『魔法使い』による科学技術と精霊魔法の活用戦術
上空から見た所、護衛の騎士団は、盗賊達に数で押されつつも、善戦しているようだ。ならば、と、ユーリカが取るべき行動は一つ。
まずは外周の盗賊を倒す。
ドローンのマーシュもそれを分かっている。即座に周辺をスキャンした情報をユーリカに送ってきた。ユーリカもまた、念の為精霊魔法で付近を走査する。ドローンのスキャン精度は高いが、魔術による隠蔽は見逃してしまう事があるのだ。……もっとも、ドローンのスキャンから逃れられるようなレベルの魔術使いは、転生者などのチート人材を除けば、ほとんど存在しないのだが。
23人いる盗賊の内、7名は弓矢を構えて遠距離から護衛をチクチクと攻撃している。 盗賊仲間に当たる可能性があるので、牽制程度に留まっている。その中に魔術使いはいない。
この7人を優先して片付ける。
ユーリカは体内に埋め込まれたナノマシンによる肉体の活性化と、生来持つ精霊魔法を駆使して、無音での高速移動が可能だ。森の中を素早く動き回りながら、網膜に照準させた盗賊の遠距離担当達を電撃の矢で悲鳴をあげる暇さえ与えず失神させていく。
次は護衛達と直接対面している残りの盗賊たち16人だ。
おっと、今14人になった、さすが近衛騎士団といったところか。味方側に死人を出さずに応戦出来ている。しかし多勢に無勢だ。すでに数人の騎士が防御を崩しかけていた。
ユーリカは全体攻撃魔法も当然使えるが、そのままでは護衛騎士にも当たってしまう可能性がある。よって、先程仕留めた7人のように各個撃破するべく、まず盗賊達の動きを止める為の動作を開始した。
ユーリカは、声を増幅させる魔法を使い叫んだ。
「そこの馬車の皆さん! 応援に参りました!!!」
まさかの増援に驚愕し、一瞬動きが止まった盗賊達を、ユーリカは電撃の矢で狙い撃っていく。
「「「「ぐわぁああ!」」」」
襲いかかってくる魔法攻撃を前にして、悲鳴を挙げながら逃げようとするが、次々と電撃の矢の餌食になっていく盗賊達。14名全員がその場に崩れ落ちた。
「ふぃー」と、流れてもいない額の汗を拭くジェスチャーをするユーリカ。
「A級冒険者のユーリカです。 偶然通りかかったので助けに参りました!」
まだ殺気立っている護衛騎士から敵意を向けられる前に、まずこちらの身分を明かす事が大切だ。キリッとカッコよく名乗りを上げるユーリカ。
「A級冒険者でしたか! 助かりました!」
案の定、一瞬こちらに向けかけた剣を下げる護衛騎士達。こういう時、A級ランクという肩書は役に立つ。
しかしユーリカ本人は気づいていない。護衛騎士の多くは、A級ランクという肩書ではなく、ユーリカという可憐な少女が薄い胸を張って、ドヤっと名乗りを挙げた事に対して微笑ましく思ったゆえに剣を下げただけなのだと言う事に。
「近くにいた盗賊たちも全部倒したので、安心していいですよ。ここに倒れている16人も含めて合計23人いました」
「助かります……ユーリカ様と申されましたか。……もしやあの、『魔法使い』エルフのユーリカ様でしょうか?」
そうやって声をかけてきたのはグランツ王国近衛騎士団キール副団長。さすがに副団長ともなると、大抵の有名冒険者の事は知っているらしい。感心感心と心の中で頷くユーリカ。
実際にはユーリカが有名過ぎているだけなのだが……彼女自身は自身のアイドル性を認識していないのである。
「はい、私です」
冒険者カードを掲げながら、護衛騎士達に近づくユーリカ。
「おおっ!あのユーリカ様に助けて頂けるとは。神に感謝せねば!!」
俄に熱気を帯びだす騎士団のみなさん。
「とりあえず、盗賊たちは電撃で失神しているだけなので、念の為先に縛り上げてしまいましょう」
盗賊23名の内、死んだ2名から金目の物を剥ぎ取った上で、ユーリカが魔法で地面に開けた穴に死体を放り込んだ。
「おお、噂通りですな……精霊に愛され、全属性魔法の使い手の腕前を直にお目にかかれるとは……光栄の極みです」
褒められてデヘヘっと照れるユーリカ。
残りの21名は、縛った上で、近くの街まで連行する事となった。そのうちの数名を叩き起こし、アジトの場所を吐かせる。
「精霊に見に行って貰いました。アジトの場所は嘘ではないようですね。中は無人でしたので、この盗賊団は壊滅したと考えていいと想いますよ」
「おお……精霊とも交流が出来るとは……さすがです」
しきりに感心しっぱなしの騎士団のみなさんだった。
実際にはステルスモードのマーシュに偵察にいかせたのだが、対外的には精霊だと言い張るユーリカ。どうせ大部分の人にとっては、魔術も魔法も精霊も科学も対して違いは無い。
マーシュによれば、中には結構な数のお宝があるらしい。取りに行きたいけれど難しそうだなぁと、残念に思うユーリカである。一応『機関』の本部にアジトの位置を通達しておく。
アジトを吐かせた盗賊には再び眠って貰った。安全を確保したところで、キールが馬車の扉を開け、中にいた人物を連れ出してくる。
3名のメイドと共に、出てきたのは質素ながらいい素材を使って作られた衣装に身をまとった少女であった。線が細いながらも、芯の強さを伺わせるような目線。可愛いというよりは美人。そしてたわわなお胸。ユーリカは彼女を助けられて良かったと、改めて胸をなでおろした。 しかし彼女は茶髪であった。 グランツ王国の王族といえば銀髪が有名なはずだが、はて……?と首を傾げるユーリカに、少女は貴族の所作で一礼をした。
「私は……商人の娘のアーネと申します。ユーリカ様、助けて頂き誠にありがとうございます。お噂はかねがね伺っております」
<警告・彼女はグランツ王国第二王女のクリスティアーネ氏で間違いないよ>
脳内にマーシュが通達してきた。網膜に投影されるクリスティアーネ王女の情報。今年16歳。国王と第二王妃との間に出来た子である。写真の中の彼女は銀髪なので、どうやら茶髪はウィッグであるらしい。優秀な人物で、幼少時から数多くの斬新な政策を打ち出している。若いながらもすでに国の運営を担っている状況だ。転生者の可能性が高い人物である、と情報では特記されていた。
しかしなんでまた、国にとってもこんなに大事な第二王女がこのような少人数の護衛で? 非正規な公務なのだろうか? きな臭い物を感じたユーリカは、脳内で簡易に纏めたレポートを、マーシュを経由して機関に送信した。
「アーネさんですね。 初めまして。ユーリカと申します。あなたのような可憐な少女を助けられて、とても嬉しいです」
相手は王族である事を隠しているのを良いことに、いけしゃあしゃあと声をかけるユーリカ。このエルフは、美少女に目がないのだ。
「ユーリカ様! 失礼ですぞ!この御方は!」
案の定、声を荒げようとする護衛騎士の一人。
(おいおい、商人の娘設定を忘れるとは、護衛失格だぞ)とユーリカは思ったが口には当然出さない。
そんな騎士を制止する王女。
「良いのです……部下の者が失礼をしました……ユーリカ様のようなとても可愛らしいお方に助けて頂けて、真に光栄ですわ」
そういって微笑む王女の言葉に、デレっとするユーリカ。ピコピコっと動くエルフの長い耳を、興味深そうに見つめる王女。突然、良いことを思いついたかのように目を輝かせた。
「そうだわ! ユーリカ様、私達はグランツ王国首都へ向かっているのですが、よろしければご一緒いたしませんか? 護衛費用ならお支払いいたします。A級冒険者のユーリカ様に守って頂ければ、この先も安心出来ますし。 どうかしらキール?」
「はっ。 ……ご都合は如何でしょうか、ユーリカ様」
キールの表情をみるに、嫌がってはいないようだ。むしろ歓迎しているフシがある。
王族との関係を持てる事は大きい。なによりも、王女が転生者である可能性が高い以上、最優先で接触するべきなのだから。この申し出はありがたい。
「私でよければ。ぜひとも!」
そしてなにより、クリスティアーネ王女のような美少女と一緒に旅が出来る。それはユーリカにとっても喜ばしい事なのだ。
「そうだ。 これからの旅が順調に行くよう、我がエルフ族に伝わる祈りの詩をみなさんに捧げてもよろしいでしょうか?」
「まぁ、素敵ね。 よろしくお願いしますわ、ユーリカ様」
無邪気に喜ぶ王女を前に、いつもの『転生者あぶり出しの詩』を、厳かに光魔法とともに唱え始めるユーリカ。
「……じゃぱん・とーきょー/わしんとん・ゆーえすえー/ぱり・ふらんす/ろんどん・ぶりてぃっしゅ/ぺきん・ちゃいな/ばんこく・たいらんど/もすくわ・ろしあ……」
(あ、王女の顔が引くついてる。 これは転生者で決定だね!)