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#1 夢かと思ったが、どうやら夢じゃないっぽい

実験的に連載開始しました。

好評ならば続けます。

 目を開くと茜色に染まった空が広がっていた。

 背中と後頭部にチクチクとした。が、すぐにそれが芝生の感触だということに気がついた。

 俺はゆっくりと上体を起こすとぼんやりと目の前の光景を眺める。

 そこはどこかの小さな丘だった。そして、目の前には大きな湖が夕日を反射させていて俺は思わず眩しさに眉を潜める。

 と、そこで誰かが俺の顔を覗き込んだ。


「あなたが私のモンスター?」


 それは少女だった。

 年齢はそうだな……八歳前後だろうか?

 女性と呼ぶにはまだ早すぎるその少女は碧い目を丸くして不思議そうに俺の顔を見つめていた。

 外国人?

 少女のブロンドの髪は風にゆらゆらと靡いている。そして、彼女の肌は透き通るように白かった。

 そんな少女を眺めながら俺は現状を整理する。

 そうだ。俺は確か昨晩オフィスにいた。

 いや、昨晩どころかその前も、さらにその前もオフィスにいた。

 目を閉じると栄養ドリンクの散乱した机が触れられそうなぐらい鮮明に思い出すことができた。

 そりゃそうだ。だって、俺はここ三日三晩、ほぼトイレとデスクの往復しかしていないのだから。


 なるほど……。


 と、そこで俺は理解する。

 きっと、ここは夢の中だ。

 あまりの疲れにデスクでそのまま眠ってしまったのだ。だから、俺は今すぐ目を覚まして業務の続きに取り掛からなければならない。

 でも、どうやって目を覚ませばいい。


「私の名前はリーファ。あなたは?」


 そんなことを考えていたら目の前の少女が再び口を開いた。

 しかし、可愛い女の子だ。

 目の前の人形のような少女に俺は感心してしまう。俺はどちらかというと鮮明な夢は見ないほうだが、この夢は驚くほどに鮮明だった。


「もしかして名前がないの?」


 何も答えない俺に少女は言葉を続ける。


「じゃあ、私がつけてあげるね。あなたの名前は…………ルドルフよ」

「ルドルフ……」


 俺の名前はルドルフ……。

 なんだよ、その外国人みたいな名前は。

 典型的弥生顔の俺にこの少女はよくもまあルドルフなんて名前をつけたもんだ。


「私があなたを召喚したのよ。召喚をするのは初めてだったけど上手くできたみたい」


 召喚?

 召喚ってのは、ゲームなんかで魔術師がモンスターを召喚したりするあの召喚のことか?

 よくわからない夢だ。

 よくわからないなら聞いてみればいい。


「きみが俺を召喚したのか?」

「そうよ。それでね、これから私はあなたのお友達なの。一緒にダンジョンに出かけて強くなるの」

「ダンジョン……」


 またまた、ゲームで聞いたことのある単語が少女の口から飛び出した。

 おいおい、なんなんだ、この夢は……。

 早く目を覚まして仕事の続きをしなければ上司に怒られるのに、ちっとも目の覚まし方がわからない。


「リーファっ」


 やや、動揺しながらも少女の顔を眺めていると背後から声が聞こえた。

 振り返るとそこには少女同様にブロンドの髪をした女性が遠くからこちらに向かって駆けてくるのが見えた。


 どうやら女性は少女の母親のようだ。少女は「ママっ!!」と嬉しそうに叫ぶと、女性の方へと駆けて行った。


「帰ってくるのが遅いから心配したのよ。こんなところに暗くなるまでいたらオークにさらわれて酷い辱めを受けるわ。さあ、帰りましょう」


 女性はそう言うと少女の手を引いて歩いていく。


「ルドルフ、帰りましょっ!! パパとママにあなたのことを紹介するわ」


 が、少女はそう言うと母親の手を放してこちらへと駆けてきた。

 その直後だった。


「きゃっ!!」


 女性は俺の顔を見るや否や血相を変えて叫び声を上げる。

 まるで目の前にゾンビでも現れたかのような驚きようだ。

 どうやら、俺を不審者か何かかと思っているようだ。


「ママ、違うの。このオークは私の――」


 と、少女は何かを言おうとした。

 が、その前に、女性は「リーファっ!!」と叫ぶと慌てて少女のもとへと駆け寄ると少女の手を強引に引いて、少女を俺から離す。

 そして、まるでケダモノでも見るような目で俺を睨むと少女を自分の背中に隠す。


「娘には指一本手出しさせないわっ!!」

「いや、ちょっと待ってくれ。俺はただの――」

「いえ、待つものですかっ!! この汚らわしきオークめっ!! 私の娘を連れ去ってどんな汚らわしいことをするおつもりっ!!」


 オーク?

 確かに今、女性はそう口にした。

 オークってのは確か空想上の生き物で、俺に知る限り醜い邪悪な生き物のはずだ。

 この女は俺をそのオークだと言うのか?

 おいおいちょっと待て。

 俺は人間だ。ってか、そんなの見ればすぐにわかるだろ。

 ほら、この手だってあんたたちと同じ……。


 と、そこで俺は気がついた。

 俺の手が緑色に変色していることに。

 ってか腕太すぎだろっ!!

 なんだこの腕、腕枕のせいで血流が悪くなったのか?

 いやいや、そんなレベルじゃねえ。

 ってか、これって夢だよなっ!?

 そうだよなっ!?


 いや、待てっ!!


 と、そこで俺は慌てて背後の湖へと駆けだすと、水面に映る自分の顔を見た。

 そして、気絶しそうなほどに驚いた。

 俺の顔は誰がどう見ても人間と呼ぶには醜すぎる。

 自分の容姿の変化に気がついた俺は半狂乱で立ち上がると女性の方へと歩み寄る。


「こ、来ないでっ!!」

「い、いや、そう言われましても……」


 違うんだ。

 見た目はこんなだけど、俺は人間で……。

 縋るような思いで俺は女性へと歩み寄っていく。

 すると女性は少女を背中に隠したまま、右手に持っていた大きな杖のような物を俺に向ける。


「あ、あなたがリーファに何をしようとしているのかは知らないし、想像もしたくなけれど、あなたはこれから消し炭になるのよ」


 どうやら、彼女はないかしらの方法で俺に危害を加えるつもりなのだ。

 それはまずい。

 俺は慌てて女性に駆け寄る。

 どうやらそんな俺が女性にとってはとんでもなくおぞましい光景に見えたようだ。

 女性は恐怖のあまり、後退りしようとするが、その拍子に足をもつれさせて尻餅をついてしまった。


「きゃっ!!」


 倒れこむ女性に俺は必死に訴える。


「違うんだ。俺はただの通行人というかなんというか……。と、とにかくあんたらに危害を加えるつもりは全くないんだっ!!」


 そう叫ぶが、恐怖のあまり女性にはその声が聞こえていないようで。


「やるなら私だけにしてっ!! この子には指一本触れないでっ!! ケダモノっ!!」


 そう言って少女を抱え込むと必死に俺から少女を守ろうとする。

 が、


「ママ違うのっ!!」


 そんな母親に少女は叫んだ。


「この子は私が召喚した私のお友達なの。だから、そんな風に言わないでっ!!」


 その声があたりにこだますると同時に必死に少女をかばおうとしていた女性の動きがぴたりと止まる。


「しょ、召喚っ!?」


 素っ頓狂な声が響く。

 女性は目を剥いたまま少女を見つめる。


「リーファ、もしかして、このオークはあなたが召喚したというの?」

「うん、私、どうしてもダンジョンがしたくて、パパとママはダメだって言ったけど、我慢できなくなって……」


 そう言って俯く少女。

 女性は尻餅をついたまま俺を見つめた。


「ど、どーも、ルドルフっす。よろしくお願いします……」


 俺はそう言って手を差し伸べると、女性は放心状態で俺の顔を見つめていた。

 それでもなんとか、俺の方へとその手を伸ばそうとしたが、彼女の手が俺に触れるか触れないかのところで彼女は白目を剥いてその場に倒れこんだ。



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