裏路地で
一人真っ暗な道を進む。誰もいない。当たり前か。こんな時間にこんなに気味の悪い裏路地誰も来たがらないか。もうどれくらい歩いているのだろう。かなり歩いたような気がする。どこに続くのだろう。まあそんなことどうでも良いが。
もう何もかもに疲れた。誰も私の事なんて分かってくれない。私なんてもうどうでも良いんだ。私は、私は、もう。何もかもが嫌になって何となく家を出てあてもなく彷徨う。吐く息が白く、寒さが身に染みる。それでも私に居場所なんてない。だから歩き続ける。
周りがよく見えない。表通りならコンビニや二十四時間営業の店の光で多少の活気はあるが裏通りにはかすかに街灯がある程度。私には表通りの光が眩しすぎて耐え切れず裏通りを歩き続ける。
街灯が全くない本当に真っ暗な細い道がふと目に付く。小さな子なら昼間探検してみたくなるよう道だろうが、今は夜独特の不気味さも手伝って人が足を踏み入れることを拒んでいるような近寄り難い雰囲気をしている。先が見えない真っ暗な道、道は人を拒んでいるが私はその道へ入った。何かに引き寄せられたのだろうか。その先の何かに呼ばれた気がしたのだ。その答えは後々知ることになる。この道が続く場所もそこから帰れなくなることも。
一人真っ暗な道を進む。誰もいない。当たり前か。この道はいったいどこへ続くのだろう。ここはいったいどこなのだろう。かなり進んだような気がする。どこまで進んでも真っ暗なまま。もう街灯の灯りは届かない。後ろを振り返って見ても何も見えない。いや、もはやどっちが前でどっちが後ろなのかさえ曖昧になってきた。
ただただ進む。どこまでも。ふと遠くに光が見えた気がした。その光の正体だけは見て帰ろうと思う。その光へ駆けていく。しかし思ったよりも遠いらしい。なかなか光に届かない。でも進む。もう止まれない。私を呼ぶ何かがその光だと直感的に思った。
その光がはっきり見えた。その光はまるで人魂のように球状で宙に浮かんでいた。私はその周りを一周したがそれが何なのか分からなかった。
光も見たから帰ろう。そう思ったがそれは無理だった。道が消えていた。今まで進んできたはずの道が消えていた。私は進むしかなくなった。そこに光があるのに道を照らしてくれるわけでもなく、その光を掴むことも出来ずだんだんと不安になってきた。
意を決して進む。相変わらず真っ暗で何もかもを飲み込んでしまいそうな闇に真っ直ぐ進む。謎の光が、大して明るくもない光が付いてきているのがより一層この不気味さを加速させている。
もうどれくらい歩いただろうか。さっきよりも明るい光が見えた。その光の中へ私は迷わず駆け込んだ。
そこは私が夢見た世界だった。そう、私を知る者がいない世界。どこか分からないけどとてつもなく遠いところ。分かっている。もう歩き疲れて幻覚でも見ているのか、あるいは夢を見ているのだと。でももう少しこの世界にいたいと思った。
ふと時間が気になって腕時計を見る。そこで私は目を疑った。時計の針が逆回転している。それもすごい速さで。ありえない。慌てて近くにいる人に時間を訪ねてみた。しかし彼は顔に疑問符を浮かべただけだった。しばらくして私は気がついた。この世界には時間という概念がないことに。
そう。時間がない。こんなに明るい町中なのに時計が一つもない。どの店にも営業時間が書かれているような様子がない。
この世界は私が夢見た世界だが何かが違う。ここはいったいどこなのか。何も分からない。でもここにいてはいけないんだってことだけははっきりと分かった。帰らなきゃ。そう思い元来た道を戻ろうと振り返るとそこは行き止まり。携帯は電源が入らない。よく見ると看板の文字も意味が分からない。正確には文字はほぼ同じなのだが言葉になっていない。
そこで私は以前聞いた話を思い出した。
―異世界―
私の頭に浮かんだ。そこに来た者は二度と戻れないってことも。
信じたくはない。でも事実。私はこの異世界で生きていくしかないようだ。どうせ現実世界では何もない。このまま楽しく生きれるのならもうずっとこのままで…
嘘…こんなはずじゃ…なかった…のに…