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#2 両親が全力で俺を殺しにきてる

 最初は夢かと思っていました。

 が、時間が経つにつれてなんだか様子が変だなと思い始めて、今となってはこれが夢であってくれとここから願うばかりです。


 十数分後、俺はリーファの家のリビングでリーファの家族とともに食卓を囲んでいた。

 この村の平均を知らないから適当なことは言えないがお世辞にも大きな家ではなかった。

 家中を回ったわけではないが、外観から察するにこの八畳もないリビングの他にはもう一部屋あるだけのようだ。


「はい、ルーちゃん、どうぞ」


 俺はリーファの家、正式に言えばルワンヌ家の夕食に招待されていた。

 俺の椅子にぴったりと自分の椅子をくっつけて座るリーファはパンを千切ると俺の口元に伸ばしパンを食べさせてくれる。


「おいしい?」


 くりくりした瞳で俺を見つめると首を傾げるリーファ。

 俺の身体は腕一本で彼女の首をポキっと折ってしまいそうなほどに太いのに、その目には恐怖の色は微塵も感じられなかった。


「え? あ、ああ、美味い……」


 俺はそう言うと差し出されたパンを咀嚼する。

 本当は味なんて感じるような余裕はなかった。

 けど、そのあどけない少女の顔を見ていると彼女を傷つけるような言葉は口にしたくなかったから話を合わせた。


「自分の家だと思って、くつろいでいってくださいね」


 食卓を挟んで向かいに座るリーファの母親はそう言って笑みを浮かべた。隣に座る父親は額に脂汗を浮かべながら苦笑いを浮かべている。


 くつろいでいってください……。


 俺は金属製の椅子にロープでしっかりと縛られた両手両足を見下ろした。

 俺は完全に身動きが取れない状態になっていた。

 この村の歓迎の儀式だからという言葉に不審を抱きながらも応じたのだが、一向に両親が俺のロープを解かないのを見て、ただ単に拘束されているだけだということを察した。

 だから、さっきからこうやってリーファが身動きできない俺の代わりに料理を口に運んでくれているのだ。


 俺の夢は中々覚めそうになかった。

 いや、もはや、これが夢じゃないということは本能的に理解しつつあった。

 単に受け入れたくないだけだ。

 多分、俺はこの世界に転生している。

 さっき思い出した。

 そう言えば昨日の夜、パソコンで作業をしている途中に突然、胸が苦しくなってそのまま意識を失ったことに……。

 そして、俺は目の前の少女にオークとして召喚された……多分。


 それと……。

 俺は両親を見やる。

 なんとなく気がついていたが、俺はリーファを除くこの家の住人からあまり歓迎されていないようだ。

 いや、それどころか明らかに目の前の両親から殺意を感じる気がする。

 現に、


「ルーちゃん、スープ飲む?」


 さっきからリーファがしきりに飲ませてくれようとしているスープの色が俺のだけ明らかに濁っている。

 何も知らないリーファが優しさから俺にスープを飲ませてくれようとするが、


「お、オークはスープが飲めないんだ……」


 と、適当な嘘をついて丁重にお断りするとリーファは「ママのスープ美味しいのに……」悲しげな表情を浮かべる。


 ちっ!!


 と、その直後、舌打ちのような音がリーファの両親の方が聞こえたような気がしないでもないが俺はあえてそれを無視する。

 リーファはしばらく悲しげにスープを眺めていたが「ルーちゃんが食べないなら、私が食べる」とそのスプーンを自分の口へと持っていこうとする。

 が、


「リーファ、食べちゃダメっ!!」


 その直前に、電光石火のごとくリーファのそばにやってきた母親がリーファの手からスプーンを取り上げる。


「それにはどく……いや、それはルドルフさんのだからあなたは自分のを食べなさい」


 そう言うとスプーンをスープの皿に戻す。

 今、毒ってはっきり言ったよなっ!?

 何をどう言い間違えたら毒なんて単語が出てくるんだっ!?


 明らかに殺しに来ている両親に俺は固唾を飲む。

 リビングに緊張が走る。


 なんだよ。

 なんなんだよ……。

 俺、何か悪いことでもしたのか?

 少なくとも、相手を怒らせるようなことを口にした覚えはないんだが……。


 この緊迫した空気にリーファだけは気づかず、また俺のそばに座ると今度は俺の縛られた腕にしがみつく。


「ねえねえ、パパママっ!!」


 リーファは俺の腕に頬をすりすりさせながら両親を見やる。


「ど、どうしたのかい?」


 父親が相変わらずの苦笑いで返事をする。


「私、明日からルーちゃんと一緒に旅に出かけるのっ!!」


 リーファがそう口にした瞬間、部屋の空気が凍り付いた。


「リ、リーファ、パパをからかっちゃいけないよ」

「ううん、私、からかってないよ。明日からルーちゃんと一緒に旅に出かけるの」


 と、相変わらずの屈託のない笑顔でそう続けるリーファ。

 それを見て父親は頭を抱える。


「り、リーファ、あなたはまだ八歳なのよ。まだ旅は早いと思うわ」


 今度は母親が諭すようにリーファにそう言う。


「でも私はモンスターを召喚したのよ。この村ではモンスターを召喚した子どもは、旅に出て一人前の魔術師になるまで帰ってきちゃいけないっていう決まりがあるんだよね?」

「そ、それは……」


 と、口ごもる母親。

 どうやら、何が何でも彼女と俺を一緒に旅に出したくないようだ。

 そもそも旅って何のことなんだ?

 両親の表情を見ている限り旅行のような生温いものではないようだ。

 と、そこで母親はふいにハッとした表情でリーファを見やった。


「そ、そうよ。リーファ。このオークはあなたが召喚したんじゃないの。召喚したように思ったけど、実は森から出てきただけなの。だから、リーファはまだ召喚はしていないのよ」

「え~? でも、ルーちゃんの肩には召喚獣だってことを示す紋章がちゃんと入ってるよ」

「入ってないわ。これは木にでもぶつかってできた傷跡よ」


 いや、無理があるだろ……。

 俺は右肩にくっきりと刻まれた紋章を見やった。


「ねえ、あなた……」


 母親は今にも泣きだしそうな目で父親を見やる。

 父親はしばらく考え込むように頭を抱えていたが、


「モンスターを召喚ししまった以上、速やかに召喚獣登録に村役場に行かなければならない」

「それはマズいわっ!! リーファがよりにもよってオークを召喚しただなんて村の人たちに知られたら……」


 どうやらこの世界ではオークという生き物はかなり嫌われているようだ。そう言えば、さっき母親がリーファにオークが出るから遅くまで出歩いてはいけないと言っていたが、おそらくこの村は昔からオークの悪さに悩まされていたのだろう。


「ねえ、なんとかこのオークを始末できないの?」


 と、いよいよ包み隠すことを止めて物騒なことを言い出す母親。


「始末って言ったって。召喚したモンスターを殺したなんてバレたらただでは済まないぞ」

「そんなのバレなきゃいいのよ。殺して、紋章を削ぎ落せばなんとかなるわよ」


 子供の前でなんちゅう話をしているんだ。こいつらは……。

 そこでリーファはようやく俺が家族からよく思われていないことに気がついたようで、俺の前に立つと俺を守るように両手を伸ばした。


「ルーちゃんを虐めたらだめっ!!」

「リーファ、そこにいるのはオークなのよ。オークはとても野蛮な生き物でお友達になんてなれないの」

「そうだぞ、リーファ。お前にはもっとふさわしい召喚獣がいるはずだ。だから、そいつは湖にぽいしなさい」


 ポイしなさいじゃねえよ。

 何、海辺で拾ったゴミみたいな扱いしてくれてんだよ……。

 ってか、こいつらはどこまでオークのことを忌み嫌ってるんだよ……。

 親をオークにでも殺されたのか?


「お祖父ちゃんだって凶悪なオークに殺されたのよ。そんな生き物と冒険だなんてもっての外だわ」


 本当に殺されたのかよっ!?

 予想外の言葉に俺は絶句する。

 なるほど、この二人がオークを忌み嫌う理由をようやく理解した。

 そりゃ確かに親を殺されたのならここまで俺を憎むのも理解できないでもない。

 とはいえ、このまま殺されるわけにもいかない。

 そして、リーファも俺を殺すという意見には大反対のようだ。


「お祖父ちゃんを殺したオークとルーちゃんは別なの。ルーちゃんはきっと私のことを守ってくれるわっ!!」


 なんて優しい子なんだリーファは……。

 必死で俺のことを庇ってくれる優しいリーファに思わず涙がこぼれそうになる。

 リーファを眺めていると命を賭けてでも彼女のことを守りたいという感情が芽生えてくる。

 そんなリーファの訴えに両親は困ったように顔を見合わせていた。

 そして、


「と、とにかく、今はまだ誰にもこのことはバレていない。とりあえず、一晩考えてどうするか決めよう……」


 父親は沈痛な面持ちでそう言うとスプーンを置いて寝室へと入っていった。

 母親は「どうすればいいの……」と失望したように顔を両手で覆っていた。


 考え得る限り最悪な状態だ……。


 とにかく、この場から逃げ出さないとまずい。

 だが、俺の両腕両足は固く縛られたままで自力では抜け出せそうになかった。


 なんとか身動きを取ろうと体を動かす俺を見てリーファは「ルーちゃん……」と悲しげにつぶやいた。


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