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悪い知らせ

 雲がなく、よく晴れた今日。


 俺は鏡の前に立ち、身だしなみチェックをする。


 今日は俺の10歳の誕生日。そしてこれから、俺の人生が決まる儀式が行われる。


 コンコン。


「はい。」

「坊っちゃま、身支度はお済みですかな。」

「ああ、今終えたところだ。すぐ行く。」

「畏まりました。では表の馬車でお待ちしております。」


 さて。母様、父様を待たせるわけにも行かないし、そろそろ行きますか。


 俺は期待と希望を胸に、部屋をあとにする。



 ☆



 石畳で舗装された道を馬車が進んでいく。十数年前に異世界人がもたらしたサスペンションというもので、長時間馬車に乗っていてもそれほど苦にならない。俺は流れていく景色を窓から眺めていると、対面に座る父様から上機嫌に話しかけられた。(ちなみに、馬車の中の席順は俺の左どなりに母様、対面に父様、その右隣に執事のセバスだ。)


「ようやくお前もこの時が来たな。兄2人も優秀なスキルを授かったからお前も大丈夫だろう。何たって、俺の息子だからな!!」

「ふふふ。あなた、今からその調子ですと神殿につくまで持ちませんよ?」

「何を言っている。息子の晴れ舞台だ。気合が入るのは当然だろう。なぁ、シル。」

「そうですね。俺もどんなスキルを与えられるのか楽しみです。」


 俺以上にその時を心待ちにしている父様に苦笑しながら、それも仕方ないかと心のどこかで思う。


 この世界では、十歳の誕生日に、誰しも神殿に行き神の祝福を受ける。神は人々に『スキル』と呼ばれる才能、もしくは異能を授け、その者の道を指し示す。『スキル』と言ってもその種類は様々であり、嵐を呼び起こしたり、剣で山を一刀両断したりする超強力なスキルもあれば、料理が上手くなったり、記憶力が良くなるようなスキルもあり、その効果、力の大きさなどまちまちだ。


 ウチは代々、強力なスキルを持つ人材を輩出していて、王国内で5指に入るほどの名家だ。そんな家の現当主である父様が今日新たにスキルを与えられる俺に期待するのは至極当然と言えた。


 やがて馬車が「荘厳」をそのまま表したかのような神殿の前に着くと、俺達は馬車を降り、揃って神殿の中へ入っていく。



 ☆



 通された控え室で白い法衣に着替えさせられ、その格好で礼拝堂に行き、神殿のシンボルである女神ミラの像の前まで来ると、そこで跪く。すぐ側に神官がやって来て、女神への口上を述べる。


「世界の母よ、大いなる母よ。今日この日に新たなる道を求める彼の者、シルキウス·ジュラルミンに貴方様の加護をお与えください。」


 神官がそう言うと、一泊を置いて礼拝堂に眩い光が充満し、5秒も経つ頃にはその光は消え去っていた。


「おめでとうございます。儀式は無事成功しました。女神ミラは貴方に加護をお与えくださいました。これからも真っ当な道を歩みなさい。」

「………………」

「……どうされましたか?儀式は終了しましたよ?」

「……あ、ああいえ、なんでもありません。ありがとうございました。」


 神官の言葉を聞いて、俺はある一つの不安を覚えた。まさか、そんなわけないだろうと自らの心に言い聞かせ、礼拝堂を後にする。


 神殿を出ると、先に馬車で待っていた父様、母様、セバスの3人が待っていた。父様は俺の心情など露知らず、満面の笑みで話しかけてくる。


「おお、おかえり、シル。神殿はどうだった。」

「は、はい。とても清潔で、まさに神が降り立つ場所という感じでした。」

「そうだろうそうだろう。さ、無事に儀式も終えたようだし、早速どんな『スキル』を与えてもらったか教えてもらおうか。」


 その父様の言葉に俺は背筋がピンと張り、冷や汗がダラダラと流れ、口が思うように開かなかった。


「ん?どうした?早く行ってみなさい。」


 そんな俺の態度に父様は訝しむ様な視線で俺に再度問いかける。


 思考がうまく纏まらない。口は拘束具でも嵌められているかのように開かない。早く、早く言わなければ。そう思っても、なおも口は開かない。


「あなた。シルも初めての儀式で緊張したのでしょう。そういう話は家に戻ってからゆっくりしましょう。」

「む、それもそうだな。まずは帰るか。」


 思わぬかたちで母様に助けられ、俺は安堵のため息を漏らす。だが、これは問題を先延ばしにしたに過ぎない。そう分かっていながらも、今はこの安心感に身をゆだねていたいと心の底から思った。



 ☆



 家に戻ってから20分後。現在俺は家のリビングのソファに腰掛けている。テーブルを挟んだ対面のソファには父様と母様が座っていて、その後にはセバスが控えている。俺達3人の前にはセバスにいれてもらった紅茶が置かれており、入れたちの証拠に薄く湯気が立ち上っている。


「さて。ではシル。お前の『スキル』を聞かせてもらおうか。」


 家に着いたとなったら当然こういう状態になる訳で。俺はさっきから必死に思考を巡らせていたのだが、どう考えてもいい答えは見つからず。しばらくの間黙っているという結果になった。その状態でも父様と母様は静かに俺の方を見て、俺から話し出すのを待ってくれている。神殿から家に帰るまで、自分の現状と知人から聞いた話を踏まえて幾度となく考え、そしてそのどれもが同じ答えに行き着いた。通常、神殿で神から『スキル』を授かると、その瞬間から、そのスキルがどのようなものなのか、どんなことが出来るのかが手に取るように分かるらしい。まるで生まれた時からその力が使えたように。だが、俺は………


 俺は、覚悟を決めた。俺を育ててくれた親に、隠し事はするべきではない。


「父様、母様。」

「「………」」

「俺は………分かりません。」

「「!!!」」

「俺は、自分がどのようなスキルを持っているか、分かりません。」

「「………」」


 父様と母様の表情が驚愕に染まる。後ろに控えているセバスの表情は変わらないが、内心かなり動揺しているだろう。だがこれは、言わければならない。俺自身の、ケジメを付けるためにも。


「俺は…………『無能』らしいです。」




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