表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

#7 覚醒しました

 気がつくと、辺りは逃げ惑うオークたちで入り乱れていた。


 さっきまでお行儀よく戦闘集団とだけ戦ってどこかに行ってしまったパーティとは違い次のパーティはここにオークを殲滅するつもりらしい。そのことに気がついた日雇いモンスターたちはこんなところで死ぬわけにはいかないと出口を求めて駆け回っていた。


 もちろん俺もそれは同じだ。

 当然だ。パーティの参加条件すら満たせない俺に冒険者相手に勝てる訳がない。


 それに俺にはまだ八歳の養わなければならないおんなの子がいるのだ。


 俺は託児施設のある後方の扉へと急いで駆けて行く。


 が、


「お、おいっ‼ 開けろっ‼」


 オークたちが既に扉の前に殺到していた。しかも、オークたちがいくらドアノブを回しても扉はビクともしない。

 どうやら、向こう側から施錠されている。


 つまり俺達は取り残された……。


 おいおいマズイマズイ、どうやってここから逃げ出せばいいんだよっ‼


 丸窓を見やった。

 すると事態に気がついたリーファが慌てた様子で窓をドンドンと叩いていた。


「ルーちゃんっ‼」


 が、窓は強化ガラスなのか、それとも何かしらの魔法でもかかっているのかいくらリーファが叩いてもビクともしない。


 俺は託児施設方面からの逃走を諦め手先頭集団を見やった。

 すると冒険者たちにバタバタと倒されるオークたちが見え足が震えた。


 おいおいこんな奴らと相手しろって言うのかっ⁉


 慌てふためいて右往左往するがパーティとの距離はどんどんと縮まっていく。


 そして、


「死ね、オークっ‼」


 俺の前に突然魔術師が現れたかと思うとロッドを俺に向ける。


 マズイっ‼


 俺は慌ててそこから飛び退いた。

 すると、さっきまで俺がいた場所には一メートルほどの穴ができた。


「なっ!?」


 おいおい何だよこれ……。

 俺は恐怖のあまり腰が抜けてその場似尻もちをついた。

 それを見た魔術師はゲラゲラと笑う。


「お前オークの癖になに腰抜かしてんだよっ‼ 怖いのは見た目だけか?」


 そう言うとロッドの先を俺の足元に向ける。すると地雷でも爆発したように足元の地面が吹き飛んだ。


「うわっ‼」


 悲鳴を上げる俺を見て魔術師はさらに笑う。


「本当に情けない奴らだ。この下等種族め」


 そう言うと魔術師は俺にツバを吐く。

 魔術師は明らかに俺を蔑んでいた。

 オークってのはこの世界ではそういう存在なのだ。

 多くの人間にはオークなんかにかける情けなど持ち合わせていない。

 俺は震える体を抑えながら魔術師を見つめることしかできない。



 俺は恐怖で声すら出すことができない。

 どうやらそんな俺を見るのが楽しいようで魔術師の笑いは止まらない。


「心配するな。俺は優しい人間だ。お前を苦しませるようなことはさせないさ。一瞬で魔法石も残らないくらいに焼き尽くして灰にしてやるから安心しな」


 そう言うと、ロッドを俺の顔に向けた。


 万事休すだ。


 俺は逃げようとするが恐怖に体が硬直して動かない。

 そんな俺にできることは目を瞑って灰にされるのを待つだけだ。


 俺は瞳を閉じて思い浮かべた。

 愛する俺のご主人様である少女の顔を。


 リーファ……。


「ちょっと待ってっ‼」


 その時だった。

 そんな声がして俺は目を開いた。


 そこには相変わらずロッドをこちらに向けていた。

 そして、そんな魔術師の腕を掴む少女の姿。そして、その少女の顔に俺は見覚えがあった。


「ルルナ?」


 そこに立っていたのは今朝出会った剣士の姿だった。

 でも、どうしてルルナがここに……。


 俺は自分の身に起こった出来事が理解できず彼女を眺めていると彼女は魔術師に話しかける。


「そ、そのオークは戦意を喪失しているじゃん。このオークを殺すのはギルドの定める協定に違反していると思うんだけど……」


 弱々しい口調でそう訴えるルルナ。

 が、


「ああ?」


 戦闘を邪魔された魔術師は不快そうな顔でルルナを睨む。


「てめえ、なに口答えしてんだよ」

「それは……」


 そんな魔術師の蔑んだ目にルルナは怯えたように後じさりする。


「ってか、新人の雑魚が俺に口出ししてんじゃねえよ」

「で、でも、そこのオークは……」

「お前がどうしてもって言うから、お前みたいな雑魚をパーティにいれてやってんだぞ? ってか、早く特殊スキルを使えよ? お前が恥ずかしがるとお前以外のパーティメンバーの回避力が上がるんだったよな?」


 そう言うと、魔術師はにやりと笑みを浮かべるとルルナに歩み寄って手を伸ばす。

 魔術師はルルナの甲冑の紐に触れる。すると、甲冑の紐は蜘蛛の糸のように容易く切れる。


「キャッ‼」


 ルルナは慌ててずり落ちる甲冑を抑えるが、その際に足をもつれさせ尻もちをつく。


「ほらほらもっと恥ずかしがれよ。甲冑の次は服を脱げよ。どんどん恥ずかしがってオレたちを強くしてくれよ」


 魔術師はそういうと倒れ込むルルナの腹を蹴飛ばす。ルルナは呻き声を上げるとその場にうずくまる。


 最低だ。

 人の風上にも置けない……。

 そんな光景を見て俺は恐怖も忘れて怒りの感情がこみ上げてくる。

 ルルナを助けなきゃ。


 俺は立ち上がる。


 そして、力いっぱい握りしめた棍棒を振り上げるとそれを魔術師目掛けて目一杯振り下ろした。


 鈍い音がした。

 人に向かって鈍器を振り下ろしたことなんてない俺は恐怖のあまり目を閉じてしまっていた。

 が、すぐに目を開ける。


 そして、愕然とする。


 魔術師は無傷のままその場に立っていた。


「んなので、俺を殺せるわけねえだろ」


 魔術師はニヤリと笑ってそう呟いた。

 その直後、俺の体が突然吹き飛んんで地面を激しく転がった。


 圧倒的すぎる。


 これがステータスの違いなのか?

 大人と子供の喧嘩ってレベルの戦力差じゃねえ……。

 俺は目の前に聳え立つ戦車に素手で立ち向かうような気持ちで魔術師を見やった。


 魔術師はまた俺にロッドを向ける。

 が、


「やめてっ‼」


 また、そんな叫び声が聞こえた。


「そこのオークに手出しはさせないから」


 ルルナは甲冑を脱ぎ捨てると、魔術師に剣を構える。そんなルルナを魔術師は少し驚いた様子で眺めていたが、またすぐに笑みを浮かべる。


「おいおいお前もしかしてこのオークの味方するのか?」

「だったら何なの。そこのオークはあんたみたいな卑劣な人間よりも何倍も尊敬できるわ」

「尊敬? こんな下等な生き物を尊敬だと? 冗談は寝て言え。あんま舐めた真似してるとお前もこのオークと一緒に灰にするぞ」


 だか、ルルナは覚悟を決めたのか動じない。


「灰になるのはあんたの方よ」

「てめえっ」


 挑発された魔術師は眉を潜める。

 そして、ルルナをゴミでも見るように蔑んだ目で見るとロッド振る。


 竜巻状の風が砂利を巻き込みながらルルナに襲いかかる。

 ルルナは剣を振り回し風を掻き切ろうとするが凄まじい速度でルルナ目掛けて飛んでいきルルナの頬や額に無数の切り傷を作っていく。


 だが、ルルナはそれでも必死に抵抗を試みる。と、そこでルルナは一緒俺を見やった。


「何やってんの‼ 今のうちに逃げるのよ‼」


 逃げるだとっ⁉

 俺はルルナの言葉に愕然とする。

 そんなことできるわけねえだろ。

 そうだ。俺はこの魔術師みたいな卑劣な人間、いやオークじゃない。

 ルルナを助けなきゃ。


 でも、どうやって?


 きっと今棍棒で殴りかかってもかすり傷一つつけることはできないだろう……。


 俺は魔術師を観察する。


 どこかに弱点ないのか?


 そうこうしている間もルルナは「早く、早く逃げてっ」と叫ぶが俺はあえてそれを無視する。


 観察する。

 そして、ふと魔術師の腰にぶら下がる巾着袋に目がいく。その巾着袋は魔術師の振動でジャラジャラと音を立てていた。


 金だ。


 きっと、あそこには金が入っているに違いない。そのことに気づくや否や俺は魔術師目掛けて突進していた。


 そして、


「お、おい、何やってんだっ⁉」


 俺は魔術師に飛び込むと巾着袋を握りしめた。が、直後、魔術師は俺を手で払い除けて俺は吹き飛ばされる。


 魔術師は攻撃をやめて俺を見やった。


 そして、俺の手に握られた巾着袋を見て笑みを浮かべる。


「流石はオークだ。こんな時にも目先の金に目がくらむのか」


 どうやら魔術師は俺の意図に気がついていない。

 けど今はそっちの方が好都合だ。

 俺は相手が油断しているうちに袋から中身を出す。すると、黄金に輝く無数のコインと幾つかの宝石が出てきた。


 いったいどれ程の価値があるんだろう?


 俺にはよくわからなかったが今はそんなことを気にしている場合ではない。


 俺はありったけのコインと宝石を口の中に放り込む。


「お、おいっ!!」


 これには流石の魔術師も動揺を隠しきれない。が、俺はそんなことには構わず咀嚼しようとする。すると硬いはずのコインも宝石も綿飴のように口の中で消えた。


 魔術師が俺には攻撃を仕掛けて来たのはその直後のことだった。

 魔術師は俺にロッドを向けると、魔術師の背後に巨大な円形の幾何学模様が現れたかと思うと、そこから光が放たれ俺目掛けて飛んでくる。


 その眩しさと速さに思わず目を閉じる。


 が、


「…………」


 再び瞳を開くとそこには依然として魔術師が立っていた。

 目を丸くして俺を呆然と眺める魔術師の姿が。


 その直後だ。


「死ねええええっ‼」


 魔術師の一瞬のすきに気がついたルルナは、魔術師の懐に飛び込み剣を振るう。

 すきをつかれた魔術師はなんとか抵抗を試みようとするが、間に合わず攻撃を食らって吹き飛ぶ。

 倒れた魔術師は脇腹を押さえながゆっくりと立ち上がる。

 が、押さえた脇腹からはぽたぽたと血液が滴り落ちる。


 魔術師は表情を歪めたまま俺とルルナの顔を交互に眺めた。

 が、二人から目を逸らすと逃げていった。


 そんな魔術師の背中をルルナはしばらく眺めていたが、姿が見えなくなったタイミングでふぅ……と胸を撫で下ろし緊張の糸賀切れたようにその場に座り込んだ。


 俺達は魔術師に勝った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ