カフェオレな関係 (短編)
どろりっと甘い生クリームがふわふわなパンケーキと口の中で絡んでいく。
「甘すぎる」
「そうかい?僕にはちょうどいい甘さだけど?」
そう言って首をかしげる目の前の男に、つい舌打ちしたくなる。
大の甘党な貴様には確かに丁度いい甘さだろう。
だが、甘い物をあまり食べない私にとっては甘すぎるに決っている。
分厚いパンケーキに苺や生クリームが沢山のせられ、さらに白い砂糖であるパウダーまぶされたスイーツ。まさに、口の中はどんどん甘さが広がっていく。
「あぁもう!コーヒー飲む!」
「ココアにしない?」
「却下!」
「え~」と情けない声を無視し、奴の苦手なコーヒーを入れようと席を立つ。
甘い物が大好きな彼『優也』と苦手な私『冷香』は、正反対な性格でもあるが長い付き合いである。
そう、まったく正反対なのに‥‥
* * * * * * *
「それで、にがーいコーヒーを彼は飲んだの?」
「‥‥シロップとミルクを大量に入れて飲んだ」
「でしょうね」
呆れたように、ため息をこぼす幼馴染の「由梨華」に、つい膨れてしまう。
この前の出来事をカフェでお茶しながら愚痴をこぼしていたのであった。
結局ブラックコーヒーを飲んだのは自分だけである。
しかも、目の前の甘い物で胸焼けしそうになったのだ。
「大体、どうして貴方まで、そのスイーツを食べたのよ」
「私だって食べるつもりなかったわよ。でも、アイツが『冷香が食べないなら、いらない』って言うから‥‥」
「‥はいはい、ご馳走様」
「な!?ち、違う!そういう意味じゃ!」
「なら、どうして、別れないで続いているのかしら?」
「う‥‥」
それを聞かれると何も言えなくなる。
どうして、なんて‥‥
「まぁ、貴方達が別れるなんて一生ないかもね」
「そ、そんなの分からなぃ‥‥」
自然と声が小さくなってしまう。
自分自身、自信が無いのだ。
私達は、趣味や性格、味の好みなど「正反対」の対象。だから、いつ別れても可笑しくない。
「大丈夫よ。貴方達は‥カフォェオレみたいな関係なんだから」
「カフェオレ?」
「えぇ」
意味が分からない。
首を傾げてしまう私に、ニコッと優しく微笑むと用事があると言い、去ってしまった
そして、噂をすればなのか由梨華とすれ違いで奴が店に入ってきた。
「なんでアンタがここに?」
「仕事が早く終わって、昨日ここでお茶するって言ってから向かえ来た‥一緒に晩御飯買おうと思って」
嬉しそうに笑顔を向けてくる彼に、こっちまで頬が緩みそうになる。
なんだかんだで、彼自身砂糖のように甘く優しい。名前通り冷たい私なんかに‥
「だからかもしれないわね」
「何が?」
「秘密♪」
今夜は、甘いココアを入れてあげよう。コイツに負けないくらい甘いココアを‥‥
* * * * * * *
いつものように彼氏である優也君との惚気を聞かされる私は、ため息ばかりこぼれてしまう。
なんだかんだ言って、彼のことが好きな冷香。
しかも、優也君も冷香が大好きなのに、自分達の正反対で別れてしまうことを恐れている冷香。
だが、それでも二人なら大丈夫だろう。
二人は、まさに黒と白。
さっきの話からしたら、コーヒーとミルクのようだ。
そして、どちらも苦い・甘いと両極端でいつか飽きてしまうだろう。
でも、合わさればとても美味しいカフェオレと変ってしまい飽きはしない。
だから、何があろうとも甘くほろ苦い関係は、きっと終わりはないだろう。
「はぁ、私もそういう甘い相手は何処で出会えるのかしら」
自分の恋愛に対しても、ため息がこぼれてしまう。