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1章「緑の案内人(プレゼンター)1/3」

続きです。あらすじにつなげるのはとても難しい。

 


「お呼びですか、エルダー」

 幌の掛かったテントをくぐり、私はこの集落の主を前にかしずいた。

「おお、旅人よ。我が集落の星詠みが、凶と出た」

「それは――」

「ちがう、ちがうぞ。旅人よ。我らの土地は我らが守るもの。お主の力は借りん」

 それに、と続けて、「おぬしには、そのような真似は似合わん」と皺くちゃの日焼けした肌を笑顔で歪ませて、エルダー・ポトグディフは私に笑いかける。

「何にせよ、ここは戦場となろう。我らの星詠みは、悪いことばかりはよく当てるのでな」

「そうですか…」

「なに、暗い顔をするでない。定めとあれば、従うは我が緑の民「ラクタヴィア」のしきたりよ。何も怖いものなどない。であるからして、旅人よ。お主には感謝している。だからこそ―」

 エルダーはそこで言葉を区切り、私の背後にいつの間にか集まっていた、集落の人々に視線を巡らせると、

「我らの滅びは、我らが選ぶのじゃ」

 そう確固たる意志の宿る瞳で、私のまなこを貫くのだった。


 ◇


 緑の浮界では、公用語が通じない。

 地表に跋扈するとされる幻想種ほどではないが、魔物も多い。

 だから、この緑の浮界「ラクウタナン」は未開の地として有名で、手付かずの遺跡も多くある。国家として一応七大浮界には数えられてはいるが、文明としては先祖返りもいいところだ。

 俺は他の労働者と共に、認可されていない岩場に係留した「リッツ=ヒッター号」から調査・採掘に使う荷物という荷物を下ろしている。

 緑の国「ラクウタナン」と黄の国「モルモンテ」には国交がない。

 簡単に言えば、これは盗掘ってやつだ。


「おーい、ボウズ! ちゃんと武器は持ったかー!」

「大丈夫ですー!支給品だけどー!」

 荷物をおろし終わって散策を開始した俺に向かって、甲板から、「がんばれよー!」とマドックからの激が飛ぶ。

 第一調査で行うのは、集落の発見と、公用語が通じる、または土地勘に優れる、または、ひたすらに従順な現地人を、確保することだ。

 きれいな言葉を使いすぎた。

 身も蓋もない侵略行為だ。


 俺はヘルメットの首ヒモを固く締め、人づてに長年使われていたらしい、垢まみれのライフルのグリップを握りしめると、配属されたグループの最後尾について散策を開始した。

 緑の国「ラクウタナン」は暑くもなく寒くもなく、風が気持ちのよい、ひたすらにのどかな場所だった。

 グループの斥候が戻ってきたらしく、リーダー格の労働者と話をしている。どうやら、人工物、田んぼと畑ってやつを発見したようだ。ちなみに黄の国「モルモンテ」ではそういう「天然モノ」を拝めるのは一部の貴族だけだ。食料はプラントが循環生成するもので、貴族のおこぼれで食べた飯と比べると、雲泥の差がある。

 正直、貴族の食べ物は食べるべきではなかった。

 自分の環境に絶望するだけで得るものは羨望だけだからだ。


 集落が近い、否応なしに緊張が高まる。過ごしやすい気候のはずなのに、汚れた作業着の内側を汗が伝う。相手は未開人とは言え、人間。割のいい仕事には裏がある。

 だが、この手の仕事は文字通り払いがいい。

 仕事を選ぶのは贅沢ができる一部の人間だけだ。


 はるか遠くで、銃声が鳴り響く。

 とっさに俺たちのグループは地面に這いつくばって、意識を集中する。

 地面を横切る虫にすら怯えながら、俺は目を見開いてライフルを掻き抱いていた。


 無線を持った伝令役から無線機を受け取るリーダーの男がひとしきり頷いたあと、俺たちに撤退を指示した。

 周囲を警戒しながら、係留された「リッツ=ヒッター号」までたどりつくと、俺たちはグループごとに整列させられる。

 腰につけた時計を見ると、二時間も経っていなかった。

 緑の生い茂る木々の合間をざあざあと風が鳴ってすり抜けていく。

 ふと、数日前のカレーが恋しいくらいには体力を消耗していることに気づく。盗掘の障害を取り除くために殺人すら厭わない。

 金がすべての「モルモンテ」では、自国の下級労働者以上に、緑の国の民の命は軽いのだ。

 先程の銃声で、緑の「ラクウタナン」側が警戒に入ったはずだ。それなのに撤退を指示したということは、成果が上がったのだろう。

 晴れ渡る空とは正反対などんよりとした気持ちで、鎖につながれて引きずられてくるだろう現地人を想像しながら、陰鬱な面持ちで、俺たち労働者の前に立つ作戦班長兼艇長のクローグの言を待つ。

「――誠に遺憾だが、協力者が現れた」

 その言葉を聞いて、俺は良かったのではと思ったのだけど、周りはそうでは無いようで、落胆の色を濃くしていた。

「というわけで、略奪はしまいだ。遺跡調査に移る。おい、こっちだ」

 クローグにアゴで指図され、一人の人物が船の中から現れた。

 そいつはなぜか右手に白い旗をもち、左手に緑の旗を持っていた。

 おまけに変な帽子を目深にかぶっていて、表情はあまりわからない。だが、一つだけわかることがあった。

 そいつは女で、それでいて、

「ラクウタナンツーリストの、ムムです。皆さんをご案内いたします!」


 それ以上にヘンなヤツだった。






ムムは絶世の美女ってわけではないみたい。

※誤字修正しました(主に船の名前)

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