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#5 ギルドに登録した

 倒れた女を担いだ俺はリーファとともに町中を駆けずり回って、なんとか早朝開店している飲食店を見つけ出し暖簾をくぐった。

 どうやらリーファが家を出るときに密かに両親のお金の一部をくすねていたようで、そのお金を使って女に適当に食べ物を与えた。

 これによって俺とリーファは全財産を失った。


 ってかなんで自分のことを殺そうとした女に飯を奢らなきゃなんないんだよ。

 俺は正直不満しかなかったが、リーファが「困ったときはお互い様だよ」と言ってきかないので結局俺は折れた。

 本当に優しい子だ。

 が、その優しさが俺には少し心配に思えた。


 女は最初はぐったりとしてスプーンを持つのがやっとだったが食事が喉を通るたびに徐々に元気を取り戻した。


「はぁ~お腹いっぱい……」


 いつの間に顔色はすっかり良くなって椅子にもたれかかると満足げにお腹をさすっていた。

 そんな顔を見ているとなんだか殺意が湧いてくる。

 なんで俺は空腹を我慢しているのにこいつはこんなにも満足げな顔をしているんだ。


「お腹いっぱい……じゃねえよ。何か俺に言うことがあるだろ」


 とりあえず謝罪を要求する。

 すると女は、


「ご、ごめんなさい……なんていうかその……あまりにお腹が空き過ぎて私、冷静さを失っていたかも……」


 と、意外にも素直に謝罪した。

 が、俺が相変わらず憮然とした顔で彼女を眺めていると「ねえ、まだ怒ってる?」とおそるおそる俺の顔を覗き込む。


「怒ってるに決まってんだろっ!!」


 俺が女を睨むと「ひゃっ!?」っと怯えたように肩を震わせた。


「けど……まあ、素直に謝ったから今回は許してやらないこともない」


 が、俺も男だ。過去のことをいつまでもねちねちと蒸し返したりはしない。

 それにこの女はそこまで悪い人間ではなさそうだ。


 これまで俺は目の前の人間を女と呼んできたがどちらかというと女と呼ぶよりは少女と呼んだほうがしっくりくるような気がする。


 年齢はそうだな……見たところ十代後半だ。

 彼女の立ち振る舞いにはまだ少しあどけなさが残る。

 少女は俺がそこまで怒っていないことを理解したようで、俺の顔を見ると笑みを浮かべた。


「私、ルルナ。まあ外見を見ればわかると思うけど剣士をやってるの」


 と、そこで少女、もといルルナは初めて自己紹介をした。


「私リーファ。魔術師だよっ!! で、こっちがルーちゃん。見た目はちょっと怖いけど優しいオークなんだよ」


 そんなルルナにリーファも自分と俺の紹介をする。


「優しいオークです」


 俺が右手を差し出すと、細い腕を伸ばして俺と握手した。

 ところで、


「で、どうして、お前はこんなところで飢え死にしかけてたんだよ」


 俺はさっきから抱いていた疑問を口にする。

 確か、ルルナはさっき三日間飯を食っていないとかなんとか言っていた。

 なんで、彼女はそんな目に遭ったのか。これから旅を始める俺としては気になって仕方がない。


 が、ルルナは、


「それは……」


 と、俯き加減になると口ごもってしまう。

 が、さすがにここまでしてもらって何も話さないのは失礼だと思ったようで重い口を開いた。


「私、一週間前からパーティに参加してダンジョンに出かけてたんだけど、なんていうかその……メンバーと喧嘩しちゃってそれでその……」

「パーティを追い出されたのか?」


 ルルナは小さく頷いた。


「なんとか……街までは帰ってこられたんだけど……」


 と少し情けなさそうにそう口にするルルナ。

 が、そんなルルナとは裏腹に俺の隣に座っていたリーファは何やら目を輝かせながらルルナを見やる。


「パーティに参加してダンジョンに行くなんてルルナさんは凄い人なんだねっ!!」


 どうやらすでに冒険をしているルルナはリーファにとっては憧れの存在のようである。

 そんなリーファの視線にルルナは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに頬を指で掻いた。


「え? ま、まあね。ってか、あんたたちもギルドに参加しているんじゃないの?」

「ギルド? なんだよそれ?」


 ギルド。

 もちろんその言葉に聞き覚えはある。

 が、俺が思っているギルドと彼女の言うギルドが同じなのか自信がなかった。


「冒険ギルドよ。ってか、あんたそんなことも知らないの?」

「悪いな、俺たちは小さな村から来たからその辺のことを全然知らないんだ」

「ギルドっていうのは、簡単に言えば私たちみたいな冒険者のための役所みたいなものよ。そこに登録しておけば仕事やパーティを紹介してもらうことができるの。ってか、逆にギルドに登録しておかないと、クエストの報酬も貰えないし、魔法石だって買い取ってもらえないわよ」


 と、ギルドのわかりやすくギルドの説明をする。

 どうやら俺の思っていたギルドとほぼ同じ意味のようだ。


「ねえ、そのギルドってどこに行けば入れるの?」


 と、そこでリーファはテーブルに身を乗り出してルルナを見つめた。


「ギルドの事務局よ。ご飯も食べさせてもらったし私が案内してあげるわ」


※※ ※


 それから俺たちはルルナの案内でギルドの事務局へと向かった。どうやらここは二四時間営業らしい。

 といってもこの世界の一日が二四時間なのかは知らないが。

 まあ、とにかくいつでも開いているらしいということで俺はルルナに聞きながら約十分ほどでギルドへの登録を済ませて事務局を出た。


「これであんたたちも冒険者の仲間入りね」


 そう言ってルルナは俺とリーファの顔を交互に見やる。

 そんなルルナに俺は事務局で渡された薄い六角形の石を見せる。


「なあ、この六角形の石は何なんだ?」

「あんたってホント基本的なことを何も知らないのね」

「こっちは初心者なんだよ」


 その上から目線な態度に少しイラっとしつつもそう言うとルルナは説明を始める。


「これはステータスを見るために必要なの。ちょっと手貸して」


 と、そこでルルナは俺の右腕を掴んで持ち上げた。

 俺に手のひらを上に向けるよう指図すると、その上に石を置く。


 すると、何やら石の上に文字が浮かび上がる。


「なんじゃこりゃ……」

「これがあんたのステータスよ」


 俺は文字を見やる。


【登録名】

ルドルフ

【種族】

オーク

【基本スキル】

レベル1

HP 50/50

MP 50/50

攻撃 20

防御 20

命中 30

回避 30

回復 20

【特殊スキル】

金喰い


 そこに表示されていたのはそれこそゲームに出てきそうなステータスだった。

 が、俺にはステータスを見たところでそれが良いのか悪いのかはわからない。


「え~と、どれどれ……」


 だから代わりにルルナがステータスを評価する。

 が、ルルナはしばらくステータスを眺めると「あっ……」と何かを察したような声を出した。


「弱いんだな?」

「え? あ、いや、それは……」


 どうやら図星らしい。

 まあいい。何せ、俺はこの世界に来てまだ丸一日も経っていないのだ。

 それより、


「この特殊スキルってのは、なんなんだ?」


 俺はステータスを指さす。


「特殊スキルってのは誰でも鍛錬次第で習得できる基本スキルとは違って、その人の種族や体質、その他様々な複合的な要素によって現れるその人固有の特殊なスキルのことよ」

「つまり世界に一つしかないのか?」

「厳密に言えばそうだけど、実際には似たようなスキルを持つ人はたくさんいるから似たようなスキルは同じ名称で呼ばれているわ」

「金喰い?」


 なんだその怪獣のカネ〇ンが持ってそうな能力は……。


「お金と経験値を入れ替えるスキルよ。簡単に言えばお金を体内に吸収させればそれに見合った経験値を手に入れられる能力のこと」

「つまり金さえあればいくらでも強くなれるのか?」

「って言ってもあくまで一時的な能力よ。一定の時間が経てばもとのステータスに戻るわ」

「まあ貧乏人にはあまり役の立たない能力ね」


 と、飯を奢って貰っておいて暗に俺を貧乏人呼ばわりするルルナにまたイラっとしつつも話を聞いているとどうやらルルナはそれ以上俺のステータスには興味がなくなったようで今度はリーファの小さな腕を取って俺と同じように石を置く。


 そして、しばらくステータスを眺めると驚いたように目を見開いた。


「どうしたの?」


 そんなルルナにリーファが首を傾げる。


「凄いじゃないリーファ。あんたのステータスはどれもレベルが高いわ。このステータスで特殊スキルに回復魔法もついてるから、きっとどのパーティからもひっぱりだこよ」


 どうやら俺とリーファでは出来が違うようである。

 俺が「よかったじゃねえか」と頭を撫でてやるとリーファは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 リーファが石をポケットに入れたところで俺はルルナを見やる。


「なあ」

「何よ?」

「お前も何か特殊スキルを持ってるのか?」


 何気なくそう尋ねたつもりだった。

 のだが、


「なっ……」


 ルルナは何故か俺の質問に硬直する。


「どうかしたのか?」

「わ、私のことはどうでもいいでしょっ!?」


 突然、顔を真っ赤にしてそう言う。


「なんだよ、その露骨すぎる狼狽ぶりは……」

「ろ、狼狽なんてしてないわよ」


 いや、狼狽しかしてねえだろ……。


「あ、あんたと似たようなスキルよ。私の場合は自分じゃなくてパーティ全体のステータスを一時的に強化できるの……」

「へえ、お前もお金が必要ってわけだな」

「私はお金じゃない……」


 そう言うと顔を真っ赤にしたまま俯く。


「じゃあ、なんなんだ?」

「べ、別にいいでしょ。あんたとパーティ組むわけじゃないんだしっ!! わ、私、もう行くから。あんたたちはあんたたちで頑張って強いパーティを作りなさい」


 リーファはそう言うと突然、手を振って俺らの前から逃げるように立ち去った。

 どうやら何かしらの地雷を踏んだようだ。


「なんだか忙しい奴だなあ……」


 俺とリーファは遠ざかっていくルルナの背中をしばらく眺めていた。


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