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百合エルフは科学と魔法で無双する  作者: 浦和マサツナ
第1章 ようこそ転生者
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二人の冒険者

 パーティー会場には、商談が出来る個室が複数用意されている。


 そのうちの一つのドアをユーリカが開けると、中には先客が二人いた。


 二人きりと聞いてやってきたアレックスは片眉を上げるが、ユーリカは気にせずに入室していく。


「アレックス君、紹介するね。こっちの美人ちゃんはバルタザール」


 艶のある長い黒髪を、ユーリカと同じくポニーテールにしてまとめ上げた美人がそこに居た。涼しげな目元やスッキリとした鼻筋は、男性よりも女性ウケしそうな造りをしている。 20歳にはまだ行っていないようだ。


(しかし……名前は男性のものだが……これはあれかな、貴族の女性が男と偽って家督を継ごうとする、よくあるパターンかな?) とアレックスは考える。


 その考えを読み取ったかのようにユーリカはニヤリとして叫んだ。


「だが男だ!!」


「なん……だと……?」


 思わず前世のノリでツッコミを入れてしまったアレックスは、ハっとして、我に返った。



「はぁ、ユーリカ。毎回その流れに持っていくのはやめてくれないかな?」


 どうやらこの茶番は毎度お馴染みのものらしい。ため息をつきつつ、バルタザールはアレックスに握手を求めた。それに応えるアレックス。


「バルタザールだ。よろしく。 そしてこちらは今日A級にランクアップしたエドウィン・エマーソンさんだ」


「アレックスです。よろしくお願いします、バルタザールさんに……エマーソンさん」


 男三人は握手をしあいながら挨拶を交わした。


「エマーソンさんは確か……パーティ『グラビティゼロ』の?」


 アレックスが尋ねた。


「お、僕の事、知ってるの?」


 飄々とした態度だが、チャラいというよりは、のんきな人柄を思わせる20代前半の青年が答えた。姓付きであるからわかるとおり、どうやら元貴族らしい。


「もちろんです! 重力魔術を操れる数少ないお方ですから!」


 興奮気味に語るアレックス。


「僕も有名になったねぇ」


 それを聞いて、エドウィンはしみじみと感慨深く頷いた。


「しかし君も有名だよ、『ワンパンチャー』のアレックス君。それと僕の事はエドウィンでいいからね」


 そう言ってアレックスにウインクするエドウィンは、様になっていた。


「ほ、本当ですか! こ、光栄です!」


 再び、がっちり握手しあうアレックスとエドウィンを、うんうんと笑顔で眺めるユーリカ。


「んで、私はユーリカね。 よろしくエドウィン君!」


「さてユーリカ、そろそろ彼らに説明をしてあげたらどうかな?これ以上戸惑わせるのも可哀想だ」


 バルタザールがそう言って話題を本題へと引き戻した。


「ほんじゃまぁ、全員揃ったところで、ここに来てもらった理由を話しましょうかね。これから話す事は秘密中の秘密だからね……もっとも、アレックス君とエドウィン君が口外するとも思えないけれど」


 パチンと、指を鳴らすユーリカ。


<精霊魔法・空気振動遮断>


 突然、室内がシーンと静まりかえった。先程まで微かに部屋に伝わっていたメイン会場からの振動や笑い声が全て途絶えたかのようだ。


「この部屋の中で喋る事は一切外には漏れないから安心してね」


「これが……『魔法使い』……」


 重力魔術使いであるエドウィンは、ユーリカが何気なく『精霊魔法』を発動させた事に舌を巻いた。


 精霊魔法はこの世全ての魔術の原祖であり、究極であると言われている。


 魔法と魔術には明確な違いがある。単属性で発動する魔導の事を魔術と言い、全属性全てを使って発動する魔導の事を魔法と言う。


 人間は通常1~2属性を使用出来れば一流と言われるが、エルフであるユーリカは人類がまだ確認出来ていない属性も含めて……全属性を操る事が出来る。故に『魔法使い』と呼ばれるのである。


 本来であれば畏怖されるべき『魔法使い』の称号だが、しかしユーリカはその見た目と言動のせいで、どうにも様にならないというか、可愛く背伸びしているなぁと思われてしまうのが常であった。


「さて、単刀直入に聞きましょうか。二人の母国語は、何語?」


「……日本語です」

「日本語だよ」


「エドウィンさん、日本人だったんですか?!」

「アレックス君、日本人だったのかい?」


 観念したかのようにアレックスとエドウィンが同時に答え、お互いビックリするかのように顔を見合わせる。


「んふふ、二人共、私の口元をしっかり見ててね」


 そう言って、ユーリカは人差し指を自分の口元に当て、ゆっくりと発音をする。


「コンニチワ。ワタシ ノ ナマエ ハ ユーリカ。 ニホンゴ シャベレルヨ」


 口元の動きを見せるかのように、日本語を喋った。その事実に再び驚愕する二人の転生者。驚く2人を見て、ユーリカは得意気に薄い胸を反らした


「転生者は大抵、生まれつき翻訳スキル持ってるからねぇ。私が普通に日本語喋っても、西大陸公用語に聞こえちゃうでしょ? だからこうしてゆっくり喋って見せれば、私が実際に日本語使っているって伝わるって訳。 これで信用してもらえたかな?」


 にひひっと笑うユーリカ。その可愛さとは裏腹に、じっくりと見せられた口元のセクシーさに思わず赤面してしまう二人の元日本人。


「ちなみに、転生者と転移者で一番多いのは日本人だけれど、他の国の人もいるんだよ。だから英語、スペイン語、中国語も少し出来るんだよー」


 どうだ偉いだろう褒めろ、とでも言いたいかのようなユーリカ。 ドヤ可愛いなぁと思う二人の元日本人。しかし解せないのは、先程の祈りの詩である。


「やっぱり……さっきのユーリカさんの祈りの言葉は、僕達みたいなのを炙り出す為の罠だったの?」


 エドウィンは別に憤慨するでもなく、そう尋ねてきた。


「罠とは心外だね……まぁ実際そうなんだけれど」


 ユーリカはえへへと誤魔化すかのように頬を掻く。


 あの祈りの言葉は、地球上の有名国家の首都と国名を挙げ連ねただけの物である。エルフの言語は人類社会には浸透していない為、この世界の住民からすると本当に祈りの詩だと勘違いされるだろうが、地球人には馴染み深い物だ。地球人があの詩を聞くと、よほどのポーカーフェイスの持ち主でなければ、なんらかの反応を示してしまうのである。


「ふふっ、初っ端の『じゃぱん・とーきょー』あたりから、あなた達の反応は面白かったよ?」


 あの偽の祈りの詩を聞いた時の自分たちの反応を思い出したのか、再び青ざめるアレックスと、あちゃーという風に両手で顔を覆うエドウィン。


「あなた達みたいな地球からの転生者、または転移者を見つけたら、取り敢えず声をかけてみているの。これまで通りに生きるのもよし。 私達と一緒にセーヴェル公国に向かうのも良しだよ」


 それにエドウィンが答える


「セーヴェル公国? 北にあるっていう国の事かい?」


「そう。転生者達で作られた国、それがセーヴェル公国なの」


「不毛の大地だと聞いているけれどねぇ……そもそも、なんでまた元地球人に声をかけているのさ」


 ユーリカの代わりに答えるバルタザール。


「同郷者とは仲良くしたいってのは、どこの世界や国でも同じだと思うよ……私も元地球人だ。同郷の者を見つけたらやはり嬉しいものだよ」


「特に予定がなければ、とりあえず一緒にセーヴェル公国行ってみない?行って見てから、今後の事を考えるのもありだと思うよ」


 ユーリカが話を戻した。しかし二人は渋っている。その警戒心は悪い事ではないが、信用してもらわないと話が進まない。


「うーん……そうそう、他の元日本人から教わったんだけれどね。元日本人が誘いに渋っている時に効果的な殺し文句があるの。聞いてみたくない?」


 また何か驚かさせられるのだろうと警戒する二人に対して、んふふっと小悪魔的な笑みを浮かべるユーリカ。


「な、なんでしょうか……」


 恐る恐ると尋ねるアレックス。


「和食、食べたくない?」


 二人は考えを即効で翻した。

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