A級冒険者昇級パーティー
新作「女装レイヤー俺氏。女の子になってしまったので女子レイヤー仲間増やして百合百合するです」
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勇者アイドル百合ハーレム ~アイドルな勇者が百合ハーレム率いて魔王討伐~
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上記二作品もよろしくお願いします。
冒険者ギルドのグランツ王国首都本部では、年に一度のA級冒険者昇級パーティーが催されていた。
A級冒険者とは冒険者ギルド並びに各国政府から実力と人格を兼ね揃えているとお墨付きを与えられ、一般市民達からも英雄視されている存在だ。
そんな人格者揃いのA級冒険者達でも、お偉方の長々としたパーティー演説には、辟易とした表情を隠しきれないようだ。誰もが必死であくびを噛み殺している。
「本日最後のゲストは、ユーリカ様です。どうぞお上がりください」
しかし司会が伝えたその情報に、会場に蔓延っていた倦怠感が一掃され、熱気を帯びだした。
「「「あの、ユーリカがゲストに?」」」
ユーリカと呼ばれた少女が、ポニーテールに纏められた金糸のような髪をたなびかせ、壇上に上がっていく。
小悪魔的でやや釣り眼がちな碧眼は挑発的、というよりは、頑張って背伸びしている少女という印象を人に与えるのか、周りからは微笑ましく思われている。自信に満ちてピコピコと動く長い耳は、彼女のトレードマーク。
外見は15歳前後のスレンダーな少女だが、長寿なエルフの事だ。姿形通りの年齢ではないだろうと誰もが推測するが、実態を知っている者は少ない。
実際はどうあれ、その可愛らしい見た目に加え、突出した精霊魔法の使い手である事。また、人類社会で活躍する数少ないエルフであるという面から、アイドル的に有名な冒険者である。数年前にA級ランクを取得した彼女だが、偶然グランツ王国にやってきていたので、急遽ゲストとなったようだ。
「ご紹介に預かりました、ユーリカです。えー、長々と喋るのは得意では無いですし、みなさんもそろそろお腹、空きましたよね? 私はもうペコペコです」
とても冒険者だとは思えないその微笑ましい口上に、会場のあちらこちらから好意的な笑みが溢れた。それを見てユーリカは続ける。
「ですので、この場にいる皆さんには、我れらエルフ族に伝わる、幸運をもたらす祈りの詩を捧げて、スピーチを終わらせるといたしましょう」
さすが現役である。お偉方とは違って、冒険者達の心情を分かっているようだ。
ユーリカが何かを捧げるように両手を広げると、光の粒子が会場の隅々にまで降り注いで来た。光の精霊を顕現させたに過ぎないが、その幻想的な光景に会場が静まり返る。
「皆様の未来に幸あらん事を願って……」
先程までの可愛らしさはなりを潜め、厳かに、まるで神託を告げる巫女のようにユーリカは祈りの詩を歌いだした。
「……じゃぱん・とーきょー/わしんとん・ゆーえすえー/ぱり・ふらんす/ろんどん・ぶりてぃっしゅ/ぺきん・ちゃいな/ばんこく・たいらんど/もすくわ・ろしあ……」
歌いながら、ユーリカは会場にいる人々全員を見渡した。まるでその微笑み自体までもが祝福であるかのようなその表情に誰もがうっとりとしてる中……驚愕に満ちた表情を浮かべている参加者二人をユーリカは捉えた。
(見ぃーつけた)
人知れず、ニヤリとするユーリカであった。
気軽な立食形式とはいえ、パーティーは社交の場でもある。面倒に想いつつもお偉方におべっかを使い、有名冒険者や知人に挨拶を終えたユーリカは、一組のB級冒険者パーティーに近づいていった。
A級ランクの昇級パーティーだが、今後A級に上がるであろうと目されているB級冒険者達も招待されているのだ。
「こんばんは! もしかして『ワンパンチャー』の皆さんですか?」
有名人たるユーリカに突然声をかけられ、しかも自分たちの事を知っている! 一瞬パニックになりつつも、 即座に冷静さを取り戻したB級冒険者パーティー『ワンパンチャー』のリーダー・アレックスが代表してユーリカに答えた。
「え? ユーリカさん!? あ、あ、俺たち……いえ、私達をご存知なのですか!?」
「もちろん! 登録から半年足らずでB級まで上がってきた全員14歳の幼馴染パーティ! ワンパンチでほとんどの魔物を仕留められるアレックス君。優秀なヒーラーのイリーナちゃんに、速攻魔術に長けたウルファちゃんの三人チーム! 私達の間でも話題なんだよー」
「「「こ、光栄です!」」」
幼馴染という事もあり息がピッタリである。ユーリカに褒められてしどろもどろになりつつも見事にハモっていた。
「ねぇねぇ、君たちのお話、聞かせてくれないかなぁ?」
ユーリカは無邪気に話を続ける。
「お、おれ……私達の話なんかでよければ……」
『ワンパンチャー』の最近の活躍やユーリカの冒険譚などを皮切りに、少し立ち話をした。
「でもワンパンチなんてすごいねぇ。どんなスキルを習得すればそんなに強くなれるんだろう? 私なんか精霊魔法でいっぱいいっぱい。 近接格闘も出来るようにはなりたいんだけれどねぇ」
はぁ、と、わざとらしいため息をつくユーリカ。 有名人に褒められ、しかも羨ましがられるとあっては、『ワンパンチャー』の三人も浮ついてしまいそうになる。
「アレックスってば昔からそうなんだ。 どんな魔物でもワンパンチで解決出来ちゃうの。信じられないよな」
愚痴をいう風に自慢をするウルファ。
「へぇ、凄いなぁアレックス君は……まるで漫画みたいよね?」
なんとでも無いかのようにアレックスに微笑むユーリカ。その単語にぎょっとするアレックスを尻目に、唐突に、話題を変えた。
「そうだ。アレックス君達に指名依頼したい案件があるんだけれど……ちょっとアレックス君と二人っきりで相談に乗ってくれないかな?」
「ユーリカさんが、おれ達……いえ、私達を、ですか? こ、光栄ですがパーティの事ですから、出来れば全員と」
「うーん、本来ならばイリーナちゃんとウルファちゃんにも聞かせるのが筋なんだけれど……ちょっとした機密案件だからねぇ。まだアレックス君にしか聞かせられないんだよ……とりあえずこれを見て欲しいのだけれども」
そう言いながら、ユーリカがバッグから一枚の紙を取り出し、アレックスに渡した。側にいたイリーナとウルファもその紙を横から覗く。一見すると、数種類の古代言語かと思われる文字列が並んでいる、ただの紙だ。 それを見た少女二人は、はて? という顔をしているが……アレックスは思いつめた表情を隠しきれず、青ざめている。
「ア、アレックス!? どうしたの?」
真っ先にアレックスの異常を察するイリーナはさすがヒーラーというべきか。
「ユーリカさん! これは一体なんなんだ?」
それをみて、ユーリカにくってかかろうとするウルファ。
「いや……ごめん、大丈夫だよ、イリーナ、ウルファ。ちょっとびっくりしただけだ」
深呼吸をして顔色を整え、アレックスは二人の少女をなだめる。
「アレックス、これ、何かわかるの?」
まだ心配そうにアレックスに尋ねるイリーナ。
「いや……昔研究した古代言語に似ててびっくりしただけだよ」
「そういえば……なんかアレックスが子供の頃に作ってたアレックス文字に似てるわね……」
「ああ、言われてみれば……特にこの文字とかな……」
うんうん、と頷きあう少女二人。
「ああ……うん、自分の黒歴史を見せつけられたのかと思って冷や汗かいちゃったよ、あはは……」
そんな二人にうそぶきながら、アレックスはユーリカに振り向きなおした。
「ユーリカさん、二人きりでお願いします」