返されましても。
ていうか、なんで桜は何も言わないの?
こいつ彼氏いるんですよ。
「別にいいんじゃない? 両手塞がってると余計危ないし」
桜はそう言ってスススと俺との間を半歩詰めてきた。
「いや、僕的には美人二人に囲まれてかなりの幸福感ではあるんだけど、この並びだと、2人のうちどっちかを車道側に立たせる事になるだろ?」
今は歩いているところは別に問題ない。
けれど、駅まで向かう間には車通りの多いところもあるのだ。そんな所で女の子を車道側に立たせるのは流石に僕が許せない。
そんな事を考えていると、不意に桜が立ち止まった。
「それは……アンタにとって、私がまだ守らなきゃいけない存在ってこと?」
「うん。そうだよ?」
僕の言葉に、桜が声を詰まらせた。
数十センチ先の彼女の瞳が濁っているのがわかる。
もしかしたら、桜には何か思うところがあったのかもしれないけれど、構わず僕は言葉を続ける。
「男ってそういう生き物だからさ。それが大事なものであれば、尚更だよ」
小さい頃は、ヒーローに憧れた。
そして、その憧れはいつか目標になる。
男の子が戦隊モノを好きになるのは根源的な部分の話なのではないだろうか。
僕が戦隊モノにハマっていたのは小学生に入る前のことだけれど、今だって、授業中や退屈な時に、ヒーローになる自分を思い浮かべたりはする。
「それは、私が強くなっても変わらない?」
「変わらない。だけど、もしも桜が強くなったなら、その時は僕を守ってくれると嬉しいな」
「……考えておくわ」
桜は珍しく暴言を飛ばして来なかった。
僕の言葉に何を思ったかはわからなかったけれど、少なくともその表情は暗いものではなかったので、僕はホッと息を吐く。
「湊にぃの中には変態と紳士が住んでる。どっちも真央さんの影響?」
「否定はしないよ。姉貴はそういうの、昔からうるさかったしな」
隅田真央。端なのか真ん中なのかわからない名前の、僕の姉だ。
女子校に通っていた頃はみんなの王子様だったらしい。
いつも女の子を蔓延らせてはむふふふっと笑っていた。
姉貴、外面はよかったしね。
「夏休みには父さんと帰ってくるらしいぞ?」
「ほんと? 真央さんに会うの楽しみ」
「そうか? 俺なんてテストの点数次第ではまたガミガミ言われなきゃいけないんだぜ? 今から憂鬱だよ」
姉貴ってば、努力すれば人は何でもできると思っている節があるからな。
イマイチ価値観が合わない。
僕は大きくため息を吐くと、クイッと右腕のシャツが引かれるのが分かった。
「どうした? 桜」
「真央さんの話はもうやめましょう。あんまり楽しくないわ……」
「あれ、仲悪かったっけ?」
「別に。ただ、今いない人の話をしても仕方ないでしょ?」
それもそうか。
久しぶりにちゃんと、桜と話す事のできる機会だし、できれば仲良くなりたいところだ。
桜もそう思ってくれてると嬉しいんだけど。
「そう言えば、アンタ達勉強の方はどうなのよ? テスト、もうすぐよ? 脳みそコケコッコーな二人には荷が重いんじゃないの?」
「僕は三歩歩いたくらいじゃ忘れねぇよ!?」
でたでた! 桜の毒舌。
でも、なんだろう。今日はちょっとだけマイルドな感じがする。
「でもそうか。もうすぐテストかぁー」
「湊にぃ、今回もお願いしていい?」
「いいぞ」
「指切りね」
柊はそう言って繋いだ手の小指を絡めた。
少し気恥しさを感じた僕だったけれど、柊が小さく微笑んできたので、僕も笑い返す。
「お願い? 何よそれ」
「痛っ痛たたたた」
桜さん、握力強いです。痛いです。
「べっ、勉強会だよ!」
桜は勉強もスポーツも万能に熟すタイプだけれど、妹の柊はどちらかと言うと、運動神経にステータスを全振りしたようなタイプだ。
故にちょっぴり勉強が苦手。
中学時代は「湊にぃと同じ学校に行きたい!」と、受験勉強を頑張った彼女だけれど、小テストの点を聞いてる限りだと、ちょっとまずいかもしれない。
はぁ、前までは可愛い妹って感じだった柊も、今じゃ彼氏持ちだもんなぁ。
娘を嫁に出す父親の気分ってこういう事なのかな。
「アンタ達、毎回テストの度に二人で、二人きりで勉強してたの?」
「まぁ、そうだな」
「受験勉強は湊にぃが面倒見てくれた。お姉ちゃん、全然教えてくれないから」
桜は普段からコツコツ勉強するタイプらしいので、あまり余裕がなかったのだろう。
我が校は成績の順位表の貼り出しなどはないので、自分の学年順位しかわからないのだけれど、彼女は常に一桁順位だと聞いている。
僕も桜に負けないくらい頑張んないと。
「だったら、今回から私が勉強を教えるわ。……どうしてもって言うなら、アンタも一緒でも、いいけど、ごにょごにょ」
「 えっ!?」
「お姉ちゃんはいらない」
「ええええっ!?」
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昨日は高評価たくさんつけていただけたので、筆も進みました!
今回はらぎちゃん回でした!
次のお話も、是非読んで下さい!