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NO DIE!!!  作者: 雨中仁
6/8

束の間の休息

「......はぁ」


部屋で天井を見つめながら小さなため息をつく。


あの事件から数日が経った。


高校はあの兄弟の爆破により敷地の5分の1が焼け野原と化し、現在は復旧工事とともに、


生徒は安全のため数日間自宅待機となった。


敷地外にも爆撃は広がっていたが、運よく被害にあったのは更地だったらしい。


だが、被害者の数が多く、戦後最大、最悪の爆破事件となった。


このニュースは瞬く間に広がり、犯人としてフレデリカ兄弟の名が挙がっていた。


警察は海外のテロ組織の一員と見て捜査している。




「...でも、俺が助かったことで、沢山の人が死んでしまった...」


...そう。俺を確実に殺せる攻撃をするよう仕向けたのは紛れもなく俺が考えた案だ。


辻宮さんもあそこまで被害が大きくなるとは思ってもみなかっただろうし、


俺が確実に能力を発動させることで、被害が大きくなってしまった。


能力を持って、少し調子に乗ったんだと思う。


この能力さえあれば不死身だ、と。




あの事件を考えるたびに俺は、体中に罪悪感が這い上がってくるのを感じていた。




Brrrr......Brrrr......


「...電話だ」


突如部屋に鳴り響く携帯のバイブ音。


掛けてきたのは辻宮さんだった。






「...もしもし、辻宮さん?」

「...えぇ、私よ」

あの後お互いの安全を確認するために電話番号を交換したのだ。

いつもの俺なら嬉しさで部屋中を犬の様に駆け回っていただろう。

だが、そんな気になれるはずもなかった。

「...体調はどうかしら。」

「あ、あぁ、大丈夫だよ。そっちは?」

「えぇ、何も問題はないわ。...やっぱり心配になってね。」

「...え?何が。」

「貴方の事よ。あの事件の日から、ちゃんとご飯は食べてるの?」

あぁ...そういえばここ数日ろくに飯も食えてなかったっけ...

「食べる量は減った...かな。」

「...そう。もうお昼は食べたの?」

あぁ。もう12時前なのか。早いな。

「いや。まだだよ。」

「...そうね、これからご飯に行かない?」

「え、でも生徒は自宅待機って指示が...」

「...いいから。駅前の銅像の前で待ち合わせましょ。」

「わ、わかったよ...」









あの日からかなり参ってしまってる。

外に出るのも何日ぶりだろう。

...母は今日も仕事だ。

母は俺が事件の当事者であるなんて知らないが、事件の被害者の一人だということで

むやみに事件について話しかけてこなかった。

これも親の気遣いという奴だろう。


しかし、何を着ていくか...まぁ飯だし。駅前なんてよく行く場所だし。

あんまり気張っていくやる気もないし。ジャージでいいか。




さて、着替えは済んだし、早いところ駅前に行くとしよう。












「...はぁ」

駅前の銅像に着いてからやっと自覚が出てきた。

「辻宮さんとお食事デートじゃないか...これ...」

あぁ。つい普通に了承したが、女子とのデートだなんて。

いやいや誤解するな、これはデートとかなんかじゃなく辻宮さんが俺を元気づけようとしてくれているだけであってデートじゃないそもそも俺みたいなモブがあんな美人の人と2人で食事できるだなんてあり得ないしあるわけがない、そうだあれは夢だ。きっと俺が妄想して電話を受けて勝手に駅前に来たんだ。そうだ。きっとそう...

「あら、随分早いのね。」

「...ッッ!!!」

辻宮さんだ。

ストライプのシャツに白スカート。なんというか、お嬢様感がすごい。

いや、彼女なら何を着ても似合うのだろう。天高く昇った太陽の日差しも相まって、

彼女はとても輝いて見えた。

「...?どうかしたの?」

「あっ、いや、なんでもございますん...」

「...ございますん?」

ついうっかり出てしまった。慌てると語尾が変になる癖。

いい加減直したいぜまったく。

「...それにしては、随分と...ラフな格好ね。」

「あっ!!いや、これはそのなんというか、辻宮さんには心を許したよという意思の表示というか、」

「ふふっ、いいわよ、別に。ただのご飯だものね。」

「はは...」

しまったぁ...もっとちゃんとした服着てくるべきだった...

「...それで、千鳥ヶ崎君。...あー。」

「...?」

「その、名前呼びにくいから、麻人でいいかしら。」

「えぇっっ!?!?!?」

突然大声を出してしまったせいで、周りの視線が一気にこちらへ向く。

「あ...あぁ、なんでもありません...はは...」

周りの人々は再び歩みを始める。

中には噴き出す人もいた。

「...はぁ」

「...それで、今日は何か食べたいものはあるの?麻人。」

「え、ええ、え、え、え、あーっっと、特に、なにも。」

あぁ。あぁ。こんなの初めてだよ。

女の子から下の名前で呼ばれるだなんて。

全身を血流が巡るのがわかる。

そのせいで唇がまともに動かずに、ごもごもと喋ってしまう俺。

なんと情けない。

「...その答えが一番困るのよ...」

「あはは...ごめん。そうだね...」

少し周りを見渡してみる。即座に目に入った牛丼屋を挙げてみることにした。

「うーん、牛丼なんかはどうだろ......あっ」

しまった。こんなスタイルのいい辻宮さんに牛丼食べたいなんていったら

”貴方、ほんとにデリカシーに欠けるわね”

とか言われる...だめだ、もっとこう、おしゃれなカフェとか...

「牛丼...いいわよ、あそこに行きましょう。チェーン店だけどいいかしら。」

辻宮さんが牛丼屋を指差して言う。

...あれ、いいんだ、牛丼でも。

俺は内心ほっとした。

...でも食欲無いから並も食えないぞ多分...




いざ店内に入ると、やはり平日の昼間なのか、

サラリーマンやOLの姿が多い気がする。

「あ、あそこちょうど席が空いてるね、あそこに座ろう」

「そうね」

俺と辻宮さんは席に座った。

「......」

「...うーん、どれがいいのかしら」

「......」

「すみませーん、牛丼の並盛をひとつと...麻人はどうするの?」

「あっ、俺も並盛で...」

「そう、えっとじゃあ、並盛二つでお願いします」

『かしこまりましたー』

「...ふぅ」

「......」

「......」

「......」

「...ちょっと」

「...ん!?なんだい?」

「なんだいじゃないわよ、さっきからボーっとしちゃって...」

「あはは、ごめんごめん、つい考え事をね」

「...あの事件の話は、当分考えない方がいいわ。」

「...でも、俺のせいで関係ない大勢の生徒が...」

「私はね、貴方が襲われた理由がなんとなくわかるの。」

「え?どういうこと?」

「昔見た本なんだけど...何年かに1回、望むもの全てを叶える”死神”がこの地に降りてくるらしいの。」

「うん」

「それでね、その死神は数人の魔術師を指名して、競わせるの。」

「ほうほう」

「”勝ち残った1人に、死神の力を与える”ってね。」

「...まさか、その死神が降りてくる時期ってのが?」

「勘がいいわね、おそらく今年辺りがその時期なの。」

...あれ、似たような話をどこかで聞いたような...

「...まさか、あの黒猫...!!」

「...やっぱり。すでに出会っちゃったのね。」

「あぁ。その時あの能力をもらったんだ。俺もよく覚えてないんだけど...」

「能力をもらったの?そんな前例はなかったはずだけど...」

「俺もよくわからないんだ。あの黒猫が何をしたかったのか。」

「うーん、おそらくだけど...」

「?」

「貴方、能力を貰うだけ貰ってまんまと騙されたわね」

「...でしょうね」

「どうせ気絶でもさせられて、その隙に参加の儀式でも済まされたんじゃないの?」

「...じゃないかな」

「まったく、とんでもない事件に巻き込まれてるわよ貴方」

「はは...体感してるよ...」

笑うしかない。なんて状況だ。

俺は全く関係ない話にパッと目についたからと巻き込まれたのだ。

「...じゃあ、あの兄弟もその競わせる一人に入ってたとかなのかな。」

「恐らくはね。だとしても、情報が早すぎる。彼らの得意とする魔術が透視の類か、それとも予知の類か。あるいは誰かに依頼されただけの単なる殺し屋か。なんにせよあの火薬武器は魔術によるものじゃなかったし、彼らがまだなんらかの能力を隠し持っているということは確実ね。」

「...辻宮さんが魔術師っていうのは事実なんだね...」

「あら、まだ私が厨二病をこじらせた幼気な女の子だとでも思ってたの?」

「ごめん、ついさっきまでは思ってた」

「...はぁ。」

辻宮さんが呆れたようにため息をつく。

そんな話をしてる間に、頼んでいた牛丼がやってきた。

「...まぁ、今は事件の事は考えずに、ちゃんと休息をとりましょう。貴方のその能力も使い放題じゃないだろうから。」

まだ実感はしていないが、この能力も使いすぎていたらそのうち使えなくなるのだろう。

ゲームとかでよくあるMPみたいなものだと思うが、もし体力に依存するものならば、

俺の場合すぐに限界がやってくることは見え見えだ。

「そう...だね。食べようか」

「ええ。いただきます。」

「いただきま...」

その瞬間。俺は信じられない光景を目の当たりにした。この何の変哲もない牛丼屋の中で。

「...?どうかした?麻人。」

「......辻宮さん、今すぐここを出よう。」

そこに見たものとは...








「おぉ、これが日本のいわゆるファストフードってやつか、弟よ。」

「......(多分そうじゃないかな、兄さん)」

「そうかそうか、金はたっぷりあるんだ、死ぬまで食えよ弟よ!」

「......(死ぬまで食べたら死んじゃうよ兄さん)」

「んなもん当たり前だ!!!ギャハハハハハ!!!!!」







ついこの間俺たちが殺されそうになった、アルフレッド兄弟が牛丼を食べているのだった。


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