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神ひらく物語―プレーナ編―  作者: 銀波蒼
セーカ編
37/65

砂嵐のあとに

(前回までのあらすじ)

分配交換の儀式が始まった。黒装束の民が儀式の場に現れた直後、テラリオが拘束したユピを連れて姿を現れ神帝国に合図を送るが、カイルにその場を取り押さえられる。そして老主と入れ替わっていたヒラクもユピを取り戻す。だが、ヴェルダの御使いを目の前にした時、ヒラクがシルキルに託された生命の水が入った小瓶が反応し、プレーナが砂嵐とともにセーカを襲う。ヒラクは小瓶の中から現れた緑の光を放つ女と一体化し、実態のない意識のままセーカの地下へ流れ込む。そして狼神復活の儀式の間で緑の光の女がザカイロの恋人だったキルリナであることがわかる。キルリナと意識が分離したヒラクだったが、プレーナには取り込まれたまま、五歳の頃の姿に戻り、母親と再会する。

 砂嵐が去った。

 それは一瞬の出来事だった。


 砂埃がまだ舞っているが、満月が空に再び見えはじめ、オブラートに包まれたような月明かりが広大な砂漠をぼんやりと照らし始めた。


 カイルは砂に埋もれた奇岩住居の入り口の隙間からアクリラを抱えてはい出た。


「だいじょうぶか?」


 アクリラはぐったりとした様子でうなずいた。顔も衣服も砂で汚れ、髪も乱れて無残な様子だったが、意識はしっかりとしていた。

 カイルはアクリラの無事を確かめると、すぐにテラリオを探した。

 砂に埋もれたプレーナ教徒の死体もある中で、カイルは砂まみれではいつくばるテラリオの姿をみつけた。

 カイルに抱き起こされて気がつくと、テラリオは辺りにきょろきょろと目をやった。


「あの神帝国人はどこだ……」


「もういい。もう……終わったんだ」


「ちがう! まだ何も終わってなどいない、まだ何も……」


 カイルはテラリオの様子が尋常でないことに戸惑った。とにかく気を落ち着かせて話を聞こうと、砂を吐き出すテラリオの背中を何度もなでさすった。


「カイル!」


 地上に出て来ていたシルキルが二人のそばに駆け寄ってきた。


「あの人は? 行っちゃったの?」


 シルキルはヒラクのことをカイルに尋ねた。


「ああ、姿を消した」


「じゃあ、やっぱりあの人は……」


()()()()()()だ」


 セーカではプレーナに到達できるのは若い娘だけだと言われている。

 ヒラクが女であることを最初に気がついたのはカイルだ。

 そのことをカイルから聞いたシルキルは、それでも信じられない思いでいたが、プレーナが連れ去ったというなら、やはりその事実は信じざるを得ない。


「あいつは、あの神帝国人といるより、プレーナを選んだってことか」


 そう言って、カイルは奇岩住居から離れた場所で月明かりに照らされてたたずむユピに目をやった。

 シルキルはカイルの視線の先を追う。

 銀に輝く髪をした少年の隣には、黒装束を身にまとう一人の人物が立っている。


「あの子はプレーナに行った」


 ユピの隣でヴェルダの御使(みつか)いが言った。


 ヴェルダの御使いの目にははっきりと見えた。緑のうねりが地下から再び地上へと浮上したとき、その光の固まりは、砂漠の向こうからのびてきた光と、まるで水と水が合わさって一つになるようにして、遠くに吸い込まれて消えていったのだ。


「あの子のことを教えてほしい。なぜここに姿を見せたのか……」


 その言葉で、ユピはヴェルダの御使いがすでにヒラクを知っていたことに気がついた。


「あなたに会うために来ました」


 ユピはヴェルダの御使いをじっと見た。


「『黒装束の女』に会うために」


「そう……」


 ヴェルダの御使いはうつむいた。


()()()がここへよこしたの……」


 そう言ったきり黙って、ヴェルダの御使いは砂漠の向こうをじっと見た。


「ヒラクは戻ってきますか?」


 ヴェルダの御使いの隣で、同じく砂漠をみつめながらユピは尋ねた。

 ヴェルダの御使いは少し間を置いて答えた。


「あの子が、自分が何者であるかを、自分で知ることができたなら」


 ユピの目から一筋の涙が頬を伝って流れ落ちた。


(登場人物)


ヒラク……北の少数民族アノイの長の息子と山の向こうの「神の国」から来た異民族の母との間に生まれた。母が信仰する神プレーナを求めて山を越え、地下の町セーカに迷い込む。プレーナの使徒とされるヴェルダの御使いと同じ緑の髪をしている。


ユピ……ヒラクが五歳の頃、砂漠でみつけた神帝国の美しい少年。神帝国人であることからテラリオに捕まり、ヒラクと離れ離れになってしまう。狼神復活の儀式で内なる何かを目覚めさせる。


カイル……労働が罪とされるプレーナ教徒の中であえて労働に従じる仕事をする「罪深き信仰者」。テラリオとは幼馴染。ユピを捕らえているテラリオを追うためヒラクと行動を共にする。


テラリオ……カイルと同じプレーナ教徒の「罪深き信仰者」であると同時に、ミカイロとも通じている狼神の信徒。ユピを利用し、神帝国にセーカを滅ぼさせカイルと共に神帝国で自由に生きることを夢見る。


アクリラ……敬虔なプレーナ教徒。ヒラクをヴェルダの御使いと信じるが、ヒラクと関わるうちに自分が信じるプレーナへの信仰が揺らぎ始める。


ヴェルダの御使い……プレーナの使徒とされる黒装束の民の中心人物。プレーナそのものとされる生命の水をセーカの民へ分配する役割を持つ。


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