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あるOLの独り言

コーヒーの味~あるOLの独り言~

作者: 音色

書き始めたのは思い付きでしたが、

面白いことを考える良いきっかけとなりました。

昔から、朝起きるのは苦手だ。

どんなにたくさん寝ても目を開けるのも布団から出るのもなぜかとてもつらいのだ。


わたしは毎日、明日にワクワクしながら眠りにつく。

それなのに、いざ朝が来ると、明るい朝の光も、新しい空気のにおいも、なぜこんなにも心を重たくするのだろう。

そんなことを思いながらも、わたしは、毎日、自分の生活の中の些細な出来事に自分なりの価値を見出せないかと工夫を凝らすのだ。


『ああ。今日も昨日と同じアラームが聞こえる…うるさい…』


また朝が来た。

わたしは聞き飽きたアラームを止め、ベッドから抜け出す。

1Rの手狭な台所にあるシンクの蛇口に、園芸用に使われるホースのコネクターを刺し込み、ハンドルをひねる。

そのまま、その横の洗面所で洗顔と歯磨きを済ませ、ベランダまでの動線上で化粧と着替えを済ませ、ようやくたどり着いたベランダで待っている野菜たちに水をやる。

ちょうど色づいたミニトマトやブルーベリー、イチゴがあれば、その場でつまみ食い。

野菜たちとのひと時の間に、少しだけ心の重さが抜けてくるのを感じる。

そこまでが、わたしの朝のルーティーンだ。


そして時々、本当に稀に余裕の有る朝にすることがある。

それは、『ちょっといい朝を過ごしている気分』を盛り上げる或る儀式である。

とはいえ、ここまで秘密にしていた(わけでもない)が、わたしは大変な面倒くさがりで、お金も時間も労力もかけたくはないので、大したことはやらない。

ただ、ケトルで沸かしたお湯で、適当に買ったインスタントコーヒーを飲むのだ。

まだ頭も寝ぼけているし、恐らく実際のコーヒーの味なんてものを感じているとは到底思えないが、このコーヒーの味が格別なのだ。


さっきまで重たかった新しい空気に溶け込むコーヒーの香りが鼻と頭を刺激する。

猫舌で熱いものが苦手なため、この時間を結構長く楽しむ。

コーヒーカップの縁に唇をつけ、何度も何度も温度を確認し、ようやく一口を口に含む。

ほんのりとした苦みと、遠くの方で酸味を感じる。

そして、苦みだけが上顎と舌の付け根に留まり、しばらくしてスッと消えていった。

『うんうん。今日も苦いな』

飲み干したカップをシンクに置き、水を注いだままにして、わたしは部屋を後にした。


この何気ない『儀式』は、わたしに『今日は余裕の有る良いスタートを切れている』と満足感を与えてくれる。

苦手な朝に、熱いコーヒーが適温になるまで多少の時間をのんびりと過ごし、飲み干す。

人間なんて単純なものだ。

たったそれだけのことで、その日の一日をまるで勝者にでもなったかのような全能感を感じながら過ごすことができるのだ。

朝の一杯のコーヒーの味は、わたしにとって勝者の味と言える。


駅のホームで電車を待っていると、隣のおじさんがブックカバーのかかった単行本に目を走らせていた。

カバーまで掛けて本を保護しているのは、家や職場ではゆっくり読書する時間もなく、通勤中のわずかな時間で何日もかけて一冊を読むからだろうか。

無表情だが、かなり集中しているように見える。

本を持つのと反対の手には缶コーヒーがあった。

本から視線を外さないまま、ちびちびとコーヒーを口に含んでいる。


おじさんの缶コーヒーも、わたしのコーヒーと同じ味がするのだろうか。


こんな何でもない文章をここまで読んでくださった方、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただきました。  朝早く、コーヒーを飲んで、まったりするいいですね。  ちょっとした余裕ある時間が嬉しいですよね。  私もなかなか、朝はギリギリ起きてしまい、バタバタと仕事に行き…
[良い点] 「わたしは毎日、明日にワクワクしながら眠りにつく。それなのに、いざ朝が来ると、明るい朝の光も、新しい空気のにおいも、なぜこんなにも心を重たくするのだろう」ここですぐに惹きつけられて、情景と…
[良い点] 起きてから家を出て電車に乗るまでの様子がありありと浮かぶところ [気になる点] なぜコーヒーの味を気にするのか [一言] これからも続けてください
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